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代謝をみて生命を見る!

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今回は工学部生命工学科の津川裕司先生にインタビューしました。ぜひご覧ください!

<プロフィール>
お名前:津川裕司先生
所属学科:工学部生命工学科
研究室:津川裕司研究室

応用自然科学科へ


—どうして今の研究分野に進もうと思ったのですか。

はじめは理学部数学科に入って1年間学んでいましたが、学びの幅を広げたいと思ったので、もう一度大学受験をして応用自然科学科に入りました。元々数学と物理に興味があったので、大学では生物系の研究室で物理と数学にかかわりのあるオミクス科学(注1)の分野を選びました。
(注1:体内の化学反応である代謝を解析する技術をつくる。未知の生命現象の解明や疾患の診断や予防等に応用されている。)

—先生の専門分野について教えてください。

専門は「代謝」オミクス科学です。代謝とは、生体内の化学反応です。その化学反応を捉えることで、疾患の背後に潜む分子メカニズムを捉えることが可能になります。また自分が学生の時の研究室では、微生物を使って物質生産する上で最適な代謝経路の設計・遺伝子操作を行ったり、体の中でどのような代謝反応が行われているのかを検出・同定する質量分析手法を開発したりしていました。

—私たちの身近にあるものにも使われているのでしょうか。

代謝オミクス科学に使われる質量分析は、例えば美味しさの研究にも使われています。これは代謝というよりは成分解析のようなイメージですが、品評会で玄人の人たちがお茶のどんな成分を見極めているのかを、成分の化合物をプロファイリングして見ることで、化合物と美味しさの相関関係を見出す分野です。 

質量分析装置。ここからデータを収集する。

人生の転換期


―これまでに特に印象に残っている研究はありますか。

 1 つは今、自分の研究の世界観が広がってきていることです。学生さんたちが成長してくれたおかげで、今までのように 1 人で研究をしていたときよりも研究の幅が広がってきています。まだ成果も出てないのでこれからの話かもしれないけれど、今が転換期だと感じています。

—これからが楽しみということですね!

もう 1 つは、僕、農工大の教員になる前は理研(注2)にいたのですが、元々一番得意なのは数学だったので、数学にエッジを設けた研究をしていました。ですが、当時の日本では僕の研究は結構否定されていたので、日本にいるのが嫌だと感じていました。そのときちょうどアメリカに留学できたんです。そのときのアメリカでのボスが僕の研究を認めてくれて、これはすごく大事だからって背中も押してくれました。一緒に書いた論文で、理研入所 3 年目ぐらいに初めて、論文審査が厳しい著名なジャーナルに自分の論文が載ったんです。その成果があったから日本でも認められて、そこから研究者人生が変わった気がします。
(注2:理化学研究所。日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、数理・情報科学、計算科学、生物学、医科学などに及ぶ広い分野の研究をしている。)

—論文が優秀な雑誌に掲載されたのはすごく大きな出来事だったんですね。

海外の研究機関で力をつけて日本へ帰ってくると言われるように、そういう意味でやはりアメリカの方が未だに上だと思います。日本だと風当たりが強かったけれど、アメリカの人たちは認めてくれました。今でも僕の研究者としての評価は日本よりも海外の方が高いですね。

世界のトップランナーであり続けること


—研究者として大切にしていることはありますか。

研究者の学位はPh.D.と言うんです。これはDoctor of Philosophyの略で、元々哲学者なんです。つまりPh.D.を持っている人は何かに自分の哲学を持っていることが前提になっているので、「自分はこういう哲学を持っている研究者だと胸を張って言えるような人になりましょう」と学生さんには言っています。

僕の研究の哲学は、学生のときから変わっていなくて、道具を作って、それを使って新しい生命現象の仕組みを解き明かすということですね。そういう意味では、大切にしているキーワードは、自分の哲学に則って研究を行うことです。

—Ph.D.を”哲学を持っていること”と表せるのは面白いですね。

僕は大学で学位を取ってからすぐに理研に入って、8 年半程研究員をしていました。教育機関に来たのが3年前で、自分の中でも、そのギャップを埋めるのはなかなか難しいです。

学生さんたちって研究者の卵のような存在なので、無理しすぎると卵が割れるし、かといって、出せる研究成果のインパクトってなかなか理研に勝てないことが多いと思うんです。

学生さん一人ひとりには成果が出る現実的な研究デザインにしていることが多い一方で、研究室全体として大きい研究を毎年1個ぐらい論文化しましょうというスタンスで研究をするのが、僕自身がこの大学で大事にしていることです。

—学生さんのモチベーションにもなりますね。

日本の研究力が低いとか、ノーベル賞はもう出ないとか言われています。でも絶対にそんなことは言われてはいけないと思っているので、僕も含め日本の研究者は、世界のトップランナーであり続けなければならないと思うべきです。大学という研究機関で、それを達成するための方法や、学生さんのモチベーションの維持を、まだ日々試行錯誤しています。

—自分の哲学を持つこと、世界のトップランナーであり続けることの2つを大事になさっているのですね。

選んだ道の正しさを証明するのは自分自身


―最後に、先生から高校生へのメッセージをお願いします。

高校生のときってとても楽しいと思うので、受験なんか無視してまず高校生ライフを全力でやればいいと思っています。大学受験は浪人もできるし、現役でミスしてもいいんじゃないかなという心持ちです。高校生のときしかできないことをぜひ楽しんでください。

この歳になったら、新しいものを学ぶとか勉強するために、1 日に 30 分から 1 時間も捻出できなくなるくらい色々な業務に追われます。勉強しかしなくていいと言ってもらえるのはそのときだけなので、「いまが勉強する最高の瞬間」と思って、受験勉強などに取り組んでほしいです。

―もし進路選択で悩んでいる高校生がいたら、何と伝えますか。

大学はフィーリングで選んだらいいんじゃないかな。自分が進んだ道が良かったとか正しかったと証明するのは自分自身だと思っています。どんな道でも人生楽しいだろうなって思うし、どの道を進んでも、やりようによって人生楽しいはずなので、高校生のときに選んだ道に誇りを持って進んでください。

文章・インタビュアー:工学部生命工学科1年 あい
インタビュー日時:2024年10月28日

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