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2022年上半期、僕の心を震わせた「映画」ベスト10

今年に入ってから公開された作品の多くは、コロナ禍で企画が立ち上がったり、撮影や編集が進められたものである。もちろん中には、2019年以前から企画・制作が進行していた作品もあるが、いずれにせよ、このウィズ・コロナ時代においても、次々と新しい作品が公開され続けていることは、とても希望的であると思う。

2022年7月現在、世界を見渡せば、新型コロナウイルスの感染拡大に限らず、目を覆いたくなるような悲しい出来事や、耳を塞ぎたくなるような悲痛なニュースばかりであるが、こうした時代だからこそ、フィクションとしての「映画」がどのような言葉を語るのか、どのような景色を映し出すのか、しっかりと追っていかなければならないと感じている。

その言葉、その景色には、クリエイターたちの祈りや願いが、そして、この現実に立ち向かう上での覚悟が宿っている。その中には、今という強烈な時代性を感じさせるものもあれば、一方では、とても普遍的なものもあるだろう。いずれにせよ、それらは私たちにとって、今この時代をどう生きるべきか、という大きなテーマと向き合う上での何かしらの手掛かりになると思う。

今回は、2022年上半期、僕が特に強く心を震わせられた新作映画10本をランキング形式で紹介していきたい。このリストが、あなたが新しい作品と出会うきっかけとなったら嬉しい。




【10位】
真夜中乙女戦争

まず、「永瀬廉(King & Prince)を主演に据えて、日本版『ファイト・クラブ』を作る」という破天荒な企画に圧倒された。そして、この世の全てに何の執着も持たないような厭世的な彼の瞳の演技が、とても素晴らしかった。今作はテロリズムを描いた作品でありながら、その本質は「青春映画」である。終盤には、コロナ禍を思わせるような世界線の描写があったことが何よりも象徴的なように、あらゆる可能性が無限に並列するモラトリアム期における日々のゆらぎは、とても切なく、何よりも美しい。そして、その脆いからこそ輝かしい日々を、僕たちは、いつか振り返った時に青春と呼ぶのだろう。原作小説に秘められた青春の煌めきを、今回の映画化を通して見事に抽出した二宮健監督に拍手を送りたい。


【9位】
余命10年

このコロナ禍の約2年半の中で、様々なシーンで、限りある命の尊さを再確認した人は、決して少なくはないと思う。「余命10年って笑っちゃうよね。長いんだか、短いんだか。」という劇中の台詞に対して「長い」と思うか「短い」と感じるかは人それぞれかもしれないが、一つ間違いなく言えるのは、私たちは誰もが平等に、刻一刻と最期の日へ向かっている、という不可逆的な事実だ。そうした日々の切なさを、温かく瑞々しいタッチで伝えてくれる今作は、もはや恋愛映画というカテゴリに収まりきらない普遍性を誇っている。長い映画史を振り返れば、今作と同じストーリーラインの「闘病もの」の作品は無数に存在するが、恋愛の先に続いていく人生の可能性と有限性を等しく輝かしいものとして映し出した作品は、極めて稀であると思う。


【8位】
クライ・マッチョ

決して今作に限ったことではないが、クリント・イーストウッドの作品は、そのまま一つのジャンルとしてカテゴライズしてしまいたくなるような唯一無二の存在感を放っている。アメリカの光と影、過去と未来、その両極を同時に照射することを通して投げかけられるのは、今この時代にこそ届けるべき鋭利なメッセージであり、その鋭さは年々増し続けているから凄い。今作は、『グラン・トリノ』や『運び屋』もそうであったように、イーストウッド自身の生き様を反映させた作品であり、同時に、「真の強さとは何か?」という普遍的なテーマに対する最新型の回答となっている。いつの時代も、彼にしか映し出せない景色があり、彼にしか語れない言葉がある。だからこそ僕は、イーストウッドの最新作を求め続ける。


【7位】
ハケンアニメ!

今作は、「アニメを作る」話であると同時に、「アニメを届ける」話でもある。また、「アニメの作り手」の話であると同時に、「アニメの受け手」の話でもある。つまり、今作におけるアニメ製作者の物語の向こう側には、一人ひとりの受け手の物語が存在しており、そうした二重性こそが、今作が非常に深い感動をもたらす理由であると思う。アニメは、その製作に携わった無数のクリエイターやスタッフたちの想いを乗せて、他でもない「あなた」へと語りかける。誰一人として同じ人生を歩むことのない私たちは、些細な理由で容易く分断されてしまう世界を生きているけれど、アニメには、一人ひとりの「あなた」と「私」を繋ぎ得る力がある。今作は、ポップ・カルチャーが誇る、そうした眩い可能性を深く信じさせてくれる。


【6位】
ウエスト・サイド・ストーリー

なぜ『ウエスト・サイド・ストーリー』は、長年にわたって無数の観客から求められ続けているのか。なぜ、この2020年代において、2度目の映画化として「再演」されたのか。その問いこそが、スティーヴン・スピルバーグ監督がメガホンを取った今作の本質に迫る上での、最良の手掛かりになると思う。数々の分断によって蝕まれた世界で、それでも、そうした隔たりを乗り越えて求め合おうとする者たちの愛と信念の物語。いくつもの時代を超えて上演され続けてきたこの物語には、それぞれの時代を生きた者たちの透徹な願いが詰まっている。そして、スピルバーグの手によってブラッシュアップされた今作は、そうした想いを全て乗せた、加えて、今を生きる私たちの願いを込めた、まさに、最新型の「伝説のミュージカル」である。時代を超えて進化し続けるエンターテインメントの逞しい力に、心が震える。


【5位】
ベルファスト

1969年の北アイルランド紛争を描いた物語が、2022年現在の世界情勢とリンクしてしまったことは、とても悲しいことだと思う。それでも今作は、数々の分断によって蝕まれた現実の世界に対して、「映画」からの一つの回答を示してくれた。その回答とは、つまり、大人が子供へ伝えたいこと、いや、伝えていかなければならないことそのものである。たとえ綺麗事だと言われたとしても、フィクション性を介した「映画」には、私たちが真に目指すべき未来のビジョンを示す力がある。そしてそれは、私たちにとって、この仄暗く不透明な時代における、何よりも輝かしい道標となる。今作が、次の世代へ向けたメッセージボトルとして、いくつもの年代を超えて継承され続けていくことを願う。


【4位】
カモン カモン

今作の劇中には、大人と子供によるインタビューシーンが何度も出てくる。そうしたシーンの数々が、そして、この物語全体が伝えてくれるのは、インタビュー(interview)とは、単に質問することではなくて、「inter:相互の」「view:観点」を通して、お互いに学び合う行為である、ということだ。大人が子供に伝えていかなければならないことが数多くあるように、大人が子供から学ばなければならないことも非常に多い。次の時代を担う新しい世代の人々が持つフラットな視点は、私たち大人に数々のフレッシュな気付きを与えてくれる。そして時に、大人は猛省を促される。そう、今という時代を共に生きる大人と子供は、いついかなる時も対等な関係性なのだ。この映画には、子供たちが語るイノセントでリアルな言葉が詰まっている。いつだって、耳を傾けなければならないのは、私たち大人のほうだ。


【3位】
シン・ウルトラマン

まさに『シン・ゴジラ』がそうであったように、今作の真の主役は、私たち人類一人ひとりなのだと思う。たとえ、人類が、か弱くて、多くの矛盾を抱えた存在であったとしても、それでもウルトラマンは、私たちの未来にポジティブな可能性を見い出そうとしてくれた。そして、「人類には輝かしい可能性」があることを、最後まで信じ続けてくれた。それはまさに、フィクションとしての「空想特撮映画」だからこそ掲げられる、いや、映画にしか掲げられない至高のメッセージである。ヒーロー映画の本来的な意義は、ヒーローへ羨望の眼差しを向ける観客自身に、「あなたもヒーローになれる」ことを心から信じさせてくれることだとしたら、これ以上に素晴らしいヒーロー映画は他にないと思う。米津玄師が綴った《君が望むなら それは強く応えてくれるのだ/今は全てに恐るな/痛みを知る ただ一人であれ》という言葉が、静かに、何度も胸を打つ。


【2位】
流浪の月

まだ言語化されていない感情や関係性に、今もなお未分化の領域に、たとえ名付けることはできないとしても、小説は、映画は、その実存に豊かな輪郭を与えることができる。それこそが、表現の一つの役割であり、使命であり、挑戦なのだと僕は思う。そしてその試みは、今作において、とても美しく結実している。この物語は、文や更沙と同じような孤独を抱えながら生きる人々にとっての新しい「声」となる。そして、いつか、その「声」に耳を傾けられる社会を実現していくために、私たちは抗い続けていかなければならないのだと思う。この不条理で不平等で不寛容な世界で、それでも、この物語が存在する限り、「私は、もう一人ではない」という温かな確信を得られる人が、この先に一人でも増えていく可能性があるのだとしたら、僕は微力ながら、今作の存在を言葉にして伝えて、広めていきたい。


【1位】
ベイビー・ブローカー

黒々とした雨が降り頻るこの社会には、既存の「家族」という傘の中に身を寄せることのできない人々がいて、また、その中には、「自分は、生まれてきてよかったのだろうか」という根源的な不安や葛藤を抱える人たちも存在する。その切実な問いかけに答えること、つまり、あらゆる人に、「生まれてきてくれて、ありがとう」と伝えることこそが、今作が紡がれた理由、そして、今作の存在意義そのものである。今もどこかで、雨に打たれ肩を濡らす人たちがいて、その人たちが、いつか誰かが傘を持って迎えに来てくれることを心から信じられるようになったとしたら、それこそが、今作のかけがえのない価値となるのだと思う。是枝監督は、今作において、これまで描いてきた「家族」というテーマを超越した先に、「生きるに値しない命などない」という究極的に普遍なメッセージへと至り着いた。その願いの透徹さに、そして、映画作りを通して、その想いの正しさを証明しようとする覚悟の深さに、静かに、心が震える。


2022年上半期、僕の心を震わせた「映画」ベスト10

【1位】ベイビー・ブローカー
【2位】流浪の月
【3位】シン・ウルトラマン
【4位】カモン カモン
【5位】ベルファスト
【6位】ウエスト・サイド・ストーリー
【7位】ハケンアニメ!
【8位】クライ・マッチョ
【9位】余命10年
【10位】真夜中乙女戦争



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