自分たちが作った製品に価格をつけるという学び|2022博多工業高校×とびゼミコラボ授業⑤
もう11月11日ですね。そうか,今日はポッキーの日ですね(笑)
11月3-5日はゼミの中核的カリキュラムである創業体験プログラムの七隈祭での出店でした。3年ぶりの模擬店ありの学園祭で出店前にはいろいろな調整を要しましたが、2年生は大分県佐伯市から仕入れたサバを使ったピリ辛の「龍宮船焼きそば」を、3年生は長崎県壱岐市勝本浦から仕入れたイカを使い、みんな大好きカレーで仕上げた「イカリーあんかけ焼きそば」を販売しました。いずれも多くのお客様にご購入頂き、ありがとうございました。
それからまもなく1週間。今日は博多工業高校デザイン科ビジュアルデザインパートの皆さんとの4回目の授業でした。高校生も行事だらけでお疲れのよう。最初の頃のようなワクワク感が感じられなくなってきて,少し寂しい気もします。
これまで3回の授業では,マーケティングの基礎(4Pと4C,STP+D)から競合分析(ニトリや無印良品),そして前回は「そもそものメメント森のブランドって何を伝えたいんだっけ?」という話をしてきました。そこではマーケティングの基本には作り手と使い手の関係性をどうデザインするかがあるんだよという話をしてきました。
それを受けた今回は,自分たちの製品を買ってくれる顧客はいくらだったら払ってくれるか,その価格で事業として十分に存続することは可能か,そもそも生産数量は担保できるのか,役割分担はどうするのかというような話をしました。
それも12月3-4日に開催される福岡女子商業高校での「女子商マルシェ」での販売を見据えたもので,期末考査や卒業制作などがある中で限られた時間でどこまでやり切れるか,高校生の頑張りに期待です。
これまでの授業経緯はこちらのマガジンにまとめておりますので,ぜひご一読ください。
それでは今回の授業の様子を覗いてみましょう。
1コマ目:創業体験プログラムから得られた学びを共有する
さて1コマ目と行きたいところが、ここでハプニング。実は天神でのミーティングが大幅超過してしまい、急いで向かったけど遅刻。さらに広い校舎で迷って遅れるという失態。先生や生徒にお詫びして授業がスタート。
まずは、今日のテーマと関わるところで、担当の先生からのリクエストもあって先日の七隈祭での出店がどんなだったのかから。販売データやそれまでのプロセス(合宿→商品決定→事業計画発表会→準備→出店)を丁寧に説明。
その中でも強調したのが、商品・サービスの価値を伝えることがいかに難しいのかということ。
2つの焼きそばの販売価格はともの400円。試食した株主始め、来店された皆様いずれも言われたのは「どちらもうまいけど、イカリー焼きそばは絶品」と。実際私も同じように感じていた。しかし、実際に売れたのは2年生の竜宮船焼きそばだった。しかも、2日目は販売個数でほぼダブルスコアがつくほどの結果になった。
その原因はいくつか理由はあるだろう。器に入れた時の見栄えやポーション(多分実験ちゃんとしてない)、看板はじめ外装のメッセージの弱さ、ネーミング、そして販売力だ。特に2日目は最初の1時間で4食しか販売できなかったこともあり、それを1日引きずってしまったのかもしれない。他にも「どうにかなるだろう」「(この程度で)大丈夫」という慢心もあったかもしれない。
だから、どんなに良いものモノを作ってもそれが何であるかを伝える必要があるのだと。そして、それをある価格で売って買おうか、どうかという判断をポジティブに下してもらうために、たとえ一瞬のコミュニケーションでも顧客との関係性をどう構築するかが大事だよと。簡単に言うけど、これを設計するのが難しいんだよという話をした。また、それを理解する下敷きとして、これまでの授業があったんだよという話をした。
高校生にどこまで伝わったかわからないが、実はこれは次に続く損益分岐点分析から価格設定の話につながる重要な論点。稲盛和夫氏が著書の中で言ってきたように値決めは経営なんだよね。価格には製品と同じようにいろんな意味が含まれてるってことを知ってもらうには良い機会だったのかもしれない。
2コマ目:損益分岐点分析の講義と製品開発会議
という話をした上で、2コマ目は損益分岐点分析の授業。いくらで作って、いくらで売るか。目標利益を達成するには何個売らねばならないのか。学生による授業が始まる。
今回、「メメント森」で作る製品は油山の間伐材を使うが、加工は学校で行う。多少仕入れを行うことになるが、べらぼうに金額を必要としない。また、特段人件費が発生するわけではないので、固定費らしい固定費はかからない。そういう意味では損益分岐点分析を学ぶ題材としてはなかなか難しい。
学生もしっかり説明してくれた。売上はね、変動費はね、固定費はねと。だが、これを逐一説明したところで、何か判断できるようにはならない。だから、教えることで大学生も学べる。学生がひと通りの説明を終えたところで、バトンタッチして説明を続けることにした。よく頑張りました。
ここで大事なのは、貢献利益(粗利益/付加価値)という概念。先の時間でも話したように、ブランドがあって、提供したい価値があって、それを買いたいと思うお客様はいくらで買ってくれるのか。原価と回収するべき費用諸々を見て、価格をいくらにするか。それを決めるのに貢献利益、すなわち付加価値をどう決めるかがポイントだよねという話。
例えばサイゼリヤのミラノ風ドリア300円はなぜこの値段なんだろうか?財務数値を見ると、売上総利益率が66%だから、原価100円、粗利益は200円だ。しかし、営業利益率は6%ほどだから、事業そのものの利益は20円ほど。つまり、180円は店舗の運営費だったり、諸々の経費がかかっていることになる。創業者が「お値打ち感」と言っているように、その商材を購入するのに腹落ちできるように仕組みを作ることがポイント。
つまり、低価格で売るはいいんだけれども、そこには事業に対する価値観=顧客への価値の提示と、事業を継続できる仕組みづくりを両立しなければならない。加えて、その価格で購入する納得感だったり、満足感のようなものをこちらで設計しておくことが重要。
こんなことを話して、高校生には「自分たちは消費者の立場であれが高い、これが安いとやるけど、そこには個人の価値観のようなものが色濃く反映される。じゃあ、逆に自分たちの売り物に価格をつけようとしたら、どう決める?」と尋ねた。
そこで黙ってても埒が開かないので、高校生に質問。「この一輪挿しはいくら?」「○○○円です」「なんで?ぞの価格はメメント森というブランドが伝えたいメッセージを受け止めてくれるお客さんが買ってくれそうな値段?」「…」みたいなやりとりをしつつ、各個人の意見を聞いていく。
さらに「その価格で売るならパッケージはどうする?」「どうやってメッセージを伝える?POPは?キャッチフレーズは?」といった具合にこれまで重ねてきた学びにどんどん質問を重ねていく。
そうしたやり取りをしばらく行ったところで、ようやく価格と価値をどうバランスさせるか、そこに品質をどうするかというディスカッションが進むようになってきた。まるで、先般の飯塚高校での出店前の生徒たちを見ているようでもあった。ようやくジブンゴトとして捉えられるようになった感じまできた。
こうして2コマ目が終了した。
3コマ目:限られた時間で可能な生産個数は?品質はどうする?
続いて3コマ目。先のディスカッションがさらに熱を帯びていく。
ここで議論になったのは女子商マルシェまでの限られた時間で、どれだけの生産量を確保できるかということだった。学園祭のように何百食も売るような商材ではないけど、一品ごとの品質を上げるなら短時間で仕上げれば良いとはならない。
ある高校生からは「1個目作るには慣れてないから時間がないけど、2個、3個と作ればスピードは上がるはず」とか、また別の高校生からは「ここの加工をするかしないかで時間がかかるかどうかわかるから、これをやるかやらないかを決めたい」とか、実際にモノを企画して、設計して、作るプロセスになった途端にどんどん発言が出てくる。
また、今一度前回話し合った「メメント森」ブランドの価値、伝えたいメッセージから考えてみると、商品構成はどうしたら良いのかと投げかけると、最終的には次のような商品群が提案され、当日に向けて製造作業に取り掛かることにした。
今回販売するメイン商品は、夏休みの時点でできあがっていたカッティングボード、男子生徒が試作品で作っていた一輪挿し、そしてこれも以前から作られていてメメント森のロゴがあしらわれているコースターの3品に決定した。
金額設定も長く使ってもらえる良いもので、それぞれ1点モノになるし、素材もデザインも自信を持って売れるモノだからと、まあまあの価格設定になった。そこにはこのプロジェクトの目的である緑を守る、森を守るという志、その志を知ってもらうための製品を丹精込めて作っていくという自分たちの意思、そして長く使える良いモノだという自負が含まれていたように感じられた。
さらに先生からは商標登録で準備していたタグのデザインが提示され、ラッピング案と合わせて当日販売のイメージがだんだんと膨らんできた。
ここで時間切れ。だが、今回はだいぶ進んだ気がする。私もホッとしつつ、第4回授業が無事終了した。
ふりかえり
これまでの授業中に気になっていたことがあった。
このプロジェクトは6人の高校生が参加しているが、1人だけうまくグループに馴染めていない印象がある生徒がいた。が、その生徒の持つ能力を担当の先生は評価されていて、このプロジェクトを通じて自信を持って欲しいと言われていた。
前回の課題に販売する製品のデッサンを描いてくるようにとしていた。しかし、全員が全員やってきたわけではない中で、その生徒は独創的で面白い形状の一輪挿しをデッサンしていた。本人は気恥ずかしそうにしていたが、先生もそれを見るなり激賞されていた。
ここまでの授業の様子を見ても、内容が難しいからか、メンバーの中心的役割を果たしている生徒は授業中は上の空の感じ。だが、中にはしっかりと聞いてメモを取ったりしながら、発言を求められた時には自分の言葉で語れる生徒もいる。自分の言葉で語ることを苦にせず、解像度高く語れる生徒もいる。
「今日も、実習の時間に数人の生徒に女子商マルシェの準備をこっそりさせていましたが○○さんは、POPやキャッチコピーを真剣に考えていました」
少しストレッチした目標を与えて、できるかどうかわからないけどプロアクティブに動こうとする生徒が出てくればあとは早い。プロジェクトを軌道に乗せる、生徒がやる気になればサポートしてくださる先生のおかげもあり、一気に前進しそうな兆しが見えてきた。
こういうふりかえりをしている中で気づいたこともある。
どうも私の悪い癖か、いつもは「やらせてみせればいい」「実践から学べることはたくさんある」と言うのに、結局高校生の授業は4回のレクチャー、1回の実践、1回のふりかえりと知識のインプットを優先させ過ぎる。その学びが実践にどう結びついているかも十分に理解できないまま、授業は淡々と進んで行ってしまう。これは今後の講義を作っていく上での大きな課題。
一方で、後になって分かれば十分だということもある。恐らくここまでやってきたことを時系列で振り返るのはなかなか厳しいと思うが、ヌルッとでもよいので今回の経験をちゃんと自分の言葉で語る時間を取りたい。12月にもう一度授業があるので、そこでは販売という体験、お客様に自分たちの製品を実際に手に取って見てもらうという行為を通じて彼・彼女たちが何を語るのかに耳を傾けることにしたい。
ありきたりで何の捻りもないが、若い人が持つ可能性は無限。その可能性を広げられるような場としてこのアントレ教育が機能するようになると良いのかもしれない。もう少し仕掛けが必要だけど、他の高校とは異なるモノづくり中心のプロジェクトだけに、見えてる景色は新鮮だ。
さまざまな高校で授業をしつつ、同時に研究として調査を行うことで何が起きるかがだんだん見えるようになってきた。本当は講義内容が身について定着しながら学習が進むと良いのだが、少なくとも自己効力感や統制の所在には何らかの影響が与えられているという結果があることで、希望を持ってこのプロジェクトが進められているとは言えそうだ。
余談
先日、このプログラム担当の先生がわざわざ学園祭に足を運んでくださった。するとゼミ3年生が突然先生に声をかけるので何事かと思いきや、中学時代の部活の顧問だったそうだ。こうやって世界は繋がっていることを実感。世間は狭い(笑)
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