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Appleやコーセーに学ぶ、“体験”の作り方〜実店舗の顧客体験を考える(前編)〜

実店舗に求められる役割が変化する中、「いかに顧客体験を高められるか?」という視点で様々な店舗のカタチが生まれています。

以前noteでは小売業DXの有識者である郡司昇氏に、今後の実店舗の役割や接客のあり方についてインタビューを行いました

今回は顧客体験価値を上げる実店舗の取り組みから、具体的に活用できそうな施策のポイントなどをお聞きしました。

売り場面積あたり売上高1位を誇る、Apple Storeの顧客体験

――昨今、顧客体験価値を上げるために様々な形態のお店が登場しています。例えば、2022年3月に有楽町と博多のマルイにオープンしたD2Cブランドや個人などが1日単位で出店できる「concept shops」や、つい最近もYogiboの“渋谷の街”を体現したコンセプトストア「Yogibo Store 渋谷宮下公園前店」、ヤマダデンキの暮らしを丸ごと提案する体験型店舗「LABI LIFE SELECT 千里」、体験型ストアb8taの美容機器からEVまで体験できるポップアップストア「b8ta Pop-up Osaka – Hankyu Umeda」など、続々オープンしていますが、郡司さんは最近どこか来店されましたか?

郡司氏:コーセーの体験型店舗「Maison KOSÉ」を視察したことがあるのですが、そこで提供されているスキンチェックは面白かったですよ。顔を撮影するとシミやシワなど肌の状態が測定されて、診断結果が出るのですが、目に見えないくらいのものも分かるので驚きました。そしてその結果に基づいてビューティーコンサルタントがアドバイスしてくれるのですが、健康診断に基づいて薬を出してもらうような感じで説得力があるんです。そこで購入もできるので、こういう体験もありなんでしょうね。

実はもともと、「Maison KOSÉ」に来店したのはバーチャルメイクに興味があったからなんです。メイクをする人達からファンデーションや口紅、ネイルなどは試した後に落とすのが大変と聞いていたので、どういうものなのか興味がありました。こういったサービスは単に非接触という利点だけではなく、良さそうだと思った時に化粧を落とす負担を減らしつつ手軽に色々と試せるので、顧客のニーズを満たすことができるという大きなメリットがあるのだと思います。

もちろんWebサイトやスマホアプリでも同様のサービスは提供できると思うのですが、高機能を備えたプロの機械を体験する場と、プロの接客やブランドの説明が組み合わさることで、より高質な体験を提供できるのがコンセプトストアならではなのではないでしょうか。

__なるほど、それは面白いですね。専門的な機器を使ったデジタル技術とプロの接客サービスを組み合わせた新しい体験価値を提供していて、直接ブランドのプロに美容について接客いただけるというのはありがたいです。

ところで、ここ数年「体験」を提供することを目的とした実店舗が小売業界で注目を集めていますが、そもそも、体験型店舗とコンセプトストア、あるいはポップアップストアでは何が違うのでしょうか?

郡司氏:あくまでも私の認識ですが、ポップアップストアは期間限定の店舗ですね。例えば商業施設のエレベーター横のスペースで1週間新しいプロダクトやサービスを試せるイベントみたいなものも該当します。

コンセプトストアはブランドのコンセプトを体現した店舗のこと。例えば、Apple Storeはまさにコンセプトストアの代表です。実は小売業の中で売場面積あたりの売上高が1位といわれているのですが、そういう結果が出せるのも「大切にされたと感じながら顧客に帰ってもらうこと。そして、顧客の人生を豊かにすること」を目的に店舗設計やスタッフ採用・育成をしているからこそ、あれだけ優れた顧客体験を提供できているのだと思います。

体験型店舗は、プロダクトやサービスを体験することがメインに作られている店舗だと言えます。そして、体験型店舗の本来の目的は、ブランドにとって「理想的な形」でユーザーに商品を体験してもらうことだと考えます。海外では様々な形の体験型店舗が出てきていますが、日本だとb8ta Japanが有名ですよね。

――Appleについては以前(『D2Cブランドのチャネル展開。カギは顧客への「おもてなし」と「伝え続けること」』)のインタビューで「ウェブではできない究極の体験を提供しています」とおっしゃっていただきましたね。また、ポップアップストア運営に欠かせないポイントとして「商品知識のある接客」を挙げられていましたが、その点でいうとコンセプトストアや体験型店舗は質の高い接客をしっかりと提供できている印象ですね。

郡司氏:そうですね、特に体験型店舗の場合はプロダクトに対する意見などを収集してメーカーさんにフィードバックする役割があるので、店舗スタッフの役割や目標・評価指標設計も含めて、きちんとできている点が大きく違うのだと思います。

ただ、体験型店舗は作るのは簡単でも、集客や運営などの点で成功させるのはなかなか難しいのではないかと思っています。集客のアプローチの方法としては、たまたま街を歩いていて、目に留まった商品があったのでお店を覗くというケースは多いと思いますので、やはり立地を活かすことは手段の一つでしょうね。

――買ってもらうことではなく、まずはより多くの人に製品を知ってもらって意見を聞くということですと、立地は重要ですね。

ドラッグストア店舗でも参考にできる、体験型店舗の展示の工夫とは?

――ちなみに海外の体験型店舗の中で、日本の小売業界の参考になりそうな事例はありますか?

郡司氏:やはり、有名なのはアメリカの体験型店舗「SHOWFIELDS」ですね。
現地の店舗を訪れた知人から聞いた話で面白かったのが、化粧品の展示方法です。いろんな化粧品を組み合わせたセットと一緒にポーチを展示していて、このセットがこのポーチにすっきり収まります、という訴求をしていたそうなんです。

化粧品とポーチを作っているブランドが別の会社の場合、意外と一緒に陳列されていることがないんですよね。でも生活者の立場からすると、自分が使っている化粧品がどういったポーチに入るものなのか知りたいですし、他の人がポーチの中にどういったものを入れているのかも知ることができるので、とても有益な情報だと思います。

実はこういう展示は化粧品だけに限らないので、ドラッグストアでも有効ではないかと思っています。このように展示や陳列の工夫で顧客体験を創出するという視点はヒントになりそうですよね。

――なるほど、商品の見せ方で体験価値をつくるということですね。最近は「マイクロバック」が人気ですが、そのサイズ感に“何を入れるのか?”といったことに注目が集まっていたりしますね。そういう意味で、こういう展示はとても興味があります。SHOWFIELDSは今年日本に進出するというニュースも出ていたので、今後の動向にも注目したいですね。

(後編に続く)

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【プロフィール】
郡司 昇(ぐんじ のぼる)
店舗のICT活用研究所 代表

ドラッグストア大手ココカラファインでEC事業会社社長として事業黒字化の後、全社マーケティング戦略を策定。マーケティングとECの責任者兼任。現職は小売業のデジタルトランスフォーメーションにおける小売業、ベンダー、顧客の三方良しを支援するコンサルタント。新著に『小売業の本質: 小売業5.0

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