第670回 大英博物館にこもって五百冊専門書を熟読した男

1、読書記録104

本日ご紹介するのはこちら。

なぜかTLで定期的に話題にのぼるこの方。

ふと手軽なブックレットを書店で見つけて衝動買い。

ちなみに前回の読書記録はこちら。

2、南方熊楠がどんな人物か

日本民俗学の創始者とされる柳田國男は彼と親しく、

日本人の可能性の極限かと思う
日本民俗学最大の恩人

とべた褒めしています。

さらには明治44年から大正2年に交わした書簡、131通を清書させて

製本し、『南方来書』という全10巻の本にまとめてしまうほどです。

彼のどこがすごかったのか。

著者は「説話学」というテーマを掘り下げて南方熊楠の魅力に迫ります。

3、知識量を武器に新たな境地へ

熊楠は明治になる直前、慶應3年に和歌山城下の金物商の子として生まれます。

地元の学校を出て、東京は神田の共立学校、後の開成学園に入学するのですから

将来を嘱望され、地元の期待を負う若者だったのでしょう。

同級生に正岡子規や秋山真之らがおり、

東京大学予備門に進学すると夏目漱石や山田美妙らとも同級になります。

しかし当時最高峰の学校は試験も厳しく落第して翌年中退。

そこからアメリカ留学の旅へ出るという思い切った行動に出ます。

各地の学校を転々とし、キューバにも渡り、最終的にはロンドンに向かいます。

ロンドンでは大英博物館において文献をひたすら抜き書きして学び

帰国までに500冊の本から抜き書きしたものが52冊のノートになったようです。

のちに柳田への書簡の中で、国王ジョージの秘蔵本や大英博物館にも一冊しか収蔵されていない貴重な本も抜き書きしていると述べています。

その成果として生み出されたのが説話学。

我々が思っているより世界各地には似通った説話が伝えられており、

比較対照することで見えてくるものがあるということ。

例えば日本の「こぶとり爺さん」と似た話はアイルランド民話にもあるし

猫の力を借りて富豪になる話や、シンデレラに似た話も洋の東西を問わず伝わっていることが紹介されています。

説話の類似性はその物語を共有している各共同体やそこに属する人々の心のあり方にも類似性が相似性が見出せるということになる、と理解されています。

さらに著者は踏み込んで

国や民族、宗教にかかわらず人間には類似性や相似性が備わっているということの自覚を促し、また文化的他者に対する興味関心や理解を促す教材としての価値や魅力も秘められているはずではないかと考える

と評価しています。

4、まだまだ紹介しきれない魅力

いかがだったでしょうか。

南方熊楠はなんにしてもスケールの大きな人物で

大学や学会というアカデミックとは断固として距離を置き、

在野であることを貫きました。

また友人たちに宛てた書簡には

最近は学問を楽しむのではなく、卒業とか生計を立てるための方便としかみていないものが多い

ということを嘆いたり

田舎者で視野が狭いから自分が珍しい発見だと思っても、世間からみたら陳腐なこともあるだろう、それでも自ら研究して見出したことがあるというのは満足できる娯楽だ。

と評したりしています。

自由に学問を楽しんだ知の巨人だということは言えるでしょう。

なにかというと仙人に憧れる漢詩読みではありませんが

誰のためでもなく、自分が楽しいから研究するのだ、という部分は理解できます。

今回は本書のテーマである説話学だけに絞りましたが

粘菌の研究など植物学の業績も多く、非常に多彩な教養を持った人物です。別の機会にまた紹介できればと思います。

さて本日も最後まで読んでくださった方に向けて宣伝。

3月1日に宮城県松島町で、講演会をメインとした歴史イベントを実施します。

入場は無料で、近代の地域史について、最先端の成果を目の当たりにすることができますよ。

100名が上限の会場に事前申し込みだけで70人を超える応募がありました。

ですが、いつもの常連さんだけではなく、

このようなイベントに参加したことのない方にもぜひ足を運んでいただいて

感想などをオフ会で語り合いたいと思いますので、

少しでも興味を持たれた方はこのnoteにコメントでもいいですし、

TwitterのDMでも、Facebookのメッセージでも構いませんので

ご連絡いただけると幸いです。

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