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兼業・副業の制度設計のポイント教えます

前回は小説で学ぶ人事労務「兼業・副業は会社に報告しなきゃならないんですか?」で兼業・副業について取り上げました。前回に引き続き兼業・副業をテーマにお届けします。

今回はコラム形式です。

コラム形式では、小説の筆者であり、管理部門の何でもアドバイザーのつな吉が、気になる時事ネタをピックアップし、ポイントをわかりやすく紹介していきます。

今回は、厚生労働省が2020年9月1日に発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(改定版)をみていきます。

このガイドラインのつな吉ポイント!
兼業・副業をする場合,本業の会社に副業先の会社名を伝えるのは抵抗がありますよね。兼業・副業について本業の会社への申告制度が設けられている場合があり、「何を申告すればよいのか」はまだ企業の判断にゆだねられています。このガイドラインではその指針を示してくれています。

このガイドラインを読むことで兼業・副業に関する自社の就業規則と制度設計がワンランクアップしますよー。

それでは、ガイドラインを引用しながら、気になる点をピックアップしていきます。従業員の兼業・副業に対する企業の対応についてからみていきます。

兼業・副業に関する企業の基本的な考え方

裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当であり、副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる。

3 企業の対応 -(1) 基本的な考え方 より (p.6)

つまり「副業・兼業を全面的に認めない」というのはそろそろやめてくださいね、と言っていますね。

「安全配慮義務」「秘密保持義務」「競業避止義務」「誠実義務」の4つの義務

「 基本的な考え方」(p.6)に「安全配慮義務」「秘密保持義務」「競業避止義務」「誠実義務」の4つの義務が記載されています。

ざっくりいうと、以下のようなことが書いてあります。

安全配慮義務: 労働者の安全に関する対策の指針
秘密保持義務: 自社及び他社の情報漏洩に関する対策の指針
競業避止義務: 競合他社における副業・兼業への対策の指針
誠実義務: 自社の名誉や信用を損なうような副業・兼業への対策の指針

順番にみていきます。

1. 安全配慮義務

安全配慮義務の定義として、労働契約法第5条の「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」を掲げています。

具体的には、企業が、労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながらも、何の配慮もしないまま、労働者の健康に支障が生ずるに至る場合が考えられるため、兼業・副業について、企業には以下の指針を推奨しています。

・就業規則、労働契約等(以下この(1)において「就業規則等」という。)において、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと

・ 副業・兼業の届出等の際に、副業・兼業の内容について労働者の安全や健康に支障をもたらさないか確認するとともに、副業・兼業の状況の報告等について労働者と話し合っておくこと

・ 副業・兼業の開始後に、副業・兼業の状況について労働者からの報告等により把握し、労働者の健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講ずること

時間管理と安全・健康管理が大切だと述べていますね。


2.秘密保持義務

秘密保持義務の定義として「労働者は、使用者の業務上の秘密を守る義務を負っている」を掲げています。

従業員が、所属企業の業務上の秘密を副業・兼業先の他社に漏洩した場合、および逆のケースが発生することが考えられるため、対策として、以下の行動を推奨しています。

・ 就業規則等において、業務上の秘密が漏洩する場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと

・ 副業・兼業を行う労働者に対して、業務上の秘密となる情報の範囲や、業務上の秘密を漏洩しないことについて注意喚起すること

本業や兼業・副業における秘密の漏洩については〈秘密保持契約〉を締結することで保護する場合が多いです。指針でもそれが述べられていますね。


3. 競業避止義務

競業避止義務の定義として「労働者は、一般に、在職中、使用者と競合する業務を行わない義務を負っていると解されている」を掲げています。

従業員が、本業の企業の競合となる副業・兼業先で働く場合、逆に他社の従業員が本業の企業で副業・兼業先として働く場合に、それぞれ競業避止義務違反が生ずる場合が考えられます。その対策として、以下を推奨しています。

・ 就業規則等において、競業により、自社の正当な利益を害する場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと

・ 副業・兼業を行う労働者に対して、禁止される競業行為の範囲や、自社の正当な利益を害しないことについて注意喚起すること

・ 他社の労働者を自社でも使用する場合には、当該労働者が当該他社に対して負う競業避止義務に違反しないよう確認や注意喚起を行うこと

ライバル会社で兼業・副業されてしまっては,本業の会社が出し抜かれたりして利益相反のリスクがあるため、これを制限できるようにとのことですね。


4.誠実義務

誠実義務とは「従業員は、企業の名誉・信用を毀損しないなど誠実に行動する義務」のことです。

従業員が、副業・兼業において、本業の企業や他社の名誉・信用を損なう場合が考えられます。その対策として、以下を推奨しています。

・ 就業規則等において、自社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができることとしておくこと

・ 副業・兼業の届出等の際に、それらのおそれがないか確認すること

兼業・副業先のお仕事が反社会的なものであったりすると、本業の会社にも影響がありますので、その点も注意が必要ですね。

労働時間通算の考え方

次に「(2) 労働時間管理」(p.9)をみていきます。

原則として、本業と副業・兼業先と締結している契約が〈雇用契約〉の場合には、労働時間が通算され、時間外労働や休日労働の割増賃金の計算がされます。

ガイドラインでは、下記の方は労働時間の通算の対象とならないと示されており、フリーランスなど場合は一般的には〈雇用契約〉以外の契約を締結していることが考えられます。

次のいずれかに該当する場合は、その時間は通算されない。
・ 労基法が適用されない場合(例 フリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事等)
・ 労基法は適用されるが労働時間規制が適用されない場合(農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度)

つまり、〈業務委託契約〉の副業の場合は労働時間の通算がされないこととなります。最近は〈業務委託契約〉の副業が増えてきているので、自身が締結する契約形態についてはよく確認することが必要です。

ここまでは企業側の対応でしたが、ここからは労働者側の対応についてみていきます。

(2) (1)により副業・兼業を行うに当たっては、副業・兼業による過労によって健康を害したり、業務に支障を来したりすることがないよう、労働者(管理監督者である労働者も含む。)が、自ら各事業場の業務の量やその進捗状況、それに費やす時間や健康状態を管理する必要がある。
 また、他の事業場の業務量、自らの健康の状況等について報告することは、企業による健康確保措置を実効あるものとする観点から有効である。

4 労働者の対応 - (2)より (p.18)

労働時間が通算され、過重労働となり、副業により過労で倒れてしまったり、本業に支障が出ないよう「兼業・副業する場合には,自分で時間や健康状態を管理してくださいね」と指針にも書いてあります。自己管理が大切です。

時間管理のアプリも厚生労働省からリリースされています(「マルチジョブ健康管理ツール」アプリ)。使ってみてはいかがでしょうか。

労働時間の通算については、別のコラムで詳しく紹介する予定です。お楽しみに。

 副業・兼業の確認

最後に、本業の会社への兼業・副業の内容についての報告ですが、兼業・副業先の企業名は報告しなくても良いこととなりました。指針では次のように述べられています。

副業・兼業の届出制について、次のように示されています。

(ア) 副業・兼業の確認方法
使用者は、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認する。その方法としては、就業規則、労働契約等に副業・兼業に関する届出制を定め、既に雇い入れている労働者が新たに副業・兼業を開始する場合の届出や、新たに労働者を雇い入れる際の労働者からの副業・兼業についての届出に基づくこと等が考えられる。使用者は、副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うため、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましい。

3 企業の対応 - (2) 労働時間管理 -  イ 副業・兼業の確認 より (p.10)

本業の会社に届出制を設けて内容を確認することで兼業・副業による労務管理をしっかりやってくださいねと述べられています。

(イ) 労働者から確認する事項
副業・兼業の内容として確認する事項としては、次のものが考えられる。
・ 他の使用者の事業場の事業内容
・ 他の使用者の事業場で労働者が従事する業務内容
・ 労働時間通算の対象となるか否かの確認
労働時間通算の対象となる場合には、併せて次の事項について確認し、各々の使用者と労働者との間で合意しておくことが望ましい。
・ 他の使用者との労働契約の締結日、期間
・ 他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻・ 他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
・ 他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続
・ これらの事項について確認を行う頻度

3 企業の対応 - (2) 労働時間管理 -  イ 副業・兼業の確認 より (p.10)

兼業・副業先の企業の事業内容と兼業・副業に従事する者の業務内容を報告してもらえれば、兼業・副業先の企業名を聞かずとも、競業避止義務や秘密保持義務に抵触しないかどうかの確認ができますね。

また、労働時間通算の対象となるか否かの確認ですが、これは契約形態が〈雇用契約〉かそれ以外かをまず確認することになります。よって、兼業・副業先と締結した契約が〈雇用契約〉なのかそれ以外の契約なのかが重要になってきます。

〈雇用契約〉やそれ以外の契約、例えば〈業務委託契約〉などについては、絶賛執筆中の「業務委託契約って何ですか?」をお楽しみに。

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