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心配しないで、うん。ねぇ、やっぱ帰るよ。録画たまってるし。

11月29日(月)午前3時45分

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ああ、悩んじゃいられないと思った。
僕は今日の仕事の後、実家に帰ろうかどうか悩んだ。だって29日に帰ったら、この「読書の秋2021」の感想文が間に合わなくなってしま
う。一泊して30日に戻るとして、でも30日の20時からは櫻坂46の配信ライブがあるので、それまでに書かなくてはならない。チケット代も払ったし、そのために久々に休みもわざわざとったわけだし、今更キャンセルしたくない。初披露の曲もある訳だし。多分終わったらライブの余韻で何も手が付けられなくなってしまう。だからその前に感想を書かなくちゃいけない。でも実家から帰ってきた時間(恐らく夕方)~20時の間にこの小説の感想を書ききれる自信がない。
え・・・・じゃあ、せっかく久々にこのために、500ページを超える本を買ったのに読んだのに、その金と時間が全てパアになってしまう。
だから悩んだ。昨日、11月28日、日曜でにぎわう店のの昼下がりレジを打ちながら瓶に入ったインスタントコーヒーの品出しをしながら僕はずっと悩んだ。サンタ型のチョコレートをラピングしている間も。クレジットカードを渡す子供をえらいねえらいねほめちぎる間も。「アドベントカレンダーありますか?」うるせえ明後日から12月だぞ残っている訳ないだろと毒づいてる間も。明日の帰り実家に帰るか否か。
けれど・・・帰宅後たった今、この500ページを超える本を解説含めてすべてすべて読んだ今、結論は出た。
帰ろう。今日の仕事の後は、部屋ではなく実家に帰ろう。
母親が入院する前に。

入院の日程が決まったと連絡が来たのは26日だった。2日(木)からとのことだった。約2週間の入院で、今回はちょっと長めである。
母親は、2019年から肺癌を患っている。
早期発見、ではなかった。ステージ3のBだった。それから時々、入院を繰り返す日々を送っている。1週間から2週間。手術をしたり、しなかったり。入院の時は必ず見舞いに行った。
そして僕は、本格的に病みはじめた。
もともと憂鬱質であったが完全に情緒不安定になり、頭の中では常にそのことがもたげる日々が続いた。突発的に泣きたくなることも多々あった。全部がどうでもよくなって、職場で自殺未遂に及んだこともあった。社員労働からパート労働を選ばざるを得なかった。無事心療内科にかかった。今でも手足にカサブタがたくさんできていて、それを掻いて血を出さないとどうにも落着かない時がある。皮膚科には1回行ったきりいっていない。パート労働のお給与ではそんな金の余裕はない。
母は訊く。
「皮膚科にはかかってるの?」
「うん」
「薬は飲んでるの?」
「うん」
社員からパート労働になったか根本的な理由を母親には話していないし、絶対一生話さないつもりである。

入院の内訳は、今までは飲んでいた抗がん剤に加えて、点滴の抗がん剤を打つため、とのことだった。
本当なら、労働定休曜日の12月1日(水)に帰ろうと思っていた。病院でも顔を合わせるだろうが入院前にも一回顔を合わせておきたい。けれど、2日(木)から入院となれば、直前日に実家に帰るのも気が引ける。2週間となるとさすがに色々準備もいるだろうし。
というわけで、「仕事終わりの29日(月)の夜に帰り30日(火)の夕方に部屋に帰る」のが一番現実的なのである。ライブ日程が30日(火)なのが功を奏した。それでは月末締め切りの「#読書の秋2021」に間に合わなくなる可能性が高い。
だから悩んだ末に、帰省をとりやめて30日は集中してライブみて、1日は部屋でのんべんだらりと過ごして・・・にしようと思っていた。
けれど、500ページを超える本書の最後の行まで読んだ時、僕は思った。
実家に帰ろう。帰らなくてはならない

なんでそう思ったのかは分からない。
500ページも超える本だしなんなら久々に新品で本も買った。皮膚科に行く金は捻出できないが何故か書籍を買う金は無限に捻出できるのである。不思議だ。閑話休題。だからこの金を・・・この貴重な税込み1000円弱の金を・・・無駄にするわけにはいかねぇんだ!!!という熱い気持ちからか?といわれると、違う。
なんとか納得できる。たとえこの感想文が30日23時59分59秒に間に合わなくとも、僕は納得できる。ああ。この税込み1000円弱の金で、微力確かに微力だけれどもそれで今傾いている出版界を支えたのだ。これだけ素晴らしい小説を世に出した三浦しをん先生のお財布を1円でも多く潤すことが出来たのだ(中古本は安いしロマンあるけどそれができない!)・・!!!!
でも帰らなくてはならない。入院前に一度会いに行かなくてはならない。

別に会わなくたっていい。問題ない。
母のことだ。もう準備は万全だろうし、僕に入院の手伝いをしてもらう事を望んでいないだろう。
でも帰りたい。帰って、母親が作ってくれたご飯を食べていつものように長寝をし録画してたまりにたまった「月曜から夜ふかし」をぐうたら母親とだべりながら見て、「それでは」。と、帰りたい。
迷惑。迷惑かもしれない。
でも僕はどこかで、「パートのお給与で心療内科嗜みながら一人暮らししている娘」の顔を見て安心したいと母が思っていることを、知っている。
寝てテレビ見てぐーたぐーたらパート先のあれこれを話すだけだが、それでも普段一人暮らしの母が邪険に思ってないことを知っている。
逆にそのぐーたらを見て毎度呆れながらも、安心していることを知っている。
だから僕は行くのだ。
入院前に、改めて「僕は一人暮らしでだらしない生活を送ってますよ~でもなんとかパートは修吾8時間労働それなり楽しくやってますよ~でも休日の午前そんなものは寝て潰せ!!!の送ってますよ~」をアピールし、入院前に少しでも、安心させたい。
100の電話10の手紙よりも、10分の直接会う時間の方が尊いことを僕は知っているから。
僕同様心配症の母のことだから。
だから・・・。


11月29日(月)午後9時45分-11月30日(火)午後6時30分
※一部省略・変更有

「ショッピングセンターの罰金が4月から増えんの」
「罰金って何」
「閉店時シャッターが1センチでも空いてたら1万円とられるの」
「ちゃんとしてんね~」
「でも来年4月から10万円になるの。1センチで10万円」
「たっか!」
「だからみんなみかじめ料って言ってる。
■■■■(ショッピングセンター運営している大手の凄い会社。CMもやってる)はヤクザだってみんな言ってる」

「12月1日から発売の商品在庫が60個中20個ないことが今日判明してやばかった。ブロック長の美咲ちゃんにばれるかもしれない」
「美咲ちゃん?」
「ブロック長。結構口うるさくて怖いから夜のスタッフはみんな美咲ちゃんって呼んでる」
「美咲ちゃんいくつ?」
「44か5」
「独身?」
「独身」
「ふーん」
「この前もレジ誤差が3000円出ちゃって美咲ちゃん激おこなのに・・・」
「そりゃそうしょ。美咲ちゃんは何も悪くないよ」
「まぁなぁ・・・今の店長仕事しないからなあ」
「そうなの」
「うんシングルマザーだから誰も強く言えないねん」
「店長いくつ?」
「30ちょい上」
「わっか。あんたとそんなかわらんやん」
「でも上がぐだぐだだとなんか下もぐずぐずになってるんだよな。なんでだか」
「うーん」

「ごほごごほほごほほっ!!!!!・・・は~痛い」
「うわぁ・・・それは早く入院してよくしてもらった方がいいわ」
「うん」

「そういやこの前櫻坂46の大園玲ちゃんとオンライン通話した」
「えええええ!!!????今テレビに映ってるあの子と!!!????すごおおおおい!!!!」
「えへへ・・・・・」
「どれくらいの時間?」
「ええ・・・だいたい30秒くらいかなあ」
「いくら?」
「3000円くらい」
「目を覚まして・・・目を覚まして・・・!!!」
「大園さんの数秒間をいただけるだけで十分ありがたいけど・・・いつか握手会とかやったら、行っちゃうんだろうなぁ」
「ええ・・・」
「ただでさえはしゃいでるのに直接会ったらどうなるんだろう・・・もう視界に入った瞬間倒れちゃうかもしれない」
「うわあ」
「東京から救急車で帰宅するかもしれない」
「きもい」

「おはよう」
「おはよう」
「無事、12時間寝ました・・・」
起床後実家のテレビは、坂上忍とおぎやはぎ映してることが多い。

「おかあさん、鋤骨5本折れてること言ったっけ?」
「いやきーてない。咳のし過ぎで?」
「うんそう」
「5本はヤバい」
「肺に水たまってたことは?」
「きーてないねぇ」
「それにやっぱり癌細胞があって、それで抗がん剤点滴になるねん」
「なるほどね」
「今回の点滴アルコールはいってるから針指して即千鳥足になるひともいるんだって」
「はえー」

「元旦はショッピングセンター閉まってるから、大晦日の夜に帰るね」
「分かった。でも車で駅まで迎えに行けないかもだから、おとう(単身赴任中)が行くかもしれん」
「ええ」
「うちの秋篠宮が迎えに行くで。うちの眞子を・・・」
「小室くんいつまでも現れんで申し訳ないわ・・・」
「あああああ・・・・」

「出来るなら静岡の人にしなさいよ」
「うん」
「お母さん、いつどうなってもあれだから・・・」
「でも、野田クリスタルと結婚したい・・・」
「えええ」
「この前野田クリスタルと牧場デートする夢も見たくらいだから・・・」
「えええ。面白くないじゃん」
「違う。あの芸名に「クリスタル」ってつけるセンスがええねん」
「えええ・・・」
「Twitterもフォローしてる。M-1どころかR-1とる前から・・・ずっと・・・」
「うわあ」

「ロイズのアドベントカレンダー、叔母さん送ってくれたけど入院するから使えないわ。あんたもってきな」
「わかった。あ、叔母さんいうたらさ」
「うん」
「昔「わたしがママよ」って漫画を、私が生まれた時にプレゼントしてくれたって言ってたじゃん」
「あれおもしろかったよねぇどこいっただか」
「うん面白かった。で、作者気になって調べたらな、」
「うん」
「「ごくせん」とか「デカワンコ」とか描いている人初期作品だった」
「へえ~!」
「そりゃ面白いよなって」
「デカワンコ懐かしいな」
「あと、こうなんだろう。出産祝いに漫画をあげるその感覚?」
「うん」
「秋篠宮(秋篠宮ではない)の遺伝を感じるわ・・・多分私その遺伝めちゃくちゃ受け継いでるわ・・・」
「そうだね」

「そういやこの前三浦しをんの『ののはな通信』って話を読んだの」
「うん」
「なんだろ、こうタイトル的に女の子の尊い友情みたいな文通みたいな上品な感じ想像するじゃん?」
「うん」
「思ったよりレズだった・・・」
「へえ」

「あ!!!アマノフーズだ!!!アマノフーズのインスタント味噌汁だ!!!!アマノフーズおいしいよねええ!!!」
「あげるあげる!ウィンナーとかハンバーグとか冷蔵品居る?入院だから腐っちゃう!」
「いる」
「赤いきつねは?」
「いる」
「みかんは?」
「いる」


11月30日(火)午後10時38分

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帰宅した。
いつも通り帰りの電車でそのまま実家の最寄り駅に行き、母親に車で迎えに来てもらう。風呂に入りご飯を食べる。鍋だった。
テレビはもっぱら撮りためた「月曜から夜ふかし」で、へらへら笑いながら、職場であったことを近況報告。そして0時前には二階にあがり、本を読みながら寝落ち。6時ごろには一回起きるも寝落ちて起きたら11時45分だった。テーブルの上にあった誰かのお土産のチーズケーキを3つ食べた後、「冷凍のうどんがあるから鍋にいれて食べな」、月曜から夜ふかし1回分が終わったところで鍋を洗って再び座り、みかんを手に取り再び違う回を見て、2階にあがり再び寝る。5時ごろに起こされ、「お好み焼きにしよう」近くの居酒屋のお好み焼きを持ってきてくれてる間僕は着替える。Hulu配信されているという静岡ローカル番組の誇り・「ぺこりーの」を見る。ピザを食べている飯尾さんを見ながら
「Go to ナポリ!って言うと思うな~」
予言しながらお好み焼きの上に乗っかった目玉焼きを崩す。美味しい。「じゃあ行こうか」という母親の車に乗り、気づいたらまた寝ていて、起きたらもうアパートの近くのところまで来ていた。
無事櫻坂46の20時からの配信ライブにも間に合い、余韻にも浸った。初披露曲「美しきNervous」の櫻坂感を残しながらの王道アイドル振り付けは良い意味で予想を裏切られた。MCの時にずっとファンの方向を見る大園玲さんの瞳は輝いていた。最高だった。
結局締め切り残り2時間切る中このnoteを書いている。
でもやっぱ、実家行っといて良かったと思った。

シワだらけのおばさんをいますぐ看取って、そして私に会いに来てよ、のの!p.248

本書ではののとはなはあれだけ、高校時代もそしてその卒業後も仲良くしていたのに、別れの予感なしに、唐突に、会えなくなってしまう。
それが僕は怖かった。
いくら肺癌と言えど、咳酷いとはいえ五体満足、車の運転も出来る。そんな今日明日死ぬわけじゃない。けれど、一人暮らしを近くでしている限りは少しでも多く会いに行っとこうと思った。見舞いも今週の土曜に行くことを宣言してきた。
「安心させたい」それも事実だけれど多分、僕は怖い。今年の年末は一緒に過ごせそうだが来年の年末は一緒に過ごせるのだろうか。とか。車の運転いつまでできるのであろうとか。母同様僕は心配症なのだ。
500ページを超える本書が伝えたい本質は、恐らく違う所にある。分かってる。実際感動したところはたくさんあって、ドッグイヤーはあらゆる箇所でおられている。感動した。生きるとはこういうことなんだと思った。それをここに書くつもりだった。
でもそんなに頭がよくない僕が咄嗟に思ったのは「今すぐ会いに行こう」これだった。

本書の終盤に出てくる「なにか」かもしれない。阪神淡路大震災の際幼い弟を守るためにタンスをさせ続けた幼い兄を突き動かしたもの。はなが終盤、婚姻関係立場家族のの総てを切り捨ててまでやり遂げたいと思ったもの。それの、凄く小さいやつ。
本書に出てくるように高尚で立派なモノではない。まぁ実際入院の手伝いもせず昼まで寝ていたわけだし僕は車を運転せず、母親の車の運転で実際部屋まで帰ってきてる。母の入院前だから実家に帰りたいという言葉の響きはいいけれど実体は目もあてられない。
でも、それでもそれに通じる小さいモノがあの時僕にあった・・・気がするのだ。
「今度こそちゃんとまじめ皮膚科にも行くんだよ」
「うん」
だから僕は決して後悔はしていない。
税込み1000円弱と高額で新品の文庫本を買った割に稚拙な感想文になってしまった、し、僕が思った「ああ、生きるとはこういう事なんだ」あの感動を未だに言語化することが出来ず、これを読んでいるあなたに1㎜たりとも伝えられていない。
けれども、この本を読んで良かった。
迷わず実家に帰って良かった。
その気持ちが1㎜でも伝わったなら僕はそれで満足だ。

みどりちゃんも、はなをとても案じている。でも家族だからこそ、その気持ちを率直に表せないこともあるんだ、と。p.513

2週間の母親の入院兼治療が、無事に終わりますように。
病状が少しでも良くなりますように。
そして少しでも少しでも長く、喋られて車の運転が出来て、今の状態が続きますように。
せめて、せめて80までは生きてくれ。
僕は孫は愚か恋人すらできたこともないんだ。だから、せめて挨拶しに伺うのイベントまでは生きてくれないか。


今日も僕は多分、夜明けまで眠れない。
右手にはスマホ、左手でめくれるカサブタを捜す。
きっと誰もが今は寝ている。母も、櫻坂46の大園玲ちゃんも、美咲ちゃんも。夜行性の僕はいつまでも起きていられる。実家であれだけ寝たんだから、多分寝るのは31時くらい。
そしてきっと明日の遅い昼下がり、目を覚まし、ミカンを食べてちょっと瞳を潤ませる。
段ボールに入っていた瑞々しい橙色の蜜柑は、甘くて、そして多分、僕は、きっと、ちょっと、泣くんだろう。

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