獏と蝶々

 大あくびが出た。どう考えても最近の悪夢のせいだ。
「ずいぶん眠そうだな?あのクソ会社やめてぐっすりじゃないのか?」
俺の数少ない友人の山内が心配してくれた。
「いやそれがどうもここ数日変な夢…悪夢が続いてなぁ。」
「悪夢ぅ?お前そんなの気にするタイプだったか?」
「同じような内容ばっかりなんだぜ?しかも寝覚めは決まって最悪。いやでも気になるさ。」
「あー…そういう悪夢って夢の中にいるときは妙に怖かったりするんだよな。で、どんな内容なんだよ?」
ランチセットについてきたコーヒーを啜りながら山内が相槌を打つ。
「夢だからよく覚えてないんだけど…なんか蝶と…変な動物が出てきて…人が死ぬ夢だった気がする。」
「わけわからん。」
「そりゃ夢だからな。でもおかげでせっかくの転職有給モラトリアムが台無しだよ。」言いながらまたあくびが出た。(さすがに約束ずらすべきだったかな…。)軽い後悔とともに窓の外に視線をさまよわせると、「夢占いねぇ…」ビルにくっついている看板が目に止まった。デフォルメされたゾウとアリクイの中間のような生き物が描かれている。そういや夢に出てきた動物もこんな感じだったな。
「ちょうどいい、この後行ってみないか?」コーヒーカップを空にした山内が好奇心が8割ほど含まれた声で提案してきた。
「いいけど相変わらずそういうの好きだなお前。」
「趣味と実益を兼ねた高尚な趣味を見習いたまえよ!蔵書はいつでも貸してやるぞ?西から東までどれでもどうぞってね。それにどういう占い結果になるか面白そうじゃん?」
そんな山内に苦笑いしながら俺はウーロン茶を飲み干し席を立った。

 怪しい…予想はしていたが露骨に怪しいぞここ…。扉の向こうから時折聞こえる何かの物音、焚かれている妙な匂いの香、変な感触の絨毯、曼荼羅のタペストリー、受付を済ませると出てきた茶らしき飲み物の味、と五感全てで怪しさを叩きつけてくるとは思わなかった。

つづく

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