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Facebookは私たちを分断しているのか(植田かもめ)

植田かもめの「いま世界にいる本たち」第4回
"Antisocial Media: How Facebook Disconnects Us and Undermines Democracy"
(アンチ・ソーシャル・メディア: Facebookはいかに私たちを断絶し、民主主義を蝕んでいるか)
by Siva Vaidhyanathan(シヴァ・ヴァイディアナサン)
2018年6月出版

マーク・ザッカーバーグは、私たちをつなげることによって、私たちを分断した。

なぞなぞみたいなこの言い回しは、本書に登場する言葉のひとつ。本書「アンチ・ソーシャル・メディア: Facebookはいかに私たちを断絶し、民主主義を蝕んでいるか」は、一冊まるごと使って、Facebookをひたすら批判する。

テーマは多岐に渡るが、中心にあるのは、英国のEU離脱や2016年のアメリカ大統領選挙などの政治プロセスにFacebookが与えた影響の検証だ。そして、Facebookの問題の核心はそのビジネスモデルにあると本書は主張する。この記事ではその核心についてだけ考える。

Facebookの顧客は誰か

めんどくさいこともときどきあるかもしれないが、個人としての私たちは、Facebookや他のソーシャルメディアを使って、たとえば親戚の子どもの写真を眺めるといったささやかな幸福を得ていると思う。

ただし、私たちはそれに対価を払っているわけではない。本書も指摘しているけれど、Facebookの本当の顧客はユーザーではない。広告主である。

ユーザーがどんな人間で何が好きかのデータをできるだけ多く集める。そして、「こういうタイプの人に広告を届けたい」と思っている広告主に対して、要望にマッチするユーザーへの広告を売る。これがFacebookのビジネスモデルだと思う。

つまり、ユーザーがFacebookをどう使うかと、ユーザーから仕入れたデータをFacebook がどう使うかは、当たり前だけど別々のプロセスだ。ぶっちゃけた話、Facebookに渡したデータがどう使われているか、ほとんどのユーザーは知らないし、興味もないと思う。

いつか「持続可能なソーシャルメディア」が生まれるかもしれない

だから、一人ひとりはFacebookを楽しんで使っているだけだとしても、たとえばそのデータが政治的な意図を持った広告主に悪用されれば、集団としての民主主義は蝕まれる。Facebookは個人にとって良いものだけど、集団としての私たちには悪いものだ、と本書は言い切っている。

けれども、個人が利益を得る一方で集団全体の長期的な利益が損なわれることって、実はよくあることではないだろうか。たとえば安価で美味しいハンバーガーを私が食べているとき、牛の放牧地を作るためにブラジルの熱帯雨林は破壊されているかもしれない。

だとすれば、たとえば食品業界が持続可能な自然環境の保全に取り組むように、社会を破壊しない「持続可能なソーシャルメディア」がいずれ生まれてもいいはずだ。それがアップグレードされたFacebookなのか、まったく別のサービスなのかは分からないけれど。

シヴァ・ヴァイディアナサン著「アンチ・ソーシャル・メディア:Facebookはいかに私たちを断絶し、民主主義を蝕んでいるか」は2018年6月に発売された一冊。ちなみに著者の前作は「グーグル化の見えざる代償」というグーグル批判の本である。次作のターゲットは、アップルだろうか、アマゾンだろうかーー。

執筆者プロフィール:植田かもめ
ブログ「未翻訳ブックレビュー」管理人。ジャンル問わず原書の書評を展開。他に、雑誌サイゾー取材協力など。
Twitter: http://twitter.com/kaseinoji
Instagram: http://www.instagram.com/litbookreview/

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