能力漫画における漫画的仕掛けとメタ能力について

まえがき 漫画的な仕掛けとメタ能力って何?

前回、ドラゴンボールについて書きました。詳細については下記に記したので気になったら読んでみて欲しいです。

ただ、本題にあげたかったのはこの点ではないんですよ。視線誘導についても語り足りないし、視線誘導の上手さでいうと「スラムダンク」の終盤の異常な「スピード感」についても話したいのですが、その点をまとめるのはまた記事が増えてしまうので、今回は他の漫画的な仕掛けについて話したいと思います。
それは能力漫画における「漫画表現を逆手にとったメタ能力」を使うキャラについてです。何それ……聞いた事ない……コワ……って思うかもしれませんが、有能な漫画読みの皆さんなら心当たりがどこかにあると思います。
まず具体的な例を一つ挙げると、「BLEACH」の「千年血戦篇」における「零番隊」「兵主部一兵衛」の能力ですよ。この人の能力は簡単に言えば大きな筆の形をした斬魄刀で、キャラを黒インクで塗ることで力を奪い、白いインクで新たに名付けをする事でその名の通りの力に変えてしまうという作中屈指のチート技なんですが、この技が連載当時ネット上で面白い解釈のされ方をしていたのを覚えています。

どういう解釈かというと「BLEACHの白さに、ちゃんとした意味があったんだwww」という解釈です。え?わからない?仕方ないので説明しますね。BLEACHはそれまで、背景が白過ぎることがしばしばネタにされていました。ジャンプ漫画ではよくあることですが、トーン少なくペンのみで凹凸や陰影を示すという、白黒漫画の美学のようなものがあります。中でもBLEACHは背景を描かない時は全然描かないし、白黒(とりわけ白)が際立つ漫画構成をしていました。
更に、千年血戦篇の前後では、顔まわりのベタ塗り、影の付け方に強い特徴が出てきて、その頃からベタ塗りの仕方がBLEACHっぽく変わった漫画家さんとかも居たので、恐らく漫画界でちょっとした事件が起きていたんですね(僕の体感の上でしかないですが……)
そんな中で出てきた零番隊、一兵衛の能力はまさに、その漫画スタイルに相関をなしているように思われたわけです。白黒で表現される漫画において、キャラに「ベタ塗り」や「ホワイト」を加えることは存在を消してしまうような行為であり、それがそのまま敵の力の減少という能力に繋がっている。BLEACHはそれまでずっと白黒に拘ってきたので、「インク=キャラの存在」という身も蓋もない漫画の性質をメタ的に利用してきたと、ファンは気づいて、しかしちょっと面白くもあって上のような感想を言っているわけです。

今回話したいのはこの「漫画表現を逆手にとったメタ能力」についてです。私は「一兵衛」のような強キャラ特有の漫画メタ能力が大好きで、もっと集めたいと考えているんですね。だから、今回私が思い出せる限りでこういうのあるよねってのを書き出すので、他にも思いついた方がいたら教えてくれませんか?Twitterやってるので、そっちとかでもいいです。今回は①素朴なレベルにおける能力表現の話と②素朴なレベルとメタレベルの中間の能力表現と③メタレベルにおける能力表現と、段階を踏んで説明してみるので、いろんなレベルの表現技法について、考えるきっかけになったらいいなー

①素朴なレベルにおける必殺技と漫画表現の関係

・「ドラゴンボール」における効果線と光線の関係

まずはドラゴンボールの話ですが、この漫画にはメタな能力とかは全然出てきませんよ。そんなの出てきたら興醒めですよね。ドラゴンボールにおける必殺技と漫画表現の関係の話は、前回話した事にも関わりますが、技がことごとく視線誘導のために使われていると思います。
具体的な画像を示せたらわかりやすいんですが、わざわざ描くのも引用するのもぶっちゃけ面倒くさいので、思い出すなり読み返すなりしてください。今回は前回の記事であげた図を晒すので、それで説明します。

画像1

画像2

ドラゴンボールはいつからか、飛行能力の軌跡が「気」の発光の軌跡で示されるようになったんですが、この点、初期はそうじゃなかったんですよね。単純に地面から浮いているような描かれ方で、しかし、登場人物の飛行能力が向上していくにつれ、集中線や効果線でスピード感を出すようになり、最終的には気が溢れ出て「気」の発光によって軌跡が示されるようになったんですが、これをするメリットはやはり、視線誘導のし易さですよ。
ドラゴンボールは視線誘導に気を遣っているという話を前回しましたが、読者が視線を移動させる「速さ」をより上げるために、より視線の移し方をわかりやすくするマーカーとして、飛行能力の描き方の変化はあると思います。
あるいはそれは飛行能力だけでなく、かめはめ波をはじめとした、光線もそうです。注意深く見ればわかると思いますが、読者が視線を移す方向に起点と終点を置いた光線描写がめちゃくちゃ多いんです。
この描写の妙にメタレベルの意味は全然ないと思います。思いますが、読者が無意識に、全く気づかないうちに鳥山明の誘導(効果線)に乗せられているという話を、ここでは「飛行能力」と「光線」によって示しました。

②素朴なレベルとメタレベルの中間に位置する必殺技と漫画表現の関係

・「ジョジョの奇妙な冒険」第三部、ラッシュ描写の無時間性より更に無時間なDIO

次は、素朴なレベルとメタレベルの中間の話です。中間、というのは、読者に直接働きかける仕掛けがあるわけではないものの、我々がそれまで持っていた前提を完全に壊す能力として「DIO」の「世界」があったという話をしたいと思います。
どういうことか?ジョジョの奇妙な冒険において有名なフレーズ、漫画技法として皆さんがまず思い浮かべるのはあの特徴的な「オラオラ」であり「ラッシュ」の時間だと思います。「もしかしてオラオラですかーッ!?」のアレですよ。

あのオラオラの描写って、ラッシュの速度があまりにも速い事を無数の拳で表現していると言えますが、何故その「速さ」が「無数の拳」に変換されてしまうかというと、漫画には時間が流れていないからですよね。現実やアニメーションと違って。
読者はあの「無数の拳」を見て、「拳が増えた…」とかは思わなくて、「漫画の無時間においては、無数に拳の残像が見えるほどにオラオラが速過ぎる!!」と思うわけでゲス(いや、別に考えながら読まないと思うけど…)。そしてそのような「オラオラ」の無時間描写を前提としてとうとう現れるのは「スタープラチナ」と同タイプと形容されるDIOの「世界(ザ・ワールド)」ですよ。この「世界」の能力はまさしく世界の根幹を揺るがすもので、「スタープラチナ」の無敵さの象徴である「オラオラ」の超スピードが、「時間を止める」能力においては全く意味をなさなくなることを示しています。
DIOが戯れとして「ラッシュの速さ比べ」をするのは、「時を止める」能力の前ではそもそも「スピード」という次元が意味をなさないからですよね。これは、あまりにも強過ぎる承太郎の「スピード」に対するメタ能力を示すのであって「オラオラ」の漫画的無時間の更に上の次元における、本当の無時間としての「時」の支配だと言えるのではないでしょうか。

知るがいい……………「世界」の真の能力は…まさに!「世界を支配する」能力だということを!
(『ジョジョの奇妙な冒険』27巻、DIOより)

まさしくチートですよ。いくらポルナレフが強く速くとも、ポルナレフが感知できない無時間の中で階段を上り下りさせられちゃ溜まりません。半径20メートルのエメラルドスプラッシュの結界も、無時間の中では意味を為しません。本当の無時間においては誰も勝てない。まあ承太郎はその「時の世界」に入門しちゃうわけですが…チートにはチートぶつけんだよってことですね。

③メタレベルにおける必殺技と漫画表現の関係

さて、やっと本題です。必殺技と漫画表現の関係について、素朴なレベルにおける表現を①ドラゴンボールの例において、メタレベルに関わる表現を②ジョジョの奇妙な冒険の例において示してみました。言葉が拙いことはあるとは思いますが、各自の言葉で理解してくれれば幸いです。その中で、最初に示した「BLEACH」の「一兵衛」の能力はもっと露骨ではないでしょうか。だって、キャラ存在はインクの集合ですって言ってるみたいな能力じゃないですか。そうは言わないけど。少なくとも、漫画を読んでいる読者は良い意味でも悪い意味でも唸るわけですよね。これもBLEACH世界の根幹を揺るがす能力ですから。
そもそも零番隊って尸魂界(ソウル・ソサエティ)の歴史そのものですって言われてたり、その中でも「一兵衛」は尸魂界の万物に名前をつけた人物でもあるらしいので、ちょっと次元が違う存在だとはわかるわけですよね。

・「BLEACH」  キャラ存在=インクの集合体として捉える能力

これを一例として、メタレベルにおける漫画表現と必殺技の関係について、他の例を見ていきたいと思います。

・「UQHOLDER!」 世界を遠近法の平面として捉える能力

UQHOLDER!面白いですよね。そもそもこの漫画は、数ある不死身性を有したキャラを一漫画内に集合させるという、不死身能力が結局最強だよねっていう全ての漫画に対するアンチテーゼになっています。そういえば、DIOも基本的に太陽にさらされない限りにおいて不死身でしたね。
この漫画では、吸血鬼的な不死身はもちろんのこと、マリオみたいに残機が残ってる限りにおいて死なない不死身だったり、セーブした地点に何回でも戻れる不死身だとか、幽霊としての不死身、人魚の肉を切った不死身、神の意志によって死ねない不死身など、色々な不死身が登場します。
そんな数ある不死身の中でも、作中屈指の最強キャラ、吸血鬼の中の吸血鬼、「真祖」の「ダーナ・アナンガ・ジャガンナータ」は漫画的な平面を理解しているかのような能力を持っています。
どういう能力かというと、遠くにいる人間を指で捉えて、そのまま蟻のように潰す事ができます。え?どういう事?と思った方がいるかもですが、画像なしで説明するのは難しいので例で話させてください。

女子高生がインスタとかでやる遊びとして、友人を遠くに置いて、まるで自分の手のひらの上に友人が乗っているかのような遠近法の遊びをしますよね。その遠近法によって生じる奇妙な大小関係を、「ダーナ」はそのまま現実の大小関係であるかのように干渉できます。遠くにいるのに潰せます。

これが面白い。漫画、あるいは絵は「遠近法」などの法則を用いることで立体を表現できることになっていて、見てる側もその法則によって目が騙されるようになっているわけですが、その現実の仕組み、あるいは見ている読者の錯視を利用した能力なわけです。
言うなれば、「ダーナ」は現実の世界を遠近法の平面に捉えることが出来る。現実の距離を無視して別の法則を持ち出すことができるというわけです。チートすぎる。ここの表現の仕方面白いので読んだことない人は読んでみてください。主人公が何回もグチャグチャに潰されるのとか、みていていっそ清々しいです(一応、敵ではないらしい)。

それ以外にも、時空を自在に操れて、未来や過去や並行世界に移動し放題。時間停止はそもそも効かないみたいな圧倒的なヤバさも持っていますが、それはそれとして。漫画的な手法としての「過去編」みたいなのに自由に介入できる能力、とすると面白くはあるのですが、視覚的な面白さではないので、今回は話しません。

おまけ 技ってほどではないけれど、凄い漫画表現

さあ、もう少し例をあげられるつもりだったのですが、よくよく考えると違うなってなったり、間違えて文章消してしまったりしたので、おまけとしてまとめに入ります。

・「マギ」の「神の序列を入れ替える魔法」

これは③のメタレベルにおける技表現だと想定していたのですが、よくよく考えると②だな…ってなった表現。「マギ」という「運命と運命を仕組んだ神への反逆の物語」における、トンデモ次元違いのスーパー魔法ではあるのですが、読者の我々に働きかける要素があるかというと、違うか…って感じ。
一応、どういう魔法かというと、この漫画においては、ある世界の上に別の世界があって、下の世界を操っている、その上世界には更に上上世界があって、上世界を操っていて…というとんでもない次元の話になる中で、登場人物がその構造を嫌い、神の位階に立つにあたって使用されるのが「神の序列を入れ替える魔法」、ですね。書いててよくわかんなくなるけど……世界のこれまでの法則から次元を異にする能力って事で、②の表現だなあと思います。ただ、②においても究極中の究極ですね。ここまで漫画内で出来るのか!って衝撃を受けました。
35巻から最終37巻あたりの展開は圧巻。ファンタジーを下地にした世界観から、資本主義社会という現実世界の価値観に移動し、最後には誰も見たことのない次元の世界を見せてくれるので、読んだことのない人、途中で辞めちゃった人は最後まで読んでみても良い気がする

・「めだかボックス」の球磨川における鍵かっこ付き台詞と「格好つける」の表現
これは読者の視線をジャックしているという点で、③のメタレベルにおける必殺技に数えても良いのだが…単なる台詞の仕掛けに過ぎないので、おまけに入れた。一応どういう仕掛けか説明すると、球磨川先輩というラスボスっぽい位置にいたキャラが、台詞=吹き出しの中でずっと「」付きで話しているという仕掛け。この「」が外れる台詞の中に本心があり、普段は「格好つけてる」だけっていう言葉遊びを表現に応用した例ですね。めちゃくちゃ面白い仕掛けだし初見では感動する。今まで読んだことがない人は、読んでもいいと思う。これ結構なネタバレだけど、他にも面白い仕掛けが色々あるので。安心院さんとか…
ジャンプ漫画そのものについてのアンチテーゼみたいなスタイルを取ってもいるジャンプ漫画なので、ジャンプが好きな人間にも是非読んで欲しい漫画ですね。好き嫌いは出ると思う。

・「ToLOVEる」よりコマひっかけ乳首とか蛇口○○○とか

説明しなくてもいいと思いますが、ToLOVEるは読者を驚かせる数々の漫画表現を提出しましたよね。これも読者の視界や認知が前提となっているという意味で③の分類、メタレベルの漫画表現に相当すると言っていいと思うのですが、必殺技ではないので、おまけに入れますね。悩殺技ではあるのかもしれないけど。
今更個別に表現技法をあげなくてもいいとは思うのですが、僕が好きなのは、コマを飛び出す形で乳首を引っ掛ける表現とか、蛇口に○○○が映っている“かのように見える“表現、よく話題に上がるのは、ページの裏側に花びらが描いてあることによって、透かすと○○○が描いてあるように見えるとか…?瞳○○○も結構好まれてますね。
これリトの視界をそのまま描いてしまうとR指定せざるを得ないという事で、密かに(密かではないが)読者に向けられたサービス描写です。
この点を重く見ると、エロ漫画は基本的にメタ漫画なんですよね。読者が抜くことを想定して描かないといけない、読者の視界に多くを委ねなければいけない漫画なので。もっと考える要素はあるような気もしますが、今はこれくらいの認識ですね。エロ漫画について特に論じた記事もあるのでよかったらどうぞ(30000字くらいありますが)

最後に、読者の視界や認知を前提とした漫画表現ないしメタ必殺技について、何か心当たりがある方がいたら、ぜひ気軽にコメントください。集めたいんです。

(啄む亭血液法師)

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