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第604回 日本人の死生観を表す舞台装置

1、ちょっと遅れたクリスマスプレゼントかな

本日届いたばかりのこちらをご紹介します。

『文化遺産の世界』Vol.35

特集 世界文化遺産 「百舌鳥・古市古墳群」

公式サイトから電子版で読むことができますので

ぜひ覗いてみてください。

2、目次

森屋直樹「百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録を祝して」

西川英佑「百舌鳥・古市古墳群の特徴と保存・活用の取り組み」

和田晴吾「日本の古墳の特徴とその世界観」

岡田保良「わが国の世界遺産登録を顧みて」

徳田誠志「世界遺産「百舌鳥・古市古墳群」を構成する陵墓について

堺市文化観光局世界文化遺産推進室「百舌鳥・古市古墳群 世界遺産登録のあゆみ」

3、古墳が何を表現しているか

2019年7月に世界遺産に登録となったこの文化遺産の魅力を

様々な角度から紹介していますが、

本稿では和田晴吾氏の論考を取り上げようと思います。

本書でも何度も名前が登場する、世界遺産登録の日を迎える前に世を去った金関恕、水野正好についで運動を推進してきた大御所です。

古墳時代中期まで、5世紀中葉までの社会を首長連合体制と捉える筆者は

その政治制度の成熟期を体現する存在として百舌鳥・古市古墳群を捉えています。

農耕を基盤とする社会が、形と規模を基準とした格差に基づいた墳墓を築き、首長(リーダー)を死後の世界に送る儀礼も共有していた、という認識です。

首長たちのトップである大王は朝鮮半島や中国とも活発な交易を行い、多くのヒトやモノ、情報が行き交っていたのでしょう。

よく教科書などで登場する「倭の五王」と呼ばれる大王たちはこの百舌鳥・古市古墳群のどこかに眠っている可能性が高いと指摘されています。

著者は明治維新期の「近代化に向けての文明開化」になぞらえて

「古代化に向けての文明開化」とまで表現するほどです。

「古代化」というとなんだかグレードダウンしているような印象を受けますが、

「原始」から「古代」へと社会が変革しているということなのでしょう。

そして古墳が単なるお墓ではなく、当時の人々の世界観を体現していることを重要視します。

普通世界の権力者のお墓は地下や地上に神殿のようなものが作られますが

古墳は「舞台」であることが特徴で、

その「舞台」で何が演じられるかと言えば

権力者の魂があの世に向かう、葬送の儀式ということになります。

古墳にはつきものの埴輪も舞台装置と考えれば、

舞台と外との区画に用いられる円筒型の埴輪もあれば

魂が乗る船、みそぎをするための施設、武具や武人、屋敷など物語を演出する器物が多いこともうなずけます。

本書掲載のこのイラストのような姿が本来の古墳の姿です。

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4、知ることで見えてくるモノ

いかがだったでしょうか。

古墳というと、

ただ大きい山のようだ

とか

偉い人のお墓

という単純なイメージを持たれがちですが

世界遺産に登録されるくらいですから、

人類が共有すべき普遍的な価値

を有していると認められたことになるわけです。

それは東洋の外れの島国にも農耕社会が成立し

地域のリーダーたちを取りまとめる権力構造が出来上がり、

海を渡った交易まで行う規模になったとき

彼らの死生観まで表現した巨大な土木構造物が作られるようになり、

それが1500年以上たった現在でも良好に残されていること

それが価値なのだと思います。

全国に16万基以上あるとされる古墳。

その一つ一つが当時の社会構造の一端を示すモノだと思えたら

みる目が変わりませんか?


本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。




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