第880回 文化財の海外マーケティング
1、読書記録135
本日ご紹介するのは職場で定期購読している『月刊文化財』。
先日届いた684号の特集は
「美術工芸品修理に用いる用具・原材料」
日本の美術品に欠かせない和紙や木造彫刻にかかる技術についての専門的な論文が紹介されています。
その他にも令和2年7月17日に答申を受け、新たに登録有形文化財(建造物)になった物件の一覧、
いよいよ最後の21件となった令和2年度日本遺産認定ストーリーなどについての情報も掲載されています。
2、奈良の仏像が欧州へ
そんな中で今回取り上げたいのは
海野啓之 「奈良県主催 奈良の仏像海外展示について」というレポートです。
平成31年1月から3月にかけてフランスはパリのギメ東洋美術館で開催された
「古都奈良の祈り」展、
続く令和元年10月から11月にかけて英国のロンドンにある大英博物館で開催された
「奈良ー日本の信仰と美のはじまり」展に仏像が出展された際の記録になっています。
一つの県が主体となって海外へ情報発信をするという挑戦的な企画です。
パリには興福寺の仏像3躯、ロンドンには法隆寺の観音菩薩立像(国宝)や
東大寺の誕生釈迦仏立像等、唐招提寺から持國天立像、増長天立像、
西大寺の金堂透彫舎利容器(国宝)、法隆寺の聖徳太子坐像(重文)、薬師寺の地蔵菩薩立像(重文)などが出陳されました。
さらには春日大社の舞楽面(重文)、丹生川上神社の神像など神仏習合のテーマが盛り込まれました。
パリでの展示では興福寺から出るときには撥遣法要、会期の最初には興福寺の僧侶による開眼供養、閉幕法要が執り行われたそう。
運び込んだのは信頼の日本通運だというから驚きです。
資料と一緒に運搬のプロも渡仏していたとは。
開催期間中(54日間)は県職員が交代で派遣され、毎日資料の状態の点検と温湿度のチェックが行われたとのことです。
これだけの職員派遣では相当費用も負担が大きかったことでしょう。
その甲斐あって48日間で31900の来場人数となったようです。
続く大英博物館では室内空調について、各資料ケースごとに湿度が管理できるような体制を整え、なにかあったときには英国の国家保障の対象とするとの記述もあります。
そしてこちらの公開53日間でのべ約16万6000人が来場したとこのと。
ままだま日本のコンテンツが海外で評価を受けているということなのでしょうか。
こちらも閉幕法要は会場内で法要を営み、奈良から同行した僧侶たちが厳格な決まりを作っていたとのことでした。
3、リピーター効果
いかがだったでしょうか。
格式高く、その内装やたたずまいさえも趣がある両博物館で我が国を代表する仏像群はどう映えたのか。
本誌掲載の白黒写真からでも雰囲気は重文伝わります。
先方の博物館の職員の体制がしっかりしているからこそ、見せ方を意識した仕事がこれからは活きてくるのかなと勝手に思っていました。
実際この展示を見に行った方が、いつかは訪日外国人としてリピーターになってくれるのが理想的です。
文字通り「国の宝|である文化財を海外まで持っていくのも時間も費用も労力もこれまで以上に高い水準で求められるかもしれません。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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