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悪いが、ハイラルを救う気は当分ない。

 ゲーム機を買うという行為が久しぶりすぎたし、お目当てのキルラキルは早々にクリアしてしまった。このままswitchを腐らせるのも忍びなく、血の沸き立つようなゲーム体験を求めて手に取ったのがこれだ。『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』である。

 オープンワールドという言葉がすでにジャンルとして確立されている現代において、このゲームに収録されているハイラル王国はまごうことなき「世界」であった。そこには自然があって、時間経過で気候は様変わりし、人々も魔物も等しく生活を営んでいる。しかも、その世界にはゲームならではの「見えない壁」は存在しない。画面に映る場所そのすべてに行くことができる。空が隠れてしまうほどの高さの崖が目の前にあるとして、スタミナを強化してそれを無理やり登ったり、上昇気流を発生させてパラグライダーで飛び越えたりできる。そしてその崖を登ると、まだ見ぬ景色が現れる。ブレワイの基本はその繰り返しだ。果てのない広大な世界を己の身一つで開拓していくロマンと達成感。未知の世界を旅するというTVゲームの楽しさの根幹をどこまでも追及した結果産まれた、凄まじい一作だということだ。

 冒頭、主人公リンクは記憶を失い、裸同然の状態で目覚め、突然ハイラルに放り込まれる。その後は物語説明を兼ねたチュートリアルを完遂すると、あとはどのように遊ぼうが構わない、自由なハイラルライフが始まる。ガノンを倒すためにメインストーリーを追いかけてもいいし、世界に散らばる祠を探したり、寄り道に全力を傾けたっていい。中には、初期状態で厄災ガノンに挑み世界を救った先輩勇者もいて、ジッサイ動画を観たら盾サーフィンで浮遊しながら祠をすり抜けて中に入るという挙動不審な有様だった。一方おれのリンクは最初に見つけた遺跡の中でガーディアンに瞬殺されたり、引き返す分のスタミナを見誤り溺死体になったりと、おれが遊んでいたのはゼルダではなくスペランカーだったのかと錯覚する程度には屍の山を築いていた。

 ブレワイは思いの外ハードなゲームだった。序盤から初期体力をワンパンで沈めるほどの強敵とたくさん出くわすし、このゲームにおける死因第1位は「落下死」で、操作がおぼつかない初心者が操るリンクは面白いくらい足を滑らせて崖から落ちたり、敵の攻撃を受け高所から落下して見るも無残な死体になり果てる。作り手もこのゲームバランスは承知の上なのか、死んでもペナルティはほぼ皆無だし、復帰のロードもそれなりに早い。この「負けるのが前提のゲームバランス」はシャニマスにも通じるところがあり、負けてもプレイが止められない理由はそこにあると思う。死んで覚えて繰り返して、その試行錯誤の上にたどり着いた景色は、どれも美しくて目を奪われてしまう。

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 本作をプレイするモチベーションは、行動範囲が広がっていく快感に尽きると思う。一つの目的地についたらまた一つ、また一つと気になるロケーションやスポットが増えていき、とりあえず高い所に登れば何かしら新しい発見や宝箱が見つかる。それを繰り返す内に、ハイラルを旅するという行為の虜になっていく。周りからはガノンを倒せだの姫を救えだの命じられるが、その類は後回しにしている。今は、このハイラルを旅するのが楽しくて仕方がないし、祠をクリアしてリンクの強化を急ぐのも、もっと高い崖を登り、もっと長く泳ぐためである。決してガノンを倒し世界を混沌から救おうなどという意識高いことはせず、今日も今日とて見知らぬ土地に出かけては、リンクの残機(∞)を削っていく。これぞ正しいブレワイとの付き合い方に違いない。悪いが、世界を救う気は当分ない。今後もハイラルに住まう民は混沌と魔物渦巻くカオスにお付き合いいただく。

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