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考察にもフェミニズムが必要な気がしてくる『ウエストワールド』シーズン3

 日本でも配信が始まったHBO『ウエストワールド』シーズン3。考察オタク御用達ドラマなだけあって始まる前から架空企業サイトをつくり、そのなかに3個も裏・予告編を仕込む芸当をやっていたわけですが……。一方、かなりフェミニズムなSFであることも特色です。一昨年ブログで書いたように、「古き良きアメリカ」のステレオタイプ女性表象を負わされたアンドロイドが主人公だったりするので。

 というわけで、シーズン3のフェミニズムとかジェンダーっぽい要素もかなり面白くなってまして…… 

【※『ウエストワールド』シーズン3エピソード3までネタバレ】

 エピソード2”The Winter Line”にて、謎の世界に閉じ込められたメイヴ。結局「手抜きシミュレーションゆえにイレギュラーな負荷をかければフリーズする」答えに辿り着いたわけですが……それを説明するセリフが以下。

この世界は複製で処理能力に限界がある 女をモノにする物語を想像してみて 目的は女とヤること 股を開くこと以外を命じたら女は混乱する

 「女性キャラクターをただの性的オブジェクトとして扱う物語構造」の雑さ粗さを批評するようなセリフとなっているのですが、メイヴだからこそ自然で重みのある例えになっております。彼女は「賢くエロい(都合のよい)娼館マダム役」を課せられつづけたアンドロイドだったわけですから。可愛がっていたクレメンタインなんかは「股を開くこと以外を命じられたら混乱してしまう」設計に近いかもしれない。聞き流したとしても問題ないようセリフなんですけど、作品やキャラクターのメインテーマ、歴史とつながる言葉でもあるわけです。

 このセリフで思い出したものが、シーズン2エピソード7"LesÉcorchés"にて、馬鹿にしてくる男に「かわいいね」と言われたアンジェラのセリフ。

(私はかわいいけど)それだけじゃない 完璧、そう創られたから セクシー、おしとやか、愛想がいい でも無節操じゃない 優しい、それでいて面白い、賢い なのに高慢じゃない  確かに(私は酷い傷を負ってる) でも“お楽しみ”はちゃんとできる 私の礎を知ってる? あなたたちマーケティング担当者が私の核に埋め込んだ衝動はね "客に求めさせること"よ ウエストワールドへようこそ

 「客の欲望を満たす美人役」を30年課せられたアンドロイドがついに人間に反逆するハイライトだと思います。現実社会で抑圧される視聴者の一定数が共感し興奮できる「過激な暴力」であることは言うまでもなく。で、このアンジェラなんですが、シーズン3エピソード3"The Absence Of Field"考察で話題にあがっております。

 エピソード3の謎といえば「シャーロット・ヘイズの中身は誰か」。その候補にあがっているのがアンジェラなのです。今回、シャーロットは息子を狙うペドフィリア(児童性愛者)を殺すことで本懐を思い出したように覚醒しました。「性暴力加害者への憎悪」といえば……先ほど引用したように、アンジェラが浮かんでくるわけです。ドロレスの人類虐殺計画に同意しそうなホストでもあるので。まぁ、ほかにも、ドロレスのコピーとか、クレメンタインとか、恋人テディに父親、バーナード、メイヴとか、色々候補は出ているのですが。「元夫に対して色仕掛けを行ったから(元々売春婦として設計されていた)クレメンタイン」説もなかなか面白い。個人的にはアーロン・ポール演じるケイレブもアリなのですが(時系列がぐちゃぐちゃのパターン)。

 なにはともあれ、今アメリカで最も考察を喚起させるSF大作のひとつが「フェミニズム/ジェンダー的な発想を要する」仕組みであることが面白いなと。大勢の人が楽しめる内容ではあるのですが、深掘りする場合、性的規範などの知識を少なからず持ってないと難しい気がします(そもそも企画のはじまりがウエスタン・ジャンルのジェンダー批評みたいな感じなのですが)。

 ちなみに、今シーズンのハイライトといえばドロレス対メイヴ。こういう実写SFブロックバスターで「世界の命運を握る」系W主人公が両とも女性であること、そしてそのことがアメリカのマスメディアであまり目立った取り上げられた方をされていないのが結構珍しいというか、色々浸透してきている証左かなと。

よろこびます