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急速に店舗数を増やす都市型小型スーパー「まいばすけっと」。そのシンプルで分かりやすいビジネスモデルとは

東京、神奈川を中心に展開し、「近い、安い、きれい、そしてフレンドリィ」をコンセプトとする「まいばすけっと」。大型スーパーが存在しない都心に住む人たちにとってはとても身近でありがたい存在ではないでしょうか。今回は、ローコストオペレーションを実現している「まいばすけっと」のビジネスモデルについて「食品商業」副編集長の三浦慶太さんにレポート頂きました。

首都圏のまいばすけっとで1000店舗目となった「まいばすけっと大森北1丁目店」。
2022年1月14日にオープンしました

1,000店舗、2,000億円企業に急成長

2005年12月にイオンリテールの事業部として創業し、神奈川県横浜市に1号店を出店した「まいばすけっと」。その後、東京都と神奈川県の都市部を中心に店舗拡大を進め、2012年にはイオンリテールから分社化。近年は毎年約100店舗のスピード出店を続け、2022年1月14日にオープンした「まいばすけっと大森北1丁目店」で1000店舗を達成しました。

まず、まいばすけっとの経営数値を確認してみましょう。

非上場のため詳しい数値は公表されていませんが、直近の決算公告を見ると、売上高2,093億4,600万円、荒利益高535億4,200万円、営業利益高33億5,700万円(2022年5月19日、第11期決算公告)。

売上が2,000億円強のスーパーと年商を比較してみると、ロピアが2,469億円(2022年2月期)、いなげやが2,514億円(2022年3月決算、ドラッグストア事業を含む)、沖縄のサンエーが2,044億円(2022年2月決算、外食事業を含む)。創業から約17年、まいばすけっとはこうした企業と比肩するまでに急成長しています。

次に利益率を見てみましょう。まいばすけっとはディスカウント業態としてのイメージが強いですが、荒利益率は25.6%で一般のスーパーとそれほど遜色ありません。これにはイオンのプライベートブランド(PB)「トップバリュ」の商品を多く販売していることが寄与していると想像されます。

ただ、営業利益率は1.6%で高いとはいえません。まいばすけっとは都市部にあるため、家賃とパート・アルバイトの時給が割高になります。今年は水道光熱費の大幅な高騰もあり、収益性をどう維持していくかは今後の課題といえるでしょう。

全店売上高推移
※まいばすけっと株式会社ホームページより
出店推移
※まいばすけっと株式会社ホームページより

ここからは、まいばすけっとのビジネスモデルの具体的な内容について紹介していきます。まず同社のコンセプトを確認しておきましょう。次の4つのキーワードで表現されます。

「近い、安い、きれい、そしてフレンドリィ」

誰でも理解できる、やさしい言葉ですね。この分かりやすさこそ、まいばすけっとの商売の強みを象徴的に表していると感じます。そこで、この4つのキーワードに沿ってまいばすけっとのビジネスモデルを紹介してみたいと思います。

「近い」という立地上の強み

まずは「近い」です。「近い」とは、立地上の強みです。冒頭に述べた通り、まいばすけっとの立地は東京都と神奈川県の都市部に集中しています。

2020年の国勢調査によると、東京都の世帯のうち、単身世帯は362万5,810世帯で一般世帯全体の50.26%となり、初めて半数を超えました。単身世帯が増加した理由としては、高齢者の一人暮らしが増えたことが大きいです。

こうした高齢者にとっては、少し離れたスーパーに行くのも大変なことが多いです。まいばすけっとのホームページの企業紹介動画の中では、「都市で生鮮購入が難しい高齢者の数は2025年には推計870万人」になるとの予測が紹介されています(https://www.recruit.mybasket.co.jp/)。

こうした「遠くのスーパー」に行けない高齢者にとって、徒歩数分で行ける「近くのまいばすけっと」は非常にありがたい存在といえます。コンビニという選択肢もありますが、コンビニでは生鮮食品が揃わないことが多いため、ミニスーパーとしてのまいばすけっとが選ばれることになります。

ここで以下の地図を見てください。これは長年まいばすけっとの変化をウォッチしているという横浜在住のスーパーマーケットの経営コンサルタント・代田実氏にお借りしたもので、横浜市西区にあるまいばすけっとの店舗をプロットしています。赤い丸で囲んだAとBのドミナントエリアには、半径300mに5店舗ずつが密集しています。驚くべき密度です。

横浜市西区のまいばすけっとの店舗

複数のまいばすけっとをよく利用している」という一顧客でもある代田氏は、次のように解説します。

「これだけの店舗密度で存在できるのは、地元住民の感覚からすれば、まいばすけっとが買い物困難者の救世主になり得る『立地』と『品揃え』で営業しているからです。

地図では、まいばすけっとのドミナントに隣接してスーパーのサミットストア横浜岡野店があります。ここにはダイソー、デコホーム、家電量販店のノジマ、医療モールなどが併設され、近隣住民にとっては何でも揃う便利な商業施設です。

しかし、ドミナントA・B地区の住人がサミットストアに行こうとすると、JR東海道本線・相鉄線の線路や国道1号線を渡るのに跨線橋や横断歩道のあるところまで迂回していく必要があり、気軽には行けません。かといって、近所のコンビニでは生鮮食品を買うことができないため、まいばすけっとを利用する住民が相当数いるのです。

また、横浜市西区は単身世帯率も高く、横浜市の平均43.5%に対して西区は57%です。仕事帰りに駅近のまいばすけっとに立ち寄る若年世代の住民も多いです。
こうした理由から、半径300 mに5店舗を出店しても個々の店舗が成り立つ客数を確保することができるのです」

「近い」という買い物の利便性を求めるのは何も高齢者に限ったことではありません。実際にまいばすけっとの店舗をいくつも回ってみると、若い世代の顧客が相当多いことが実感できます。

また、小型店であるため新規物件を見つけやすいのも特長です。都心部では大型スーパーを出店できる物件はほとんどないといわれていますが、まいばすけっとは年間約100店のスピード出店を継続しています。まいばすけっとは全店が直営店であり、出店や撤退の意思決定を迅速に行うことができるのも強みです。個人店やFC店ではこうした出店は難しいでしょう。

ここで、商売の格言を一つ紹介したいと思います。

「一に立地、二に立地、三・四がなくて、五に立地」

商売においていかに「立地」が大切であるかを説くものですが、まいばすけっとの商売はまさにこれを体現しています。

都市部でスーパーやコンビニが対応できない生鮮食品のニーズが存在する立地をターゲットに、小商圏で成り立つフォーマットを作り、隙間を埋め尽くすようにドミナント展開したことが、まいばすけっとの第一の成功要因であると考えます。

「安い」を実現するローコストオペレーション

次に「安い」について。小売業において、「安さ」は昔も今も変わらない圧倒的な武器です。さまざまな工夫によって利益を確保しながら「安さ」を提供している企業はやっぱり強い。まいばすけっとの価格は、コンビニより安いのは当然として、EDLP(Every Day Low Price)型のスーパーよりも総じて安く設定されていると感じます。

商品調達面での「安さ」は、企業規模によるスケールメリットや、イオングループのPB「トップバリュ」を多く品揃えしていることが要因として考えられます。

商品調達以外では、ローコストオペレーションによって低価格販売の原資を生み出しているところが大きいです。まいばすけっとは都市部に立地するため、家賃やパート・アルバイトの時給は割高になるので、その分、いかにローコストな店舗運営を実現できるかが収益向上のカギになります。

ローコストオペレーションのポイントを一つずつ見ていきましょう。

まず、まいばすけっとでは一人の店長が1〜2店舗を担当します。当然、人件費の節約につながります。

ここで、まいばすけっとの店舗運営を行う「営業部」のキャリアパスについて触れておきます。まず新入社員は入社すると6ヶ月間の研修を行い、その後、「店舗マネージャー」という1店舗の店長になります。そうして経験を積み、次に2店舗を担当する「スーパーインテンデント」になります。その次は、店長を卒業して10店舗を指導する「エリアマネージャー」となり、さらにその上のキャリアとして100店舗を統括する「ゾーンマネージャー」になります。

一店一店の収益はもちろん重要ですが、それ以上にエリア全体、ゾーン全体で収益を最大化するという意志が強いように感じます。1つの大繁盛店を作るよりも、標準的な黒字店舗を多数作る方が効率的であるという考え方が根底にあるようです。

次に、オペレーションの簡素化について。まいばすけっとのパート・アルバイトの主な作業、「レジ」「品出し」「清掃」の3つが基本で、それに加えてお客からの質問などに対応する「接客」を加えた計4つです。

コンビニのような公共料金の受付や、お弁当の温めはありません。基本の3つの作業は時間ごとに各スタッフに割り当てられ、やるべきことが明確になっていて迷うことがありません。

棚割は基本的に三尺のゴンドラごとに作られています。各ゴンドラの配置は店内の広さや形によって異なりますが、一本一本のゴンドラの中身は同じ棚割です。このゴンドラごとの棚割には、販売データの精細な分析に基づくカテゴリー戦略が反映されていると思われます

なお、この原稿を書くために、都内の大田区、中野区、杉並区にある5店舗を実際に回ってみました。店舗によって多少アレンジされている部分もありましたが、基本的には同じ棚割でした。ただし、ある店舗には「トップバリュグリーンアイ オーガニックはちみつ」が置いてありましたが、他の4店舗には見当たりませんでした。店舗やエリアによって、多少の変化はあるようです。

「きれい」「フレンドリィ」を担う人材への投資

上記のローコストオペレーションを店舗で実行するために、各店舗共通の「作業基準書」と呼ばれるマニュアルがあります。それを忠実に実行することが、まいばすけっとの店舗スタッフの仕事になります。

この基準書については、2021年10月から全店舗で紙のものを廃止し、電子化を進めています。また、2022年7月には横浜トレーニングセンターを開設し、接客やレジ操作などの研修を行っています。シンプルなオペレーションだからこそ、教育を強化することで一層の効果を得ることができると考えられます。

作業は標準化されていて、棚割も同じ。従って、基本的にはどの店舗でも同じ作業を行います。そのため、スタッフは複数の店舗で勤務できる仕組みになっています。店長は、エリア内の店舗で勤務できるスタッフを融通することができます。また、スタッフは専用システムを通じて、シフトが空いている時間に働きたければ勤務申請することもできます。店にとってもスタッフにとっても働きやすい環境が整っています。

きれい」を実現するのは店舗スタッフの日々の清掃作業ですが、本部でも清掃しやすい床材を取り入れたり、掃除用具のモップを汚れが落としやすいものに変更したりするなど、環境整備・作業改善を随時行っています。

こうした作業の簡素化・標準化によって、パート・アルバイトは安心して働くことができます。そうした心の余裕が「フレンドリィ」な接客につながっているといえるでしょう。

ローコストオペレーションの磨き上げにより、「安さ」はもちろん、「きれい」「フレンドリィ」を実現し、顧客満足度の向上につながる好循環を生み出しているのです。

まいばすけっとの岩下欽哉社長は、先に紹介したホームページの企業紹介動画の中で次のように話します。

「人口が集積している都市部というのはまだお客さまが不便に感じていらっしゃるところがたくさんあって、2,000店、3,000店は出店できるかなと思っています」

都市部の食生活を支える“地域の冷蔵庫”として、進化を続けるまいばすけっとから目が離せません。

まいばすけっと大森北1丁目店の他に以下の4店舗を視察しました
視察時に購入した商品(一部)
※商品の金額は2022年9月現在のものです。

(文:「食品商業」副編集長 三浦慶太)

今回はまいばすけっとの「近い、安い、きれい、そしてフレンドリィ」という理念に基づくシンプルなビジネスモデルを分かりやすく解説していただきました。

特に興味深かったのが、半径300mに5店舗を出店することを可能にする、緻密なドミナント戦略です。横浜市西区の地図を一見すると、スーパーやコンビニが乱立する“激戦区”というイメージを持ちますが、それでも街の構造や単身世帯の割合から「スーパーやコンビニが対応できない生鮮食品のニーズ」がある“隙間”を見つけ、5店舗を出店しても商売として成り立たせてしまうのだからさすがです。この緻密な戦略が担当者の経験や勘、地道な現地調査で支えられているのか、効率的に“隙間”を見つけるようなテクノロジーを導入しているのか、気になるところです。

「(都市部で)2,000店、3,000店は出店できる」とのことなので、近所にまいばすけっとが新規出店した際は、どうしてここが“隙間”だったのか?という視点でウォッチすると、また新しい発見が得られるかもしれませんね。


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