<第44回>「X(トランスフォーメーション)」の時代  ~ 御社の商品開発担当は「破壊的イノベーション」を起こそうという意欲があるか?


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 このコラムの「第34回」で、「構造変化は起こるのか? ~ DXは進むのだろうが、それって・・・」(https://note.com/turnaroundlabsk/n/nec99ee360b58)というタイトルで、世の中が構造改革、構造改革と騒ぐときも、後から振り返ると、それまでのやり方がドラマチックに変わってしまう構造改革が起こるケースは実は稀で、今回のコロナ禍においても、「DX(デジタルフォーメーション・・・デジタルによってそれまで変革が起こらなかった領域でも変革が起こる)」以外は、構造変化は起こらないかもしれない、というようなことを書きましたが、ここ半年の状況を見ると、ちょっと情勢は変わってきているようにも思います。

 コロナ禍が長引き、デジタル以外でも、SDGs、地球温暖化抑止など、これまで「起こるべきこと」であり、かつ放置されてきたことが、ようやく動き出し、その結果として、周辺の様々なことが変わらざるを得なくなっているように思うのです。

 デジタル領域だけの、DXだけでなく、様々な領域でトランスフォーメーションが起こっていく、「Xの時代」に入っていくような気がするのです。

冨山

 産業共創基盤の冨山和彦さんが、「コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社を作り変える」と大きな話をしていますが、まあどれ位の規模感で変革が起こるかは別として、単に、デジタルの有効活用によって社会や会社の仕組みが変わるだけに留まらず、社会のあちらこちらで全面的な変革が進んでいくかもしれないのでは?という直感です。


 ところで、コロナ禍で何かと暗いムードの漂う最近の経済動向において、唯一といって良いニュースは、株式市場の活況、つまり株価の上昇でしょう。
 ただ、この株高、実際は経済の実態や企業の利益水準とは乖離した上昇となっており、「なぜ?」という疑問をお持ちの方も多いと思います。


 企業の利益水準(earning)で株価(price)を割ったPER(Rはratio つまり株価収益倍率)では、日本株が現在(2021年1月上旬)20倍近辺、アメリカ株は25~30倍程度の数字となっていて、通常10~15倍位(株価の絶対値=購入価格が将来の利益の何年分でチャラとなるかということなので、10年分~15年分ということ)だとすると、株価は割高ということが言えるでしょう。

 但し、今のように中央銀行がお金を市中にばら撒いているような時期で、株式市場にも資金が多く入ってくるようなときは、PERの数字が大きくなる傾向がありますし、また将来の利益水準の上昇が期待されるような場合も、目先の利益水準で何倍と計算するPERは高めに出てくる、つまり高めのPERも妥当であると判断できなくもないということになります。

 そうした淡い期待が、単なる期待であって、実現しそうもないことを株式市場が認識したときには、株価の急激な下落が始まり、下がった時点で、PERの高かった時期について「バブルだった」と振り返ることになるのです。

シャボン


 ここで注意を要するのは、後で「バブル」だったと振り返られる相場も、上昇し続けているさ中には、「バブルだ」派と、「いや、〇〇〇という理屈で、PERの高さは説明できる」と抗弁する派が真っ二つに分かれ、そうした喧しい中で、株価が上昇していくということなのです。

 現在がバブルなのかは、急落が始まってからでないと明らかにならず、従って現在の、実体経済と乖離したように見える現在の株価も、はっきり判断できないことになります。

 ところで、株式全体の動きではなく、個別株で、この「大きな乖離」において常にその乖離水準が目立っているのが、EVのトップランナーたるテスラです。昨年3月、9月の経営危機の噂を撥ね付け、今やPERは何と200倍という、トンデモナイ「割高株」となっています。

 イーロン・マスクという稀代のベンチャー経営者に率いられたテスラですが、マスク本人が見通していたかは良く知りませんが、株式市場の投資家の見方は、何度か変身(トランスフォーム)してきた企業と言えるでしょう。
 その変遷をザっと振返ってみると、

 ①「EVの会社」としてスタート。EVはガソリン車のように日本企業が得意な「擦り合わせ技術」が不要な「モジュラー型」の商品であり技術力はさほど高くなくとも作れるというメリットがあった。EVは環境に優しいということはコンセンサスだったが、蓄電池は高価であるためガソリン車に対して競争力がないと思われていた。

 ②環境に優しいということでの補助金メリットに加えた急激な量産効果の加速で価格が急速に下落する。しかし、量産効果が大きく出てくる前に資金繰りに窮して破綻するのではないかとの観測も多く、株式市場でも、このイタチごっこにマスクは勝てないのではないか?との懸念は大きかった。。

 ③購入予約による資金確保などの奇策を繰り出し、何とか資金繰り危機を乗り切り、市場の予想を上回る量産結果により、マスクの大言壮語が現実味を帯びてきて、株価が上昇に転する。
 ※余談だが、このあたりの経緯は、アマゾンのジェフ・ベゾスが、赤字下でもシステム投資を継続・拡大し、結局圧倒的な通販でのリーディングカンパニーになったことを想起させる。

 ④さらに今後一層見込まれる量産効果で今後劇的に価格が下がると現在は見こまれている(日本電産の永守会長は、EVの価格下落により、2030年に自動車の価格は現在の5分の1程度になるだろうと言っている)。

永守

 ⑤EVの価格下落だけではなく、テスラが持つネットを使ったプログラムのアップデート機能において、テスラ車が既に、将来の「自動運転化」についての対応が内装されていることから、自動運転対応株としても評価されることになった。

 ⑥規制の変更などによって、EVが急速に普及するという見通しが強まり、そうなると各家庭に普及するEVの蓄電池が、インターネットを通じた地域のエネルギーのスマート化の切り札になるのではないかとの観測から、「総合エネルギー株」という見方が広がってきている。
 ※日産の「リーフ」が発売以来、大々的に主張しているが、発売台数が多くなく、あまり注目されていない。

リーフ

 ⑦さらには、SDGs の大きな潮流、再生エネルギーのコスト下落による急速な発電シェアの拡大に伴って、EVへの社会への熱い視線、為政者のEVシフトの声明の声は大きくなるばかりである。
 ※日本ではまだ再生エネルギーの発電シェアがそれほど高くなく、「EVシフトしてもEVの電気は化石エネルギーで作られている」といったトヨタ社長他日本企業の発言は、先進国では、未だに再生エネルギーのシェアが低い日本固有の事情と考えるべき。他の先進国では、発電は再生エネルギー、車はEVということでカーボンニュートラルを進展させることになる。

 上記⑥、⑦はほんの最近のことであり、また今後、各家庭に蓄電池をもつ機器として配備されネットでプログラムが書き換えられるテスラ車を使った、これまでの発想とは全く違う「新たな構想」をマスクは打ち出してくる可能性もあるのです。
 
 
 クリステンソンの名著「イノベーションのジレンマ」で言われている、「破壊的イノベーション」、つまりパラダイムシフトを起こすほどの変革をテスラは過去何度も実践してきているわけであり、既に、宇宙開発ロケットの開発でも先頭を走っているマスクが「何を言い出すのか」、そういう楽しみ=株価上の「プレミアム」もテスラのトンデモナイPERの構成要素の一部ではないか、とも思うのです。

クリステンソン

 クリステンソンの上記著作が出たときには、むしろ「イノベーションというものは、破壊的な、目が覚めるようなものだけではなく、持続的イノベーションも意味がある」という文脈で日本の「破壊的イノベーション狙いで、でも実際は何も開発できない」状況に警鐘を鳴らしました。

 「小さなものまで含めて、あらゆるものを変革していく」ことになった企業の商品開発部門は、大物狙いは止めて、開発の必要性、実際的な開発に動き出したように思いますが、今コロナ禍による生活様式の激変、IT技術の飛躍的な進歩を活用したDX、地球温暖化、人権意識の高まりといった社会における意識の変革の象徴たるSDGs、といった「変革期」に突入した今、再び、そして逆に「破壊的なイノベーション」にもチャレンジすることが求められることになるのではないでしょうか?

 企業の商品開発部門の方々の発奮を期待します。

 「破壊的イノベーションを起こす土壌は出来ていますよ。世界では既にそういう方向で、米中を中心に世界は動き出しています。
 世界の動向に敏感なアンテナを立て、破壊的イノベーションにチャレンジしませんか?さもないと御社は今回も世界から遅れてしまうかもしれません。

 
 さて、それではTESLA、そしてアメリカを中心とする現在の株式市場の状況ですが、「バブル」なのでしょうか?つまり将来急落はあるのでしょうか?

 私は、「ある」と思います。上記のように、「理屈になりにくいものが説明がなさること」自体が危険信号です。もちろん、資金がジャブジャブなのは変わらないし、株高の一つの要因であるバイデンのメッキが剝がれるのには、相応の時間がかかるとは思いますが、いずれ、高すぎる株価水準は是正されるものだと思います。


<ターンアラウンド研究所 https://www.turnaround.tokyo/  小寺昇二>

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