第736回 初代文化財保護委員決定

1、国会会議録検索システム

を使って「文化財」という言葉が国会でどう語られてきたのかを

少しずつみていくこのコーナー。

ちなみに前回はこちら。

2、第8回国会 衆議院 本会議 第8号 昭和25年7月25日

ここでは

京都国際文化観光都市建設法案(田中伊三次君外十六名提出)

奈良国際文化観光都市建設法案(東井三代次君外十五名提出)

の二つの法案が審議されていました。

国際文化観光都市とは

国際的な観光・温泉等の文化・親善を促進する地域として指定された都市

であるとされ、指定した地区の景観を守るために一定の制限をかける代わりに

整備事業に国から補助金を出す仕組みです。

この審議以前に大分県別府市、静岡県伊東市、熱海市ではすでに指定され

のちに島根県松江市、兵庫県芦屋市、愛媛県松山市、長野県北佐久郡軽井沢町などで導入されることになります。

この法案に反対したのは日本共産党の池田峯雄。

その発言をみると言葉選びは独特でユーモアがありつつもなかなか辛辣です。

資本主義下における古文化の保存に危惧を示した上で

この法案も、奈良と京都、その古代文化の価値を食い物にして、一部のものが金もうけをやろうという、みにくい意図から出したものであるということは明々白々なのであります。
まるで奈良や京都の古代文化を外国人の見せものにすることではないか。外国人のための観光ホテル、ゴルフ場、野球場、ダンスホール、キヤバレー、劇場、外国人の自動車が走るためのドライブ・ウエー、駐車場、さらに飛行場までつくる。あるいはまた国際賭博場をつくるというのだ。

と全面的な反意をあらわにします。

インバウンドを当て込んだ文化財活用を叫ぶ現代の日本にあっても耳に痛い言葉です。

今や、戰災都市を初め全国の住宅問題は依然として解決されておらない。河川の氾濫も年ごとに増加している。これに対して、政府の対策はきわめて怠慢である。これこそ第一番に考えなければならないことである。しかるに、かかる日本人のためではない、少くとも日本の働く階級の勤労大衆のためではない植民地的都市計画をやるというのは、言語道断であるといわなければならないのであります。わが党は、かような立場から、この法案に絶対に反対するものでございます。

外国人観光客をあてにした施策がコロナ禍で頓挫した今、

このような強い言葉で政府を批判できる代議士がどれだけいるでしょうか。

この池田の言説が正しかったかどうかは後の歴史を見た上で評価すべきでしょうが、

この国会では手続き論などに質疑は続きますが、本質的な議論はこれ以上なく可決の運びとなります。

3、第8回国会 衆議院 議院運営委員会 第8号 昭和25年7月27日

新たに発足する文化財保護委員会のメンバーとして

高橋誠一郎:経済学者で慶應大学名誉教授。吉田茂内閣で文部大臣を経験。

細川護立:旧熊本藩主、侯爵。伝来の宝物を永青文庫として保護。

矢代幸雄:東京美術学校(後の東京芸大)教授。日本における西洋美術史研究の祖。

一萬田尚登:日銀総裁として歴代最長の在任期間を記録。のちに大蔵大臣も務める。

有光次郎:文部官僚として教育改革に尽力。退官後は文部教育関係の審議会の委員を数多く務める。

という案が提示されています。

最初ということもあり、いわゆる文化財の専門家、という顔ぶれではないところが印象的です。

特に委員会でも異論はなかったようで

第8回国会 衆議院 本会議 第10号 昭和25年7月29日で同意をえる運びとなりました。

4、悲劇を乗り越えて

いかがだったでしょうか。

いよいよ後の文化庁である文化財保護委員会の委員が決まり、法隆寺・金閣寺の悲劇を乗り越えて、戦後の文化財保護政策が具体的に示されていきます。

引き続き国会会議録から読み取れることを少しずつご紹介していきたいと思います。


本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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