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小説✴︎梅はその日の難逃れ 第18話


梅干しで怒られてから、ちょっと怖いお爺さんと思っていたが
中学生位から、祖父の仕事に興味を持ち始めた僕は、ちょくちょく祖父宅へ寄る様になった。
あわよくば祖母の食事にありつく為でもある。

あれは、大学受験日まで後少しの頃
祖父宅にいた僕に
祖父がリビングに来て
「春翔、受験まであと何日だ?」
と聞いてきた。
「3週間を切りました」
「そうか、これ持っていくか?」
いつか見たあの梅干しのカメだった。
「あ、これあの梅干し?」
「そうだ、わしの大切な梅干しだ」
「あ、子供の頃つまみ食いしちゃったやつ?」
「この梅干しは特別なんだ。
受験の当日朝に、食べなさい」
「え?」
「梅はその日の難逃れ、と言う言葉を知ってるか?」
「知ってます、知ってます!」
「まぁ、迷信の様なものだが、わしもここ一番の大切な時に、これを食べるとうまくいくんだよ。気休めみたいなものだろうが」
「自己暗示なんでしょうけど、あんなに大事にしていた梅干し、もらっても良いんですか?」
「わしがこれからの人生、ピンチやチャンスの時はもう、そうたくさんはないだろう。それよりも、春翔の方がこれからそんな機会も多いからな。お前に分けておくよ」
「ありがとうございます。受験頑張ります!」
やはり祖父も孫の行く末を気にはしてくれているんだなあと思った。

少し塩が吹いているだいぶ古い梅干しだが、祖父は大切な時には
これを食べては乗り越えてきたのかと
心にじんわりした。そして鼻の奥で涙の塩気が広がった気がした。

僕は梅干しのおかげか、無事
第一志望の国立の園芸学部に合格した

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