ソフィーさん2_

フランス人がときめいた!日本の美術館

翻訳書ときどき洋書「エージェントが語る!翻訳出版」第7回
フランス人がときめいた日本の美術館
著:ソフィー・リチャード 訳:山本やよい
集英社インターナショナル 2016年4月発売

近ごろ、何かに「ときめき」ましたか?

「ときめき」というのは、恋する気持ちとよく似ているかもしれません。そんな「ときめき」によって生まれたのが、まさに今回ご紹介する『フランス人がときめいた日本の美術館』です。
本の1ページ目は、次のような言葉で始まります。

「わたしが日本に恋をしたのは子供のときです。」

そう語るのは、フランス人美術史家のソフィー・リチャード。エコール・ド・ルーブルを経て、パリ大学ソルボンヌ校で美術史を学び、修士号を取得。パリ、ニューヨークの名門ギャラリーで働いたあとロンドンに移り、フリーランスの美術史家として活躍しています。

ソフィーさんは幼い頃より、日本文化に親しんできました。井上靖や川端康成の小説を読み、熊井啓や黒澤明の映画を観ては、日本という国へ憧れを抱いてきたといいます。そして何よりも、日本の伝統的な美意識そのものに魅了されてきました。

彼女が日本を訪れることができたのは、ようやく20代になってからのこと。それ以来、何度も来日しては、大好きな美術館めぐりをしてきました。そしてある日、この本を書くきっかけにもなった、運命的な出会いを果たすのです。

まるで別世界! おしゃれな代官山の和風建築「旧朝倉家住宅」

代官山エリアを散歩していた時のことでした。ソフィーさんはふらりと、鬱蒼とした木立の奥に建つ、古い和風建築の家へやってきたのです。一般公開されていることを知り、中へと入ってみると、そこはまるで別世界のようでした。

「ここで目にすることができるのは、都会のコンクリートに囲まれた小さな奇跡です」

そう例えられるのは、代官山の人気スポット「ヒルサイドテラス」のすぐ裏手にある「旧朝倉家住宅」。その名の通り、政治家であった朝倉虎治郎により、住居として使われていました。関東大震災や第二次世界大戦の空襲による被害を免れた建物は、国の重要文化財にも指定されています。

手入れが行き届いているにもかかわらず、訪れる人が少ないこの場所。大都会のど真ん中で、伝統的な日本建築を心ゆくまで観賞しながら、静かに思索にふけることができるといいます。

「庭に面して角部屋があります。かつては当主がここを寝室にしていたのだとか。庭の眺めを楽しみたいなら、畳に座りましょう。庭に向かって開け放たれた障子が美しい風景の額縁となり、人の手が入った部分と自然のまま残された一角とが絶妙なバランスを見せています」

こうして「旧朝倉家住宅」との出会いにより、他にも日本にはたくさんの美術館があることを知ったソフィーさん。日本の美術館は伝統美術から現代アート、こじんまりした美術館から大型美術館まで、実にバラエティに富んでいるのだといいます。しかしその一方で、日本語の分からない外国人が、美術館の情報を手に入れることの難しさを痛感したのでした。

外国人旅行客のための、日本の美術館ガイドブックをつくる

そこでソフィーさんは本を書くことにしました。日本の美術館の世界について、海外からの観光客にも知ってもらおうと考えたのです。

10年かけて全国各地を訪ねて歩き、取材を行いました。そしてついに日本の「本当に訪れる価値のある」美術館について、一冊のガイドブックを完成させたのです。英語版 ‘‘The art lover's guide to Japanese museums’’ は本国イギリスで高く評価され、日本語版も第6刷と版を重ねてきました。

本の中で選んだ美術館について、ソフィーさんは個人的な好みが出ていることを断った上で、次のように述べています。

「この本はわたし自身の旅の物語、そして、わたし自身が選んだ美術館の物語です。」

しかしそのセレクトにこそ、ソフィーさんの「ときめき」と美術史家ならではの「センス」が光っていることは、言うまでもないでしょう。中には、日本に住んでいる私たちですら知らなかった美術館も、少なくないかもしれません。

専門的な日本美術についての詳しい解説はもちろんのこと、お役立ち情報 (営業時間、休館日、入館料など) に加え、美しいカラー写真、可愛いイラスト付きの“Sophie’s point”、おトクな周辺情報など、読んでいてワクワクするような工夫もされています。

フランス人から見た日本の美術館の魅力を再発見する

ソフィーさんは、日本文化に触れた時の自らの経験について、次のように振り返ります。

「すべてに美があふれていて、それまでわたしが知っていたものとは大きく違っていたのです。同時に、わたし自身の国の文化を新鮮な気持ちで見つめ直し、あらためて考える機会にもなりました。」

もしかするとソフィーさんが私たちに教えてくれる一番大切なことも、まさにそのような部分にあるのかもしれません。日本人のわたしたちがこの本を読むと、身近にありすぎて気づかない日本文化の魅力というものを、今一度、まっさらな心で見つめ直す機会となるのではないでしょうか。

また、本作が原案で、現在放送中のテレビ番組「フランス人がときめいた日本の美術館」は、この度、延長放送されることが決定しました。4月から9月までの全22話で、BS11チャンネルにて金曜夜8時から、TOKYOMXにて木曜夜8時から放送予定です。

同番組は、出演者がこの本を手に「旅人」となって、美術館を訪ねるシーンから始まります。番組を観たら、『フランス人がときめいた日本の美術館』を片手に、日本の美術館めぐりへと出かけてみたくなるはず。きっと、今まで知ることのなかった、日本の美術館の新たな世界がひらけてくることでしょう。

執筆者:山崎絢加 (営業部)

タトル・モリエイジェンシー発!エージェントの視点で、翻訳出版についてご紹介します。1年目のフレッシュ新人から、20年以上のキャリアを持つトップエージェントまで。さまざまなバックグラウンドのメンバーが交代で執筆します。

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