ちゃんと設計すればちゃんと講義ができる:女子商マルシェ第3回講義録
先週の金曜日(10/18)は、福岡女子商業高校へ伺っての3回目の授業。経営理念、経営戦略、短期利益計画(損益分岐点分析)と来て、今回のテーマは当日の販売戦略をいかに構築するかである。
これまでの本プロジェクトの様子は↓↓↓にまとめておりますので、こちらも合わせてどうぞ。
と書くとこれまでと同じになってしまうが、今回から残り2回の授業には3−4年専門ゼミの学生全員を投入することになっている。つまり、こちら側の立て付けとして、リーダー2人(3年生)がいて、これまで授業を行ってきたメンバーがいて、そして新たに大学生が加わるという図式になる。ここまで2回の講義ではマルシェプロジェクトのメンバーだけで進めてきたので、お互い状況を把握しているし、学生同士も高校生との関係もできあがりつつある。ここに「ただ高校に行ってればいいんだろ?」という意識の学生が入れば、それまで積み上げてきたものもパーになる。そういうリスクを抱えた上でゼミ生全員を投入した。
加えて、すでに来年度のプロジェクトリーダーに指名している2人の2年生も同行し、総勢40名弱の学生で高校に押しかけることになった。
なお、前回は夏休み期間だったこともあり、準備不足が露呈した。ペーパータワーという手法に拘泥するあまり、女子高生が内容をしっかりと理解できているかどうかを置き去りにして講義をすることが目的化してしまった。このあたりのことはゼミ4年生が相当ふりかえりをいてくれているので、そちらをお読み頂きたい。
これに加えて、今回は学校行事を翌日に控えていたため、通常の50分授業が45分に短縮。たった5分だが、5分も短くなった(つまり10%短縮)のである。合計すれば10分の短縮。この影響がどれだけ出るかというところも見ているポイントだった。
まあ、学生にとってはカオスな状況のなかで授業するってことになったんですよね。
授業の構成
プロジェクトメンバー中心で考えられた授業は、1コマ目は講義+ワークショップ、2コマ目はPOP作成というものだった。加えて今回は新メンバーもいるため、アイスブレイクにしっかりと時間を取ることになった。
グループに分かれて学生を交えてアイスブレイクのゲーム前。このあと隣のクラスの先生からお叱りを受ける(笑)
あるいはもう少し対話が必要だなと感じられた学年では、まるで立場が逆転したようなこんな現象が見られた。
4年生3人が正座してる(笑)
ただ、実際には前回までの復習時間も必要で、損益分岐点分析を十分に理解できていない学年はその復習からスタートすることになった。
下の写真は2年生の授業の様子。
損益分岐点分析を復習し、マルシェでは価格を変える、コストをいじることができないから、販売個数を伸ばすことが重要=販売戦略の重要性にフォーカスしようという筋道でスタート。このクラスは前半45分を前回までの復習(理念→戦略→計画)と今回の授業とのつながりにほとんどの時間を費やした。
損益分岐点分析を使って利益を高める方法とコンビニの陳列をクイズにした教材
2コマ目からはワーク。今回のゴールはPOPの作成だったけれども、前の時間にマルシェ特有のルールを把握したこともあり、休み時間に着地点を変更する学年も出てきた。授業で使う道具もだんだん洗練されてきて、状況に適応して使いこなせるようになってきた。
ワークシートはそのあとの広告宣伝案(POP作成)と連動している
どうしても周りを気にしてしまう高校生がうまく表現できるように対応する
ワーク中の様子はこんな感じ。どうぞ動画で雰囲気を味わってください。
授業は終始こんな雰囲気で進んでいく。
高校の先生方も関心が高く、入れ替わり立ち替わり教室に入ってこられる。たまたま教育実習期間だったこともあり、同じ大学生が授業見学に来ていたりもした。いったい彼女にはどのように映ったんだろうか。この講義の風景。
1年生の講義で使用したワークシート。もう少し引き出せるといいな。
韓国料理店の食材を販売する学年ではPCを広げてキムパ(海苔巻き)を主力製品にしてPOPを作るワークも実施
対話形式で講義を進めた3年生はマーケティングのSTPを設定してもらうワークを行った。
あれやこれやと手を変え品を変え、あっという間に90分の授業は終了した。
ふりかえり
授業終了後、すぐにふりかえりに入る。このふりかえりが大白熱した。当初30分の予定がなかなか議論が収束しない。内容が充実していて、それぞれの学年で起きたこと、感じたことの意見交換がなかなかまとまりを見せない。これまで2回参加した学生も、今回初めて参加した学生も、互いに意見を交わしていく。
1年生の担当
2年生の担当
3年生の担当
側から見ていても非常に良い議論をしているのがわかる。が、それぞれがそれぞれの視点から語るが故に、あれもこれもとまとまりがない。落としどころに落ちない。
そこで、ちょうど2日前にあった創業体験プログラムの事業計画発表会を受けてゼミ5期生が書いてくれたブログを思考の補助線として使うように指示して、改めて議論してもらうことにした。
前回の授業の際、学生に伝えたのは方法論に終始して、本当に伝えなければならないことを伝えないのでは授業ではないという話をした。授業をするというのは、一方的にこちらが言いたいことを伝えることではなく、聞いている生徒が(知識を)理解し、(知識を実践で使うようにするために)自ら考えるように促すことで初めて十分だと言える。ただし、ここで考えなければならないのは、理解という言葉であり、自ら考えるという言葉である。
今回のような探求型あるいはPBLで陥りがちなのは「やっただけでおしまい」になることである。それを防ぐためにはインプットとふりかえりが必要なのだ。
実践をやるためには知識をしっかりと学び、理解することが重要。インプットができていないと、自分たちがやっている行為の意味を理解することができない。また、ふりかえり(省察)の過程で意味をふりかえることで、その場では気づかなかったことが冷静になって気づくこともある。
点と点をつないで線にし、線と線で平面を作り、平面と平面で空間を作っていく。
そういうイメージだ。構築物ができあがるかのように、学んできたことがつながっていく。
さらに言えば、その場で腑に落としたことが後々類似した現象が出てきたときに、異なる見え方として映ることがあるということも重要なのである。まさにこのOGが書いてくれた記事はそのことを示唆しているのであって、先輩が後輩に残してくれた重要なメッセージである。
私自身は聞いていなかったが、あとで聞くとある学生がこんなようなことを言っていたらしい。
果たして自分たちはお客さんが買いたいと思うような戦略を描けているだろうか。商品は。販売戦略は。自分たちがどうするかばかり考えていたのではないだろうか。
もしかしたら過ぎた脚色かもしれないが、これまで私が学生に向けて言い続けてきたことがようやく理解できた瞬間だったと言えるだろう。そう。後々気づけばいいのである。が、後々気付くためにはその場で良い講義をしておかなければならない。今回のふりかえりのポイントはそこに気付いてもらうことだった。
さらなる高みへ
こうしたやり取りのあと、最後に私は学生にこのように伝えた。
次はマルシェ終了後のふりかえり。これまでは知識をインプットしてもらい、理解してもらうこと、自分で考えてもらうための材料を提供してきた。が、今度は違う。彼女たちが自分がしてきた経験を自分の言葉で話してもらわなければならない。これがいかに難しいことかは、ゼミ募集で2年生に話してもらう難しさを考えれば容易だろうと。
それを的確な表現かはわからないがサッカーの例えを使ってこんなふうに表現した。
「今までは自分たちがボールを持って、どういうロジックでゴール(女子高生の理解)を決めるかが重要だった。しかし、今度は相手がボールを持っていて、奪ったら一気にカウンターでゴールを決めなきゃいけない状況だ」と。
要するにボールを持っているのは女子高生だ。彼女たちがしてきた経験をここまで学んできた知識と紐付けて、彼女たち自身で腑に落としてもらい、言語化できるように導くことがミッションになるのだ。多くの言葉を持たない彼女たちにとって言葉で表現することは極めて難しいだろう。
そして、それは同様に大学生たちも同じである。七隈祭での出店を終えたあとのふりかえりで彼らが何を学んだのか、それをどう言葉にできるかによって、このふりかえりの精度が変わってくる。まさに、教えることで学ぶのである。
教育はブーメランなのである。
4年生はこんな記事を書いてくれた。
この記事を読んでもらって、特に3年生の創Pへの臨み方が変わることを期待している。
加えて、たまたまこういうタイミングでこんな記事が流れてきた。ゼミ生には読むように指示したが、果たしてどれだけの学生が読んだだろうか。ちょうど今日は2年生のゼミだったので、少しだけ話をした。
すでに読んでよく理解している学生もいた。こうやってうまく思考の補助線を作って、自分たちで考えられるようになれば、あとこちらが楽ができる。
あくまでも学生起点。こちらはリアクションしてカウンター一閃で沈める(あくまでも例えです)。これができるようになれば、自分の時間をもう少し違うことに使えるようになるかな。
最後に、このマルシェを始めて良かったことに、ゼミ内のタテの関係が良くなったことが挙げられる。これまで創Pではライバルとなり、プロジェクト報告では上級生がアドバイスする立場であったこともあり、あまり上級生と下級生が関わる機会がなかった。それこそ運動会と新歓と追いコンしかなかった。
これがマルシェという混ぜこぜで協力しながら課題解決にあたるプロジェクトが立ち上がったことはゼミにとって幸せなことかもしれない。
いずれにせよ、学生の成長を頼もしく感じた第3回目の講義でした。次回は12月13日、卒論提出の直前である。どうなってるでしょうか。
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