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今はただ、『バーフバリ 王の凱旋』の全てを讃えたい。

 結論から申し上げますと、『バーフバリ 王の凱旋』は劇場の大スクリーン・大音響で真価を発する作品であり、必ずや鑑賞料金以上の満足度を得られる、全人類に胸を張って薦められる大傑作です。インド映画に馴染みがあろうとなかろうと、感じる面白さは変わりません。公開館数も限られ、公開終了する劇場も出始める今だからこそ、何よりも最優先して観ていただきたい一作です。

『バーフバリ 王の凱旋』とは

 映画ファンの間でも話題沸騰中の『バーフバリ』とは一体何か。本作はインドに伝わる叙事詩「マハーバーラタ」を下敷きとし、インド映画史上最大の製作費43億ルピー(約73.5億円,映画パンフレットより引用)を投じて製作された、一大歴史スペクタクル。

 2部作で描かれるのは、親子二代に渡る愛と復讐のドラマ。とある村に暮らす青年シヴドゥがひょんなことから自らの出自を知る現代パート、その父であるアマレンドラ・バーフバリが織りなす英雄譚と哀しい裏切りが明かされる回想パートを経て、舞台を再び現代に戻しシヴドゥがマヘンドラ・バーフバリとして真の王に覚醒するまでを、劇映画2本・計5時間にも及ぶ超大作で描き切ります。実は、本作はその二部作の後編にあたる作品ではあるものの、本作冒頭には前作『伝説誕生』のダイジェストが放映されるため、急ぎ本作のみを観てもおおよその流れをつかむことは可能です。むしろ、一作目を観てからではと思うばかりにこの『王の凱旋』を劇場で観逃すという悲劇を起こさぬよう、予習不要・復習必須であることを強調しておきます。

「カリスマ」の体現者・バーフバリ

 『バーフバリ』の魅力を無理やり言語化するのなら、常に“過剰・壮大・神秘的”であることに徹した映像の凄まじさでしょうか。前述した多額の製作費が可能とした、VFXと巨大セットが織りなす迫力のビジュアル。インド映画ならではの、歌とダンスによって説明過剰なほどに剥き出しになる登場人物のエモーション。そして何と言っても、目にも止まらぬ速さで繰り出される演舞的アクション、常に観客の発想の斜め上を超える軍師としての発想力、愛する家族と民を決して見捨てない尊き精神。それら全てを持ち合わせた王の中の王、バーフバリという漢の姿を目に焼き付けること、その喜びと興奮は、一度味わったら病みつきになること間違いなし。今年屈指の観るドラッグムービーです。

 本作の凄まじさを語る上で例を示しますと、本作の冒頭、国母シヴァガミ妃が聖火を頭に抱え神に参る行事の最中、パレードの騒ぎに驚いた像たちが暴れ出します。神聖な行事を中断することは神に反するため、歩みを止めることが出来ないシヴァガミ妃。そんな大事件の最中、バーフバリは巨大な神輿をたった一人で担ぎ出し像の動きをせき止め、その台車のわずかな隙間を道にあてがうことで、国母の命と神聖な行事を守り抜きます。

 本作はそうした、物理法則を無視したアクションシーンが全編に渡って繰り広げられ、バーフバリの豪胆さが幾度となく描かれます。そこにシヴァ神を讃える歌が付加されることで、バーフバリの神がかり的な行いが強調されます。その仰々しさ・過剰さはやがて笑いにつながり、最終的には涙へと昇華します。前代未聞かつ抱腹絶倒。古典的英雄譚でありながらフレッシュな映像のつるべ打ちに、観劇中は常に興奮状態が維持されてしまうため、前述の中毒者が後を絶たないのでしょう。

 バーフバリの王たる所以は、その力強さだけではありません。彼の前には貴賤も性別もみな等しく、全ての国民が愛すべき者たちなのです。戦争では常に最前線で兵士を導き、宮殿を追われても民と肉体労働に汗を流し、同じ飯を喰らうことも厭わない懐の深さを見せます。その正義感は決して階級に左右されず、位の高い者であろうともセクハラ犯にはエクストリーム有罪判決で断罪するなど、その政治は民衆の心を掴んで離しません。

 つまりバーフバリとは、「めちゃくちゃつよくて、みんなをあいするすごいやつ」のことなのです。母・妻・国民を巨大な愛で包み、どんな強敵からも守り抜く力を持つこと。それこそが王の資格であり、それを嫌味なく行動で実践すること姿を「カリスマ」と呼ぶのでしょう。今後、理想の上司ランキングが更新するとなれば、あのフリーザ様を下して1位確実のこの男、バーフバリの勇士を学ばずして、ビジネスの成功は有り得ません。この国の全ての企業は即刻「バーフバリ休暇」を制度化すべきであると提案したいのですが、どの党に投票したらいいんです?

 遠く離れたインドから突如送り込まれた神話的英雄譚『バーフバリ』は、アクション映画の表現をまた一歩エクストリームに進歩させた、アドレナリン過多なノンストップムービー。もはやこの魅力を伝えきるほどの語彙力を持たぬ自身の能力を呪う他ないのですが、後世に劇場で観たことを自慢できる、時代を代表する一本に数えられるのではないでしょうか。とにかく面白くて笑えて泣ける、観逃すにはあまりに惜しい一作です。ぜひ劇場で、真の王を讃えようではありませんか。

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