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【やさしい】内服の排卵誘発剤【不妊症ガイド】

たなかゆうすけです。

今回は内服の排卵誘発剤についてお話します。

内服の排卵誘発剤は、体の内部機構を利用してFSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌量を増加させる薬剤です。内服の誘発剤は

1.クロミフェンクエン酸塩(クロミッドなど)
2.レトロゾール(フェマーラなど)
3.シクロフェニル(セキソビットなど)

の3種類に分かれます。


クロミフェンクエン酸塩

クロミフェンクエン酸塩はかなり昔からある誘発剤です。日本では1968年に薬事承認されています。

脳の一部である間脳視床下部にはエストロゲンの受容体(ホルモンが結合する部分)があり、血液中のエストロゲン濃度をモニターしています。エストロゲンと結合している受容体が多ければ血液中のエストロゲン濃度が高く(≒卵胞が発育している)、結合している受容体が少なければ血液中のエストロゲン濃度が低い(≒卵胞が発育していない)と認識されます。血液中のエストロゲン濃度が高ければ卵胞をさらに発育させる必要がないためFSHの分泌量は低下しますし、低ければ卵胞を発育させる必要があるためFSHの分泌量は増加します。

クロミフェンクエン酸塩はこのエストロゲン受容体に結合する能力を持っていますが、エストロゲンとは認識されません。クロミフェンクエン酸塩が結合した受容体にはエストロゲンが結合できませんので、エストロゲンと結合できる受容体は少なくなり、そのため実際よりも血液中のエストロゲン濃度が低いと認識されます。これにより卵胞を発育させる力である卵胞刺激ホルモン(FSH)は増加します。

簡単に言うと、エストロゲンを実際より過小評価させて、卵胞が発育していないと誤認させる薬剤です。


レトロゾール

体内では、アンドロゲンという物質がアロマターゼという酵素の作用でエストロゲンへ変換されます。レトロゾールはこのアロマターゼの作用を邪魔します。アンドロゲンからエストロゲンへの変換が邪魔されることで、実際にエストロゲンの値が低下し、これは採血でも確認できます。レトロゾールは比較的新しい薬剤です。

エストロゲンが減少すると、間脳視床下部はエストロゲン受容体を介して卵胞が発育していないと認識します。これにより卵胞を発育させる力である卵胞刺激ホルモン(FSH)は増加します。

簡単に言うと、エストロゲンを実際に減少させて、卵胞が発育していないと誤認させる薬剤です。


シクロフェニル

シクロフェニルは、クロミフェンクエン酸塩の作用の弱い版です。説明は省略します。クロミフェンクエン酸塩やレトロゾールに比べると、使用する頻度は高くないと思います。


クロミフェンクエン酸塩とレトロゾールの特徴

比較的良く使用するクロミフェンクエン酸塩とレトロゾールについて、作用時間や副作用などの面から比較してみましょう。

クロミフェンクエン酸塩は比較的作用時間が長く、血液中の濃度が半減するのに(半減期といいます)が5日以上かかります。このため持続的に卵胞に刺激が入りやすいという性質があります。また、卵胞が23-28mmくらいまで大きくならないと排卵しにくい性質があります。副作用として、頸管粘液を減少させたり、子宮内膜を薄くしたりする作用が出現することがあります。

レトロゾールは比較的作用時間が短く、約2日で血液中の濃度が半減します。このため持続的に卵胞に刺激が入りにくいという性質があります。卵胞が18-20mmで排卵し、クロミフェンクエン酸塩と排卵のタイミングが異なります。また、クロミフェンクエン酸塩のような、頸管粘液を減少させたり、子宮内膜を薄くしたりする作用はありません。

実際は、これらの特徴を踏まえて使い分けするというよりは、適応に応じて使い分けることが多いです。クロミフェンクエン酸塩の適応は、排卵障害にもとづく不妊症で、排卵障害全般に使用できます。それに対しレトロゾールは、多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発と、原因不明不妊における排卵誘発が適応であり、厳密には排卵障害全般に使用できるわけではありません。

これらの使い分けについてはよくわからないことも多いと思います。基本的にはお任せいただければ大丈夫です。


次は注射の排卵誘発剤のお話をします。


妊娠を希望される皆様が、幸せな結末へたどり着けますように…

たなかゆうすけでした。

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