マフィン屋さん

そのマフィン屋さんは、唐突に私の視界に飛び込んできた。
素朴な雰囲気のお店。なのに、妙に存在感がある。

味は、メープル、プレーン(塩バター)、レモンの、3種類のみ。

もっといろんな種類があればいいのに。
こだわりが詰まっているのだろうか。

ぼんやり見ていたら、ひとり、客が来た。
小柄なおばあさんだった。

「ヤスくん。メープル味3つちょうだいな~」
おばあさんが声をかけると、大きな影が動いた。

「はいよ」
野太い声がしたかと思うと、出てきたのは体の大きいマッチョな男だった。
かわいいひらひらのエプロンを窮屈そうに身につけた姿は、なんともミスマッチであると共に、どこか愛嬌がある。

「いつもありがとな」
厳つい顔が、優しい笑顔に変わった。
おばあさんも嬉しそうに笑う。
なんと微笑ましい画だろうか。
2人の間を、優しくあたたかな風が抜けていった。

「なんか、平和だな」
私は思わず呟いた。
今日はいいことがありそうだ。
なんとなくそう思って、澄んだ青い空を見上げた。

サポートしていただけたら嬉しいです。