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リベラル大衆文化の空虚な勝利

間違いないのは、ルース・ベイダー・ギンズバーグがロックスターだったこと。それが問題だったのかもしれない。 (Ruth Bader Ginsburg became a meme on the left while the right cemented its agenda - The Washington Post)

 27年間にわたってアメリカ合衆国最高裁判所陪席判事を勤めたルース・ベイダー・ギンズバーグが2020年大統領選挙を前に亡くなりました。これにより、すでに保守派に寄っている連邦最高裁判事が選挙の大きなポイントとなるでしょう。共和党ドナルド・トランプ大統領は保守派判事を送り込めるのか、それとも、共和党から造反が出てせき止められるのか(彼女の遺言が叶うのか)……。

 ギンズバーグが偉大な人物であることは間違いありません。2018年、伝記映画にあわせてドキュメンタリー映画『RBG 最強の85才』がサプライズヒットしたこともあり、トランプ政権第一期にはリベラル派の反抗的ポップカルチャーアイコンとして大きな人気を博しました。そのことについて、映画評論家アン・ホーナデイがThe Washington Postに厳しい論評を載せています。簡単にまとめると、アメリカのリベラル派はポップカルチャー領域にて大きな勝利を得ている。たとえばアル・ゴア元副大統領は気候変動問題を扱った『不都合な真実』でアカデミー賞ドキュメンタリー部門を獲得しています。そもそもハリウッドやポピュラー音楽界が民主党員だらけ、ここ10年はダイバーシティ表象も促進した……というのはほぼ定説(以下記事参照)。

 しかしながら、ホーナデイは、リベラル派がポップカルチャーの政治的表現を満喫しているあいだ、右派は知事や州議会、裁判所を掌握して政治的権力を高めていったことを指摘しています。こうした論調、トランプ当選時にリベラルのアイデンティティ・ポリティクス傾倒を批判したマーク・リラも行ってるんですよね。いわく、レーガン政権以降、共和党は「ボトムアップ」戦略をとった。地方選挙の勝利を確実にして、その次に連邦議会、大統領選挙で勝てるようにしていく「足元から固める」方式です。反して、民主党は「トップダウン」。4年に1回の大統領選挙での勝利を狙うため、地方で細かく支持を得ていくのではなく、全国メディア利用に重点を置いて全国民に同じようなメッセージを送ることにエネルギーを注いだ……と。これを踏まえると、名前そのまま「大衆文化」であるポピュラーカルチャー のリベラル的発信は民主党の「トップダウン」式に見合っているのかもしれません。そういうやり方こそホーナデイとリラが批判するものでしょうが。なんだか、RBGと比べてポップカルチャー人気は今一歩なヒラリー・クリントンの「マシン・ポリティシャン」論を思い出したのでした。

 長期的には、政治運動は、それだけでは本来の具体的な政治的目的を達することはできない。正規の機関の中にいる政治家や、官僚が運動の目的に賛同し、進んで実現に取り組んではじめて、目的は達せられるのだ。しかもそれには長い時間がかかるし、忍耐強く面倒な手続きを一歩ずつ進めなくてはいけない(中略)マーティン・ルーサー・キング・ジュニアは、アメリカ史上、最も偉大な運動指導者だ。しかし、ヒラリー・クリントンがかつて指摘したとおり、リンドン・ジョンソンのような「マシン・ポリティシャン[公共の目的よりも自らの小さな派閥や党のために動く政治家のこと]、そして交渉に長け、法案を通すためならば悪魔とでも取引をするような手練のベテラン議員たちがいなければ、彼の努力が実ることはなかっただろう。彼らの存在なしに公民権法も投票権法も成立することはなかったからだ。
 仕事は法律が成立したあとも終わることはない。社会運動の貢献により何か成果が得られたとしても、それを守るためには、選挙に勝ち続ける必要があり、リベラルはその点で共和党から学ぶべきだ。急進的になった共和党は長年にわたり、政府のあらゆる階層、あらゆる部分に強い影響力を維持し続けた。影響力を保てるよう絶えず努力を続けたのである。(マーク・リラ『リベラル再生宣言』

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