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『ハニーボーイ』『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』映画星取り【8月号映画コラム①】

今回は★5も飛び出しました。そろそろ0.5刻みで表記をしたいのですが、どうやったらnoteで表示できるのかしら?
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記)

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:8月15日からTV Bros. note版でスタートする押井守監督の連載でインタビュアー&執筆を務めます。よろしくお願いしまっす!
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:呼吸で鼻にひっつかずペコペコしない、かつ可愛くて悪目立ちもしない、さらにリーズナブルな夏用冷感マスク探しに苦戦中。
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:最近は小学二年の息子と毎日寝る前にけん玉をやってまして、連戦連敗中です。


『ハニーボーイ』

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監督/アルマ・ハレル  脚本/シャイア・ラブーフ 出演/ノア・ジュプ ルーカス・ヘッジズ シャイア・ラブーフほか
(2019年/アメリカ/95分)

●若くしてハリウッドスターとなったオーティスは撮影などのストレスからアルコールに溺れて事故を起こし、更生施設へ送られる。そこでPTSDの兆候があると診断されたオーティスは原因を突き止めるために思い出を書き留めていたノートを繰る。真っ先に思い出すのは、前科者で無職ながら不器用な愛情表現でオーティスを振り回す父のことだった。

8/7(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
© 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.
配給:ギャガ

渡辺麻紀
父親は選べない
奇行でも知られるシャイア・ラブーフが、なぜそんな人間になったのか、その原因を赤裸々に語った伝記映画。しかも、元凶である父親をシャイア本人が演じているせいも手伝ってか妙な生々しさがある。演出もドキュドラマ風で、無名の役者が演じていたら勘違いしそうなくらい、というか無名のほうがよかったかも。シャイアくん、この映画を作ってトラウマを乗り越えられたんでしょうか。★は2.5です。
★★★☆☆

折田千鶴子
少年の成長振り返り記
個人的には、なぜか好感を持てないシャイア・ラブーフが自伝的な初脚本&自身の親父を超熱演。その親父がクソ過ぎてイタくて、もうイヤになっちゃう! 対して、シャイアの少年期を可愛い&上手過ぎなノア・ジュプ君、青年期を大活躍中ルーカス・ヘッジズ君が演じ、これがとってもイイ感じ。モア~ッと映像から立ち上がるノスタルジックな“物悲し切ない”空気も味わい深い。新鋭監督の次回作を楽しみにさせるも、評判の高さに比して“心に染みる”具合があと一歩。★3.5に近い…。
★★★☆☆

森直人
父と息子のリアルセラピー
これは泣ける! 「毒親」モノの中でも別格&破格の一本。なんせ俳優シャイア・ラブーフがリハビリ治療として書いた自伝的脚本を映画化したもので、子役時代にトラウマを受けた問題の父親役を自分で演じている! グザヴィエ・ドランの『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』とも比較できると思うが、何より心を打たれるのは、ラブーフがダメ親父の生き様を自分の肉体と精神でなぞっていくことで、この特殊な演技体験が絆の回復として働いていること。自己セラピーの現場の記録がそのまま劇映画になった趣だ(監督さんはドキュメンタリー畑の人)。ボブ・ディランの「All I Really Want To Do」がドンズバの選曲。FKAツイッグスの映画初出演も注目ポイント。
★★★★★


『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』

ディックロング

監督/ダニエル・シャイナート 脚本/ビリー・チュー 出演/マイケル・アボット・ジュニア ヴァージニア・ニューコム アンドレ・ハイランド サラ・ベイカー ダニエル・シャイナートほか
(2019年/アメリカ/100分)

●米アラバマの片田舎でバンド仲間のジーク、アール、ディックの3人は夜な夜なバカ騒ぎをしていたが、突然の悲劇でディックが重傷を負ってしまう。ジークとアールはディックを病院に連れて行くが、面倒ごとを嫌った2人はディックを病院の前に置き去りにして帰路につく。翌日、ディックは死んで発見され、にわかに捜査が始まる。

8/7(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
© 2018 A24 Distribution,LLC. All rights reserved.
配給:ファントム・フィルム

渡辺麻紀
友人は選びたい
この監督の前作『スイス・アーミー・マン』は奇をてらいすぎて個人的にはダメだったのだが、今回はそれ以上にダメだった。何を描こうとしているのか、その肝心な何かがまったく見えてこないのだ。タイトルのディック・ロングが死んだ理由だけで1本の映画を作ったとしか思えないし、その理由もまるで笑えない。どうもこの監督とは相性が悪いようです。★は1.5点のつもり。
★★☆☆☆

折田千鶴子
アホ過ぎる事件の顛末記
前作『スイス・アーミー・マン』は笑えるような笑えないような戸惑いが消えなかったが、本作でこの監督の確信的な“仕立ての妙技”を堪能、異才を確信。親友の死への関りと死因を隠蔽しようと奔走する男2人の愚かさを、片田舎の長閑さがとぼけた可笑しさに転じて助長し、憎み切れないろくでなしに押し上げる。しかも“なぜ”が明らかになった瞬間、お口あんぐりと呆れつつ笑えてしまう。オウンゴールを狙うがごとく何度も父を突き落としかける幼い利発娘も最高。★3.5に近い…。
★★★★☆

森直人
「長いアレ」の悲喜劇
ぶっちゃけくだらない映画なんですが(笑)、意外にジワジワ来る。基本は露骨にコーエン兄弟。監督さんも『ファーゴ』の影響が強いです、と爽やかに公言している通り、悪循環の展開をオフビートなブラックユーモアで描くスタイル。だが常にアメリカの歴史や地政学に関する考察が作品に底流しているコーエン兄弟のA級感に対し、こちらは完全にB級仕様で、要はタイトルのネーミングがすべて。あとアラバマの田舎の些細な日常描写が最高。40過ぎてるくらいのおっさんがガレージバンドやって、白Tがヨレて穴あいてたり、洗濯機が汚かったり。米南部の白人男のトラッシュな生活感を「ダサかっこいい」モードに変換するセンスはすごく好き。
★★★★☆

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