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THE BOOM CONCERT TOUR 2002-2003 僕にできるすべて 2003年8月大阪、9月札幌

ツアーファイナルまでのカウントダウンがいよいよ始まってしまった。もうすっかりこのペースに馴染んでしまっていたのに、春が来ればまた青空の下で、というわけには今度はいかないようだ。だから、夏の終わりにTHE BOOMを追ってみた。

どの会場を選んでも、その会場でしかありえないライブになるのはこの3年間の経験でわかってるので、とりあえず「追っかけ」を決意していちばんすぐの2公演、8月30日の大阪万博記念公園と、9月7日の札幌MOERENUMA PARKに行ってきた。

■ 2003年8月30日・大阪万博“風に吹かれて”

万博は2年前の“万博スペシャル”はもちろん、去年の“MEET THE WORLD”など伝説的なステージを披露した特別な場所。札幌MOERENUMA PARKはコンサートが行なわれるのはこれが初めてという札幌郊外にある広大な公園。どちらも野外。で、どちらも、やっぱりこれぞTHE BOOMというステージになった。こっちの期待値をしっかり上回るのもやっぱり「これぞTHE BOOM」なんだけど。

万博は“風に吹かれて”というイベント。ピクニックエリアの最後方までたくさんの人が入っている。というか、もうこれ以上入れませんというぐらい満員。子ども連れも多い。芝生の上にレジャーシートを広げ、夏の太陽の下、のんびり座って音楽を楽しんでいる。

夕暮れ、ヘッドライナーのTHE BOOMが登場する頃には“雨に降られて”になったけど、「上から何か降ってるけど、気のせいでしょう」なんてMIYAのMC通り、雨に濡れるのももうあまり気にならない。そりゃ大山の豪雨を写真で見たときはビビったけど(でも少しうらやましかった。あんなドラマチックなシチュエーション)この3年間でこちらも少しはタフになったし、カッパを車の中に忘れるなんてこともない。きっとこの万博の会場で雨対策をしっかりしてたのはTHE BOOMのファンがいちばん多かったんじゃないかと無意味に威張りたくなる。あるいはあの雨の中、全然動じないのもTHE BOOMのファンかも。威張りたいねー。「こちとら、野外で鍛えられてんだから」なんて。

“ROCK IN JAPAN FES”と同じくスカ・ナンバーから始まった2003年フェス仕様の選曲(MIYAの滞空時間、長い!)。でも中盤はこのイベントならではの、2年前の“万博スペシャル”を思い出すようなコラボレーションの連発となった。まずはorange pekoeのふたりと「真夏の奇蹟」、コブクロとの「からたち野道」。そして、夏川りみさん、Kiroro(「読谷の元気娘!」とMIYAから紹介されてた)、シークレットゲストだったBEGINを招いての「涙そうそう」。ステージ上にいた総勢17人のうち、クラウディア大城を入れると1/3強が沖縄という、このイベントならではのセッション。沖縄のイベントじゃないのに。でも、そこがどこであろうがオーディエンスの心をぐっとつかむ強さが今のTHE BOOMにはある。「太陽の塔と一緒に、今すぐ沖縄に行こう。だれひとり置いていかないよ」というMIYAの言葉から沖縄系ナンバーが続いたのだけど、THE BOOMのファンだけじゃない、たぶん1万5000人ぐらいいる会場全体を「だれひとり」置き去りにすることなく連れていくパワーがある。「島唄」の歌い出しなんて観るたびに力強くなってない? 雨空に虹を架けてしまいそうな力強さ。それはアンコールで僕らをさらに高く、遠い場所に連れていってくれる。

「風になりたい」。全出演者がそれぞれの打楽器を持って登場して、この歌を高らかに響かせる。コブクロの黒田君はペットボトルを振っている。夏川りみさんは三板を鳴らしている。Kiroroはマラカス、orange pekoeはガンザ。比嘉栄昇はニューオリンズの洗濯板のような打楽器。SING LIKE TALKINGやSKOOP ON SOMEBODYはコーラスで加わってる。僕らオーディエンスはそれに両手をあげて応える。その昔、イベントの最後は「スタンド・バイ・ミー」をみんなでセッションするという「決まり」があったけど、「風になりたい」は新たなスタンダードとなって、こういうった場にも定着していくんじゃないかと思った。だってこんなフィナーレ、最高でしょ。


■ 9月7日・札幌MOERENUMA PARK

札幌。スタッフと一緒に朝の6時15分にホテルのロビーに集合し、バスで会場に向かう。新千歳空港から札幌に向かう電車の中でも感じたけど、市内のホテルから郊外のモエレ沼公園に向かうバスの中でも「空が広いなあ」ってことをつくづく思う。視界をジャマする高い建物が少ないせいか、空の広がりをすごく感じる。到着した会場は、その気持ち良さをさらに増幅させる広大(広すぎる!)なスペース。直径5メートルぐらい、高さ3メートルぐらいのこんもりした小山の上を三方から円柱が交差して三角錐を作っている「テトラマウンド」の前に特設ステージが組まれているのだけど、この横には巨大なピラミッドがあったり、世界的な建築家イサム・ノグチがデザインしたいろんなオブジェのような建造物が全然せせこましさを感じさせない広大な芝の上に点在していて……という、とにかく広い。吹き抜けていく風がとても気持ちいい場所。

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ミュージックシェルという真っ白な貝のような建造物の前でTUK TUK CAFEは朝の10時からDJをしたのだけど、こういうところだとクラブでかけるようなダンスナンバーは全然気持ちよくない。目の前は芝生が広がって、その先はピラミッドですよ。頂上からパラグライダーが飛んでるような場所ですよ。音数が少なくて、ゆったりしたテンポの、たとえば「釣りに行こう」や「プラ・マシュカー・メウ・コラソン」、「そこが僕のふるさと」なんかを青空の下で聴くことのなんと気持ちいいことか。

しばらくするとTHE BOOMのサウンドチェックも始まり、音が聞こえてくる。ステージ後ろの小山から覗いてみると、MIYAがいつもは参加しないはずの曲でパーカッションに加わっている。サウンドチェックの後は野球。YAMAさんのサウスポーの投球フォームがすごくきれい。

この場所でコンサートをするのはTHE BOOMがはじめてなんだそうだ。あまりにも気持ちがいい場所なだけに、いろんな交渉ごとが大変だったろうなということも思う。天気の心配もしなくちゃいけないし。だいたい電源だってステージを作る機材だって一から用意しなくちゃいけないんだから。でも、そんなことをTHE BOOMは3年間やってきた。THE BOOMが、ってわけじゃない。ツアーの主旨に賛同してくれて、サポートしてくれる人たちがいる。彼らの苦労も喜びも、たとえばこのツアーの初日、長崎に行ってみてはじめてわかった。こういうのって東京にいたんじゃ気が付かないもので。札幌には、去年、一昨年とTHE BOOMがお世話になった稚内の主催者のひとりも駆けつけてくれた。こういう人との出会い、結びつきがいちばんの宝なんじゃないかと思う。もちろん、集まってくれるお客さんたちも。「幸せであるように」から始まった約2時間30分のこの日のコンサートもみんなで作ったものという気持ちがすごくする。僕らが音楽を祝福し、音楽が僕らを祝福する。そんな空間。

何が起こっても揺るがない強さ、誰をも包み込む大きな優しさ——、この3年間のツアーでTHE BOOMが獲得したのは、こういったタフでピースフルな力だと思う。アンコールでも言ってたけど、決して「無力なんかじゃない」。僕らも。

(BOOMER'S PRESSに書いた記事です)


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