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【roots2】 《19章》悪の契約

次の日デイブは1人で出掛けたきりで夜遅くまで戻らなかった。
0時過ぎに重たい足取りで帰ってきた。
殴られた様な痕が顔にあり口の端から血が出ていた。
酷く疲れ果てた顔で風呂へ入って。
バスタオルを頭からかぶってとぼとぼとリビングへやって来てソファーに座った。
「食事は?」ルビーが静かに聞くと「いらない」と温度なく答えた。
「怪我をしたの?」ルビーが近づいて見ようとすると「そばに寄るな」と冷たく言って立ち上がった。「背中は?大丈夫?」ルビーは嫌そうでも返事はしてくれるからと負けずに聞いた。
デイブは背を向けたまま「あぁ」と言って寝室に入って行った。
ルビーは気になって洗濯機の中を見に行くとシャツの背中は血だらけで。ズボンも泥だらけだった。

寝室は2人同じ。ルビーはドアの前でため息を一つついたが、負けずに入って行ってベッドに寝転んだ。デイブの寝息は聞こえない。寝ていないのだなと。今はそっとしておくしか出来ない自分の力不足を感じて小さく丸まった。

次の日デイブは部屋に閉じこもりルビーに来るなと言って寄せつけなくなった。
唯一、オーウェンが薬を塗るために中へ入った。
「自分の中の一部として受け入れてみたらどうだ?チェイスだと思うから苦しいだろ」背中ごしにオーウェンが言った。
「暴力的な自分を?あり得ない」
「今まで無かった感情だから扱えないだけで、誰にでもある。コントロールする事をしてみたらどうなんだ?」
「出来なかったんだよ…昨日何人も殴って、止められなくて。家にいたらルビーを傷つけそうで怖いんだ…」と頭を抱えて身を縮めた。
「デイブはデイブだ。チェイスじゃない。心配するな。ほれ塗れた」とオーウェンがガーゼを貼って軽く包帯を巻き出した。
デイブは体を起こして「絶対にルビーを傷つけたく無い…」と言うとオーウェンは
「お前がこうしている方が傷つけてるのがわからないのか?」と優しく頭をポンっと叩いた。デイブはオーウェンの方を振り向くとなんとも言えない悲しそうな顔をした。オーウェンは
「ルビーは大丈夫だ。わかるだろ」と頭をクシャクシャっと撫でて立ち上がって部屋を出た。

「デイブの様子は?」ルビーがすぐにかけて来た。「すまない…もっと早く気づいてあげられなくて。ルビーが相談してくれていたのにな」オーウェンが頭を下げた。ルビーは首を横に振って
「いいのよ。それより、具合はどう?」と聞いた。カチャっとドアが開いてデイブが出て来た。ルビーは明るく「デイブ、何か飲む?」と聞くと
デイブはただうなづいた。
オーウェンが微笑んでデイブの頭をもう一度クシャクシャと撫でた。

コーヒーを入れてデイブの前に置くと、ルビーは少し離れて座った。
「ルビー」
「なあに?」
「僕…僕が怖いだろ」と寂しそうに言ってコーヒーを口に運んだ。
ルビーはデイブの真横にぴったり座り変えて「全然!!」と言って抱きついた。
デイブはそっとルビーの腕を押し返して「こんなことしたらいけないよ」と涙をいっぱい溜めた目でルビーを見た。あの湖の水のように澄んだ目は間違いなくデイブだ。
ルビーは優しく微笑んでそっとキスをした。
デイブはポロポロと涙を流して「僕はもう僕じゃないんだ。暴力的で人を傷つける」と言った。
「あれは私のためだったでしょ」
「違う、僕のためだ!僕の怒りが喜んで人を傷つけてる…」と涙と鼻水でクシャクシャな顔で訴えた。
ルビーはティッシュを渡してデイブの膝に手を置くと真っ直ぐにデイブを見つめて「背中はどう?」と言った。
「前みたいになってる」しゃくり上げながら答えた。ルビーがデイブの両頬を優しく包んで「サイラスの所へ行ってみましょう」と言うとデイブはその手に頬擦りする様な仕草をした後。
ティッシュで涙を拭いて「僕はこれを背負おうと思う」と言った。
「背負うって⁈なんで⁉︎」
「チェイスが僕の中にあれば外へ放たないで済む。後は僕が部屋にこもってさえいればそれで済むんだ」デイブは落ち着いた様子で言った。
「それで幸せ?」
「誰も傷つけなくて済む。誰にも迷惑かけずに済む。そうしたい」
ルビーはその言葉にも目を逸らさずに
「私たちって何のために何度も旅をやり直していると思う?」と聞いて、続けた。
「チェイスに打ち勝つ時が来たのよ」
「方法がわからない。僕さえ静かにしていればそれで済むんだ」
「済まないわ!!私は?オーウェンは?あなたは引きこもりの子供じゃない!!もうそこからは出たのよ。旅に出る前に逆戻りなんておかしいわ!!」デイブが黙っていて何も言わない。
「助けてって言える仲間がいるのよ!!」とルビーが必死に説得したが。デイブから来た答えは
「ごめん。部屋に戻るよ」だった。
「デイブ、行く前にハグをして」とルビーが泣きながら言ったが「出来ない」と言って涙を流し部屋に入って行った。
カチャっと鍵が掛かる音がした。

夜中、デイブの唸る声が寝室から聞こえて来た。
悶え苦しむ唸り声。
「デイブ!大丈夫?」ドア越しに聞いても返事はない。
この部屋の中で今チェイスと戦っている。
もしも本当にチェイスになってしまったら?
…あるはずない!!さっきの澄んだ瞳を思い出し、ルビーは自分に言い聞かせて大丈夫、大丈夫と呪文のように繰り返し眠れなかった。

デイブは食事も取らず、トイレに出てきてもすぐに部屋に戻ってしまい。顔を見る事も叶わなかった。ルビーはとにかく待つと決めてリビングで過ごした。
何日も眠れない日が続いた。
ある朝、目を覚ますと毛布が掛かっていた。デイブの匂いがする。自分の毛布を掛けに来てくれた。負けないように頑張ってくれている。
そう感じるだけでまた数日は耐える事が出来る。そう思えた。
ルビーはドアをノックして
「デイブ、毛布をありがとう。お礼にスープをここに置くから飲んでね」と立ち去ろうとすると
鍵がカチャっと開く音がしてドアが開いた。
無精髭のデイブがぬぼっと立っていてフラッと倒れてきた。
ルビーは抱き抱えてベッドに横にならせてブラインドを開けた。
髪を撫でて横に座ると
「ルビー」と寝ぼけたような声で呼ばれた
「なあに?」
「昨晩、顔を見に行ったんだ」
「来てくれたのに寝ていてごめんね」
「いや、良かったんだ。寝ていてくれて。最後に見ておきたかっただけだから」
「え?」なんの事?
「チェイスと話して」デイブは落ち着いてゆっくりと話す。
「うん」
「僕ね。目が見えない」
「え⁈」
「おとなしくするって、代わりに目を差し出したんだ」何でもない事のようにデイブが言った。
ルビーは驚きを抑えて両手で口を覆った。デイブの負担にならないように出来るだけ平静を装って
「…それで楽になったの?」と聞いた。
「多分。でもルビーがもう見えない」と悲しそうに呟いた。
「ここにいるわ」「うん…」ルビーはかける言葉が見つからなくてデイブの手をさすった。
デイブはルビーの手をタグって嬉しそうに握りしめた。
「元気出さなきゃ!スープ作ったの。飲みましょう。何日も食べて無いんだから」とお腹をさわるとペタンコを通り過ぎていた。
「結局ルビーの世話にならないと生きられない。ごめんよ」とデイブが頭を下げた。
「何でもないわ」と明るく答えた。

身支度を整えてエレベーターで下の階へ行った。
オーウェンが「デイブ!!」と駆け寄った。
目線が合わない。ルビーが「目を…差し出したって」と言った。「チェイスにか⁈」動揺するオーウェンにデイブは「うん」と軽く答えた。
「そんなバカな…」
「いいんた。これで僕の気が済む」
「気が済むって…」
オーウェンは言葉を失って自分の膝を叩いた。

to be continue…
*******

誰だって悪意の側にはいたくない。
でも、それ以上に。
自分の中に悪意があるなんて
デイブには苦痛だろうな。


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