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自分の「ワクワク」を信じて「動物行動学」の道へ

今回は、ディープテック産業開発機構・フロンティア研究環の入交 眞巳(いりまじり まみ)先生にインタビューしました。

<プロフィール>
お名前:入交眞巳 先生
所属学科:ディープテック産業開発機構・フロンティア研究環
趣味:オーケストラでのビオラ演奏

飼い主とペットの「良好な関係性」を支える役割


─先生のご専門についてお伺いしたいです。

私の専門は「獣医行動治療学」です。大きな枠組みとしては「動物行動学」という分野なのですが、その中でも、動物の問題行動を獣医学・動物行動学の視点から改善するというのがこの学問の役割です。

普段は、府中キャンパスにある動物医療センターの動物行動科で診療を行う獣医師として働いています。当センターは二次診療施設(地域のクリニックなどで治療や診断をすることが難しい病気を診る大きな病院のこと)であるため、街のホームドクターから紹介を受けた患者さんが来院されます。

─飼い主さんはどのような理由で来院されるのでしょうか。

飼い主さんは、愛犬・愛猫と一緒に生活している中で「難しいな」と感じられた時に来院されます。来院時には、普段の生活での困りごとや問題行動などを飼い主さんからヒアリングし、実際にペットの様子をみながら、なぜ動物がそのような行動をとるのか、どうしたら改善されるのかをアドバイスします

具体的な困りごととしては、「飼い主さんに噛みついてしまう」「尻尾を常に追いかけ回してしまう」「他のイヌに出会うと興奮してしまう」などが多いです。

─どのような解決策を飼い主さんに提案されるのでしょうか。

イヌやネコなどの伴侶動物(ヒトと長い歴史を共に暮らしてきた身近な動物のこと)は家族の一員ですので、お子さんと同じように考えて頂ければと思います。精神科分野の薬物を処方して治療に用いることもありますが、お薬だけでは治らないことがほとんどです。「おうちでこのように実践してみて下さい」と行動学的なアドバイスをすることがメインです。

診療場所の様子。マットを敷き玩具等を準備してペットの行動を観察する。

幼い頃からの関心は「動物の気持ち」


─動物行動学に興味を持ったきっかけを教えて下さい。

小さい頃から、動物をみたり、彼らの気持ちを考えたりするのが好きでした。アンリ・ファーブルの『ファーブル昆虫記』や、コンラート・ローレンツ(1903年生まれのオーストリア出身の動物行動学者で近代動物行動学を確立した人物のひとり)の『ソロモンの指輪』を読んで、動物の気持ちに強く興味を持ったことを鮮明に覚えています。

両親はあまり動物が好きではなく、家でイヌやネコを飼ったことはありません。ただ、トンボを捕まえたりアリの巣穴を覗き込んだり、屋外での動物行動観察は父が一緒にしてくれました。

大学受験を考えるときには、自分の興味に関連する獣医学科、生物学科、心理学科などを検討しましたが、まずは獣医学科に進学しました。

幼い頃から興味のあった「動物行動学」を学びたかったのですが、獣医学科を卒業した当時、1990年代前半の日本では、力技で動物を痛めつけるやり方が行動治療の通例でした。その実状を目の当たりにし「これは私の学びたかったことではない」と愕然としました。

大学院進学と共にアメリカへ留学しました。そこで、スイス出身の先生との出会いがあり、ヨーロッパの「動物が幸せな状態でいることでヒトも動物も幸せになれる」という動物福祉の考え方を知り、まさに目から鱗でした。そこから10年間、アメリカで大学院生、研修医としての生活を送りました。

自分で自分のドアを閉めないように


─10年間のアメリカ留学生活から学んだことを教えてください。

アメリカには色々な国の方がいらっしゃいます。世界中にお友達ができた寮生活は非常に楽しかった記憶があります。ただし、勉強はかなり大変で、図書館で夜中まで引きこもって課題に励んでいました。

アメリカでとても驚いたことがありました。同じクラスに女優の仕事をしていた60代の女性がいたのですが、彼女は60歳になって女優を辞め獣医学科に入学しようと決意したそうです。そのこと自体に私はとても驚いたのですが、もっと驚いたのは、周りの学生たちが彼女に対して「すごいね!」などのリアクションはせず、普通に受け入れていたことです。

こんな歳だから、女性だから、などと自分に制限をかけず、勇気をもって好きな道を歩んでいけばいいのだと感じました。自分で自分のドアを閉めてしまっては勿体無い。それを学んだのがアメリカでした。

─留学を検討している方にアドバイスがあればお聞かせください。

まず金銭面に不安をもつかもしれませんが、アメリカやヨーロッパの国では奨学金の制度が充実しているところが多いです。大学院生であれば、給与を貰いながら学生生活を送ることができます。勇気を持って飛び出せば、案外お金はなんとかなると思います。

コネクションも大事です。農工大は様々な国の大学や研究機関と繋がりがあるので、そういった面でも非常に恵まれている環境だと思います。ぜひ学生さんにはこのようなコネクションを活かして頂きたいです(農工大の留学情報についてはこちらのサイトをご覧ください)。

「ワクワク」する気持ちを大切に


─最後に、先生から高校生へのメッセージをお願いします。

私自身、大学選びの際は、色々な大学に足を運んで、直接大学生の方と話したり研究室を訪問したりして、ワクワクする気持ちをキープして受験に臨んだという経験があります。辛い勉強もワクワクのおかげで乗り越えることができました。

みなさんにも、自分の心にある「ワクワク」を大切にしてほしいと思います。そして自分の目で直接みることも大切にしてほしいです。もちろん今の時代は、オンラインで色々な情報が手に入りますし、それを活用して頂くのもよいと思いますが、オープンキャンパスなどで実際に大学に来てみてほしいですね。

インタビュー中の入交先生。長時間の取材にも関わらず終始笑顔で答えて下さいました。

文章・インタビュアー:連合農学研究科博士2年 M
インタビュー日時: 2024年7月19日
※インタビューは感染症に配慮して行っております。

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