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どんな子どもたちにも自然体験を!裾野を広げる海洋研究者

https://tuatdaizukan.net/

今回は、環境資源科学科の梅澤先生にインタビューしました。ぜひご覧ください!

<プロフィール>
お名前:梅澤有(うめざわ ゆう)先生
所属学科:環境資源科学科
研究分野:生物地球化学、生元素動態、海洋化学
趣味:スポーツ観戦、マリンスポーツ

研究内容


―先生はどんな研究をされているのでしょうか?

「海という生態系に、窒素とかリンとかケイ素などのいろいろな栄養塩が、どこからどのようなプロセスで入ってきて海洋生態系に影響しているのか」という観点から研究を行っています。

この栄養塩由来の元素が、植物プランクトンを経て、皆が好きな魚やイルカ、クジラへと繋がっていくんです。こういう栄養塩の移動が、気候変動や人間の活動によって変化することがあるんですよね。

なぜそのような変化が起きているのかということを、安定同位体比という指標を主に使って明らかにしていく、というような研究をしています。

自然現象は現場で起きている


―研究はどのように行なっているのでしょうか?

干潟域を歩いたり、浅海域に機材を背負って潜ったり、漁船や大型の研究船に乗って採水や生物試料採集を行い、それらの化学分析を行うことが主体です。例えばこの写真のように…

↑簡易セジメントトラップ(注1)の回収作業(パラオ共和国)

(注1)ある期間海水中に置いて、海水中を沈降してくる粒子を集める装置のこと。

―海に潜ったりもするのですね!

やっぱり「事件は現場で起きている」ならぬ、「自然現象は現場で起きている」んです。だから、できるだけ自分の目で見て、自分の手で、信頼できるデータを取りたいと思っています。

例えば、東京湾の底の堆積物を取りたいときに、船の上から泥を採取する機械を海に落とす方法もあります。

だから潜らずに採取することもできるんですけど、実際自分が潜ると海の底って全然場所によって均一じゃないんです。だから、サンプルを取ったのが、海底のどんな地形の場所なのか、周囲を代表する場であるのか、ということを自分の目で見て、納得して取りたいです。

そんなことをしていると、すごく忙しくなってしまったりもするのですが(笑)

↑様々な場所でのサンプル採取の様子。
ー左上:海面上昇の影響を調べるための地下水採水(ツバル)
右上:チャオプラヤー川河口域での採泥作業(タイ王国)
左下:漁船を用いたサンゴ礁での採水調査(フィリピン共和国) 
右下:セジメントトラップ設置前の調整作業(長崎県大村湾)
↑海藻の栄養の取り込みが、水流の強さによってどう変わるかを調べるためのオリジナル実験器具。市販の攪拌機についているプロペラを用いて水の流れを起こしている。回転数を変えることで水流を調節。

自然科学系の研究であっても、現地の人や漁師さんなど、人とのコミュニケーションが良い研究につながると仰っていた梅澤先生。そんな先生のフィールドワークをもっと知りたい方は、梅澤先生も寄稿している「現場で育むフィールドワーク教育」をぜひ読んでみてください!

研究の世界にも、いろんな人が必要


―研究のモチベーションはどんなところにありますか?

あまり知られていない仮説を検証して明らかにしていく研究過程も楽しいけれど、海に潜るのが楽しみだったり、研究を通して国内外の色んな人とつながったりすることも同じくらいモチベーションになっています。

僕が学生の頃に一緒に研究していた先輩や先生は、純粋にサイエンスが好きで、月刊の英語論文雑誌を読むのを一番の楽しみにしているような人たちでした。

自分はそこまで思うことはなくて、私は本物のサイエンティストじゃないのでは、と悩んだ時期もありました。

でも、やっぱり研究の世界にもいろんな人が必要で、純粋にサイエンスを追求する人だけがいればいいというものではないと思うんです。

チームワークを持って何かやってみる人、コーディネートする人、学際的にいろいろ広げていく人、そういういろんな人がたくさんいた方が、やっぱり全体としてはいいんですよね。

海を守るために、本当に必要なこと


―大きな質問ですが、海の環境を守るために、必要なことはなんだと思いますか?

まず、「海ってすごく素敵なところだな」ということをいろんな人が知っていること、そういう意識を持つことだと思います。それが、汚染につながるような行動を止めるなによりの原動力になると思うんですよね。

例えば、サーフィンをしている人は、海の波が好き、匂いが好き、風が好き、という感情があると思うんです。もし環境問題に全く興味がなくても、そうやって実感として海が好きで、海に触れていたら、汚したくないという気持ちが自然と生まれてくる。

日本人は元来、自然に畏敬の念も持ち、いっぽうで、自然を愛で、自然の細かな変化にもよく気付くことができる民族だったと思います。雨の降り方にしても、時雨、五月雨、氷雨、小雨、子糠雨、など、挙げだしたらきりがないですよね。でも自然の変化に気づかない人は、こういう言葉も必要ないし、言葉が失われていくと、自然を文字のごとく、「ありのままに、たもつこと」さえどうでもよくなってしまうのだと思います。

―確かに、自分と関係が薄いものについて、そもそも名前が浮かばないです。その無関心さが、良くないということでしょうか。

そうですね。もちろん無関心なものがあってもいいですが、自然環境の変化についてはそうはいかないですよね。私たちの生存にも関わってきますから。

海も、音や色、匂いなどが朝昼晩や季節ごとに変わったり、いろんな顔を持っているんです。沖縄の石垣島では、現地の言葉で海の地形や海の生き物に、本当に色々な名前がついているんです。それは、現地の人が海のことを大切に思って、海に依存した生活をしている証です。そう、まず親しみを持つことです。海を愛でる人の心が、海を守るために一番必要なことだと思うんです。

だから、環境教育もそうだけど、まずは自然の中で楽しむことですよね。楽しんで興味を持ってくれた人に、少しずつ小出しに教えていくという感じです。小学生に最初から、これは同位体が…とかやったら絶対ダメです(笑)

―そうですね。私もダメかもしれないです(笑)

バリアフリーの自然体験


―これからの研究や教育活動で、思い描く未来を教えてください。

思い描いている僕の小さな夢は、親がいない子や、施設に入っている子、障がいを持っている子を海に連れて行ってあげたいんです。自然の中に入る機会がすごく少なかったり、そもそも障がいを持っているといろんな自然体験プログラムに参加できないこともあると思うんです。普通の小学生には体験できることができない難しさがあるだろうから。いろんな人にとってバリアフリーな自然体験のプログラムができたらいいなという思いを今温めています。学生を巻き込んでできたらいいな。



文章・インタビュアー:地域生態システム学科4年 
ノコノコ
インタビュー日:2021年5月19日
記事再編集日時:2024年9月6日

※インタビューは感染症に配慮して行っております。

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