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アントレプレナーシップ×マネジメント×金勘定

先日,突然同僚からFacebook Messengerが飛んできた。

アントレプレナーシップとマネジメントってどう結びつけてるんですか?

自分の中では自明になっていたことだけれども,改めて言語化が求められる状況になるとどう説明できたのか。同僚からの問いかけで自分の頭の中が整理されていくことを感じながら,この週末に頭が整理できたように感じる。メモとして残しておくことにする。

これまでもゼミでの教育については複数回書いてきた。

教育に対するスタンス:PBLにたどり着くまで
専門としてマネジメントを教えること。
学びの質を高めるために:具体と抽象
読めてないわかってない問題への対応:ゼミの教育プログラム

が,ここで述べているのは体系立てられているものではなくて,何か分断されている気がしてた。今回,ディスカッションを通じて整理がついたような気がする。いや,元々考えていたことを思い出させてもらったと言ったほうが正しいだろうか。そんな時間になった。

管理会計を専門にしていたことがラッキーだった

よく講義でも「俺的に超イケてるビジネスってのがあるけど,そんなもんはすぐにうまくいかなくなる」とか,「どんなに想いがあっても,金勘定が成り立たなければビジネスにならない」って話をする。

それは簡単だ。ビジネスにおいて価値を生み出すのは企業かもしれないが,それに価値判断を加えて適切な価格で購入するのは顧客だからだ。

ビジネスプランの段階では金にならない。「そういうのあるんだ。いいね!」でおしまい。ゼミではドラえもん現象と呼んでいるものだ。

あんなこといいな できたらいいなあんな夢 こんな夢 いっぱいあるけど〜♫

最終的に社会に実装してナンボ。もちろんテクノロジーを必要とするものには時間がかかるけれども,お客様に買ってもらえるかどうかが重要。それでなければ企業は生き続けることができないという仕組みになっている。

アントレプレナーシップも,マネジメントも大事なのだけれども,最後はやはり金勘定なのだ。管理会計という学問は,この3つを検討する上で非常に良い理論的枠組みを与えてくれる。

貨幣的価値に変換可能な企業を取り巻く情報を会計は与えてくれる。
極めて抽象度が高い情報だけれども,経営者にはこれでしか企業の現状を把握することができない重要な言語。

企業活動の具体と抽象を行き来する学問。それが管理会計なのだろう。

ただ管理会計を教えていてもつまらない

数年前,とある投資家からSNS上でだいぶ批判を受けた。あいつはなんで俺のところに勉強しに来ないのだと。で,私は「私は起業家教育をしているわけではない。管理会計教育をしている」と反論(?)をしていた。ま,それ以来,彼は会っても無視してくるのだけれども,こちらの言うことに理解を示そうとはしないでしょう。

それはさておき,抽象度の高い会計を教えることは難しい。財務会計はまだ制度を学ぶことでそれをクリアできるだろうが,管理会計で教えていることの中心は予算や損益分岐点分析,責任会計制度,投資意思決定計算などの具体的な技法に過ぎない。道具の使い方をいくら教えても,教わる側にその道具が使われている状況が想像できないとリアリティが生まれない。

そのための装置が創業体験プログラムであり,社会課題を解決するプロジェクトである。残念ながら,このあたりは説明しても伝わらない部分である。

管理会計を学ぶのにマネジメントが必要だというのはわかるけど,アントレプレナーシップは必要ない。

そんな風に感じている人が多いのではないのだろうか。もう少し言えば,

アントレプレナーシップを教えるというのはキワモノ。

というのも依然として根強い気がする。

いやいや,今私たちが研究・教育の対象としている企業はすべからく誰かがスタートアップして,大規模化したものであって,大規模化した部分だけ取り上げて「ベンチャーは危険だ!大企業は安全だ!」というのもおかしかろう。

本学の創業体験プログラムが良いのは,15人から18人の学生が1つの企業を使ってマネジメントをする状況が作れることだ。

商品開発の段階はスタートアップ感満載で夜な夜な研究し,プロトタイプを作る作業。ところが,資金を調達して,模擬店出店までの過程は高度なマネジメント能力が求められる。特に,学園祭当日は頑健でありながらしなやかなオペレーションの構築,リアルタイムでの情報把握を可能とする仕組みの構築が求められる。後半は管理会計が登場する。管理会計以外のナニモノでもない。

まさに,創業体験プログラムそのものが,アントレプレナーシップ×マネジメント×金勘定から成り立っているプログラムなのである。

さらに言えば,私の理論的バックグラウンドは管理会計であり,アントレプレナーシップではない。ただ,アントレプレナーシップとは何か=なぜ人はビジネスを行うのかを考えることなくして,経営学や会計学は学べないと考えている。

専門ゼミとして教えたいことは管理会計(マネジメント×金勘定)であり,アントレプレナーシップはマインドセットとして思考の根底部分として伝えているというのが正しいのだろう。

これがなかなか理解されない。商学部の中で逆張りっていうのが悲しいところ。アントレプレナーシップが不必要なビジネスってどこにあるんやって聞きたいわ。

愚痴になってしまった:ふりかえりと言語化はやっぱ大事

というわけで愚痴になってしまったわけですが,あくまでも当ゼミの強みは,(擬似的な)ビジネスや新規事業立案の経験をしたマネジメントがわかる,金勘定がわかる社会人1年生を作っていること。別に学生団体を率いるわけでも,大きな大会に出たわけでも,ビジネスプランコンテストに出場したわけではないけど,ビジネスのロジックを経営者目線で見ることができるのが強み。全員が全員理解していないだろうけど。

が、それを学生は言語化できないし、よほど優秀な採用担当者でなければ「学園祭で会社ゴッコしてるのね」で終わる。説明する学生側に責任があるし、それが強みなんだと伝えられるようになるまでふりかえりをやってください。

でも,100%学生時代にわからなくてもいい。わかったら気持ち悪い。理解の取っ掛かりは付けておいた方がいい。学生時代にそこまで行けた人間はちゃんと活躍してる。

社会人になった時に「あの時言われていたことはこれか」と気づけばOKである。

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