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岩井俊二の最高傑作『ラストレター』を観た。

【『ラストレター』/岩井俊二監督】

松たか子 × 福山雅治。

神木隆之介 × 広瀬すず × 森七菜。

現行の日本映画界における最高峰の演技合戦に、ただただ圧倒された。

『告白』(2010)、『そして、父になる』(2013)、『君の名は。』(2016)、『三度目の殺人』(2017)、『ちはやふる -結び-』(2018)、そして『天気の子』(2019)。

この10年間の日本映画史における最重要作品の数々。今作には、そうした作品の主演俳優が一堂に会している。何と凄まじいキャスティングが実現したのだろう。メジャー最大手の東宝だからこそ実現できた本企画を、まずは手放しで祝福したい。


特筆すべきは、やはり森七菜だ。

昨年の『天気の子』の主演に続き、今作で、広瀬すずを凌駕しかねない圧倒的な存在感を見せつけた彼女は、今まさに、完全なるブレイクスルーを果たしたと言えるだろう。

今にも崩れてしまいそうなほどに繊細で透徹な感情を、思春期ならではの躍動するエネルギーに溶け込ませるように伝えていく。主題歌"カエルノウタ"の歌唱を含め、彼女の底知れぬ表現力に強く心を動かされた。


そして今回、この日本映画界が誇る俳優陣に演出を施したのが、もはや説明不要の名匠・岩井俊二監督(『Love Letter』『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』『花とアリス』など)だ。

これまでに数々の青春映画の金字塔を打ち立ててきた彼が今回挑んだテーマ、それが「初恋」である。

今作では、いくつもの「初恋」が描かれているが、それらの多くは、単なる青春時代の記憶にとどまっていない。その先に続く人生に、仄暗い憂いの影を残し続けているのだ。諦念にも似た壮絶な人生観を思わせる作風は、やはり過去の岩井作品にも通じている。


それでいて、今作は同時に「初恋」の純粋さと尊さを鮮やかに表現している。矛盾するようだが、そうした両面を妥協なく描くことができるのが、まさに岩井俊二の名匠たる由縁なのだ。

「ラブレターのいくつもの誤配や錯綜が、人生を作っていく。その美しさを教えてくれるのは、傘をさした二人の少女だ。岩井俊二ほどロマンティックな作家を、僕は知らない。」新海誠(アニメーション監督)

新海誠監督がコメントを残しているように、僕も、恥ずかしげもなく堂々と、今作を最高に「ロマンティック」であったと評したい。(特に、逆光を活かした「階段」のシーンには、どうしようもなく惚れ惚れしてしまった。)


この映画が公開されたのは今年の1月であったが、作中で描かれるのは、まさに梅雨明けから夏の終わりの季節だ。その意味で、今このタイミングでこそ、今作を鑑賞することを強く推奨したい。

忘れられない「夏」の映画。そのラインナップに、この『ラストレター』が加わることを、ここに約束する。





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