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ショートショートの詰め合わせ

第一話《地上最強のロボット》

 その日、F博士は何十年と時間をかけた研究をとうとう完成させました。それは地上最強のロボットの建造計画でした。
 完成したロボットを前に、F博士は跳び跳ねるほど喜びました。
「ああ、ああ、ようやく完成した! このロボットは最強だ! どんな攻撃も跳ね返し、どんな分厚い装甲でも一撃で破壊する。地球上のロボットがすべて束になってもこのロボットには敵わない! どんな超大国でもこいつの前にはひれ伏すしかないのだ! おまけにこいつは私の言うことしか聞かない! まさしく地上最強のロボットだ!」
 大喜びした博士でしたが、すぐに思い直しました。
「いいや、待てよ。今、この世界で地上最強のロボットを破壊してみせなければ、誰も私の言うことなど信じまい。よし、こうなったら現地上最強のロボットを破壊してやろう。そうすれば、自ずと世界は私にひれ伏す!」
 博士はロボットを起動させると肩に飛び乗り、すぐさま現地上最強のロボットの元へ飛んで行きました。
 D国にある現地上最強のロボットは、大きな公園の花壇に水をやっている所でした。この公園に咲く色とりどりの花は、すべてこのロボットが造ったのです。
 そこへ、空から大きな大きなロボットが飛んで来ました。見たこともない大きさです。
着陸したロボットの肩から降りたF博士は、花に水をやっているロボットの姿を見て笑い転げました。
「なんだ、あいつは! 地上最強のロボットが何故こんな所で花に水なんかやっているんだ? どうかしたんじゃないのか? まるで人間の小娘みたいな真似をして、これが笑わずにいられるか」
『コンニチハ。ナニカ御用デスカ?』
「御用? 御用だって? ああ、そうだとも。御用だとも。貴様のような間抜けに用があるのさ」
『ナンデショウカ』
「貴様は今のところ地上最強のロボットだ。先の大戦の英雄! 世界中の誰もが認めている! だが、それも今日までの話だ! 私が開発したこのロボットに比べれば、貴様など相手にもならん。即座にスクラップだ。大切にしているその雑草ごと焼き尽くしてくれる! 地上最強は私のロボットにこそ相応しい称号だ」
『ワタシハ、タタカイタクアリマセン』
 ロボットはジョウロを下ろし、F博士へ頭を下げました。
『ワタシハモウ、ダレトモタタカイタクナイノデス』
「なんだって? 戦いたくない? 馬鹿め! そんな言い訳を誰が聞くものか! 地上最強は我々のものだ!」
 F博士は背後に立つロボットに無慈悲に命令しました。
「さぁ、地上最強のロボットよ! 眼の前の大馬鹿者を跡形もなく消し飛ばしてしまえ! 遠慮はいらん! フルパワーだ!」
 眩い光が公園を包み込み、そして光が消えると、F博士の姿は忽然と消えて無くなっていました。

第二話《神様の副業》

 その土地では二つの部族が、東と西の村に別れて大昔から相争っており、いつも戦いばかりしていました。部族は互いに憎しみ合い、年がら年中罵りあって暮らしていました。そして、時間を見つけては、信仰している恐ろしい悪魔に、相手を滅ぼすことが出来ますようにと願ってばかりいました。
 
 ある日、東の村に悪魔がやってきました。驚く村人たちに、悪魔は全員広場に集まるようにいい、自分の影の中から一本の槍を取り出しました。
「お前たちはいつも祈りを捧げているから、今日はその願いを叶えてやる為にここへ来た。見ろ。これは魔法の槍だ。この槍があれば、好きな数だけ憎い敵を殺すことができる。この槍が、ひとたび手を離れれば、槍は敵の心臓を貫いて必ず殺すだろう」
 村人たちは喜び、ついに憎い西の村の者たちを滅ぼすことが出来ると思いました。
「だが、一つだけ忘れてはいかん。この槍を使うには生贄がいる。この槍で一人殺せば、この村の誰かが一人死ぬのだ。それを決して忘れるな」
 それだけ告げると悪魔は炎に包まれ、姿を消してしまいました。
 
 ちょうどその頃、西の村に悪魔がやってきました。驚く村人たちに、悪魔は全員広場に集まるようにいい、自分の影の中から一本の矢を取り出しました。
「お前たちはいつも祈りを捧げているから、今日はその願いを叶えてやる為にここへ来た。見ろ。これは魔法の矢だ。この矢があれば、好きな数だけ難い敵を殺すことができる。この矢が、ひとたび手を離れれば、矢は敵の心臓を貫いて必ず殺すだろう」
 村人たちは喜び、ついに憎い東の村の者たちを滅ぼすことが出来ると思いました。
「だが、一つだけ忘れてはいかん。この矢を使うには生贄がいる。この矢で一人殺せば、この村の誰かが一人死ぬのだ。それを決して忘れるな」
 それだけ告げると悪魔は炎に包まれ、姿を消してしまいました。
 
 東西、それぞれの村で男たちは悩み尽くしました。憎い敵を殺す為になら命は惜しくない、という勇敢な者が多いとはいえ、相手の村の人口がこちらよりも多くては話になりません。
 結局、まずは相手の村に人間がどれだけいるのか。それを確かめる為に、それぞれの村で若者が一人ずつ選ばれ、相手方にばれないようこっそりと調べに行くことになりました。
 二人の若者はおっかなびっくり歩いていますと、ちょうど東西をわける小さな川に架かる橋の所でばったり遭遇したのでした。
 東の村の若者に良い考えが浮かびました。
「こんなところで会うとは奇遇だなあ。それはそうと、一つ訊きたいことがある。その代わり、おれもなんでも一つ質問に答えよう」
 普段なら口も聞かない者同士ですが、西の若者もこの提案には賛成しました。あちら側に渡らずに済むのなら、おっかない思いもしなくて済みます。
「ああ、いいぞ。なんでも訊け」
「お前たち、西の村にはどれくらい人間がいるんだ?」
 同じことを聞こうと思っていた西の若者は驚きましたが、ここで正直な数を話してしまえば責めてこられるかも分かりません。
「そうだな。だいたい一万人くらいだ」
 嘘でした。本当はもっとずっと少ないのでした。
 しかし、これを聞いた東の若者は叫び出しそうなほど驚きました。想像の何倍も多いではありませんか。これでは負けてしまいます。
「そういう東の村はどれくらい人間がいるんだ?」
「そうだな。だいたい一万人くらいだな」
 もちろん嘘です。しかし、こう言わねばいつ滅ぼされてしまうか分かりません。
 二人は互いに恐れ慄きながら、それぞれの村へ帰っていきました。そして相手の村にはどうやら一万人も人がいるらしい、と報告をして大騒ぎになりました。
「なんてことだ。まるで敵わんじゃないか。戦っている場合じゃないぞ。もっと作物をたくさん作って、子供をたくさん産んで、もっともっと村を大きくしなければ。そうでなければ、せっかくの魔法の道具も使えん」
 東西の村でそう決まり、争いそっちのけで村を大きくする為に働きました。
 やがて村は少しずつ大きくなり、子供もたくさん増えて、何年、何十年と時間を経るごとに東西の村の境界線は曖昧になり、そのうち境界線というものさえ忘れられていきました。そうして、二つの村の人口がちょうど一万人になった時、小さな一つの国が生まれ、東西の争いを覚えている人は誰も残っていませんでした。
 小さな国の誕生で国民が喜びに踊る町を、あの悪魔がボロボロになった魔法の槍と魔法の矢を担いで歩いていました。
「やれやれ。悪魔のふりをして人を救うのは、どうにも時間がかかっていけない。あの村の者たちも最初から神様に祈ってくれたなら、他にもやり方があったのに」
 腰を叩く悪魔は、やがて人々の群れに紛れて見えなくなってしまいました。

第三話《怖がりの王様》

 とある国の王様はとても気の小さな王様で、恐ろしいことから逃げるのだ、と自分の城を高く高く作り上げました。あんまり高く作り上げたので、お城のてっぺんは雲の上、民たちは首が痛くなるほど空を見上げなければなりませんでした。お天気がいいと、たまに雲の切れ間に白い塔のようなお城が見えました。
 それでも王様は怖い怖いと言いながら、どんどんどんどん城を高くしていきました。いい加減にしてください、と止めようとしたお妃様は、哀れ、お城の窓から投げ捨てられてしまいました。でも、落下傘をつけていたから大丈夫。ポップさんの家の畑に無事に落っこちました。
 次に大臣がこのままでは月についてしまいます、と忠告すると、やっぱり窓からぽいっと投げ捨てられてしまいました。大臣も落下傘を背負って謁見していたので、事なきを得ました。彼は犬小屋に落っこちました。
 しかし、こうなると止められる人はもういません。王様はどんどん高く、どんどん高くと言ってお城を高くさせ続けました。職人たちはお仕事がずっとなくならないので、大喜びしましたが、とにかくお城の先っちょから降りるのが大変だったので、途中に宿を作ったり、買い物ができるように店を作りました。おまけに食べ物屋さんもできたりして、だんだんと便利になっていきました。
 噂を聞きつけて、商人たちがお城に住むようになりました。それを見て、お城の兵士たちも自分の家族を招き入れました。大臣たちも通勤が楽なので、お城に住むようになり、メイドたちも好きな部屋を見つける事ができました。気に入った部屋が見つからない時は、職人たちが作りました。
 やがて、王様がお爺さんになる頃には、王様のお城の先っちょは月までもう少しという高さになりました。どんな国から見ても、空を見上げれば空に向かって真っ直ぐに白い棒のようなものが伸びているのが見えます。しかし、それがただのお城ではないことを、今ではほとんどの人が知っていました。あの中には大きな街や畑が数えきれないほど出来ていて、これまた数え切れないほどたくさんの人が平和に暮らしているのでした。
 ヨボヨボのお爺さんになってしまった王様は、もう怖いとは言わなくなっていました。しわくちゃの顔に、しわくちゃの手、頭の上の王冠も重くて仕方ありません。
「ねぇ、おじいさま。どうしておじいさまは、こんなに大きなお城を作ったの? なにがそんなに怖かったの?」
 王様は孫娘に、にっこりと微笑みました。金の糸のような長い髪を、ゆっくりと優しく撫でました。
「わしは、おおむかしに、神様の声を聞いたんじゃ。大きな洪水を起こして、一度世界をやり直すと。それが恐ろしくて恐ろしくて仕方がなかった」
 言葉とは裏腹に、王様の顔は安らかでした。
「じゃがもう、怖くない」
 窓にポタリ、と最初の雨が落ちてきました。

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