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2020年、僕の心を震わせた「映画」ベスト10

本来であれば今年は、2010年代の先へと続く、次のディケイドの華々しい幕開けを飾る一年になるはずだった。しかし、まさかこんな形で「新しい時代」が到来することになるとは、昨年の今頃は、誰一人として予想できなかっただろう。

世界各地における映画館の封鎖を受けて、数々の新作映画の公開が延期となり、また、製作中の作品についても、大幅な延期を余儀なくされている。映画興行の歴史を遡っても、これほどまでに痛切な「空白」の期間は、かつてなかったはずだ。

しかし、希望は消えていない。日本においては、少しずつ映画館に人々が戻り始め、世界各国でも、中断されていた新作の製作が再開しつつある。このウィズ・コロナ時代において、新しい作品が生まれ、公開されていくことが、僕は一人の映画を愛する者として何よりも嬉しい。

今回は、2020年、僕が心を震わせられた新作映画10本(配信限定作品を含む)をランキング形式で紹介していく。このリストが、あなたが新しい作品と出会うきっかけとなったら嬉しい。


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【10位】
ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから

『エイス・グレード』、『ブックスマート』、『グッド・ボーイズ』、そして、『ハーフ・オブ・イット』。昨年から今年にかけて、全く新しい形の青春映画が次々と生まれている。これらの作品が凄いのは、「ダイバーシティ&インクルージョン」の価値観が、その世界の中において「当たり前」の大前提として共有されていることだ。2010年代、つまり「多様性」の時代の先に、あらゆる可能性を優しく内包した映画たちが生まれたのは、まさに時代の必然だったのだと思う。ここで挙げたタイトルの中でも、「言葉」や「表現」への想いが込められた『ハーフ・オブ・イット』に、僕は特に強く惹かれた。


【9位】
はちどり

中学2年生の少女の「小さな物語」が、1994年の韓国における不穏な社会情勢を示唆する「大きな物語」へとリンクしていく。映画ならではの鮮やかでダイナミックな語り口に痺れた。また、この映画は、僕たち観客が生きる現実社会と地続きのものであることを強く再認識させてくれた。一言で「社会派」という言葉で表してしまうことは躊躇われるが、今作が訴求しようとしている現実社会へのメッセージは、あまりにも深く、そして鋭い。今作の鑑賞から半年近くが経つけれど、静寂にして鮮烈な余韻が、今もなお消えていない。


【8位】
シカゴ7裁判

先述の『ハーフ・オブ・イット』然り、やはりNetflixオリジナル作品は今年も強かった。その中でも僕は、この混迷を極める時代において、「私たちは、民主主義を諦めない」と力強く謳う今作に強く心を打たれた。今作の製作に携わったクリエイターたちは、民主主義の原点に回帰しながら、今この時代において、その概念の本来在るべき形を観客に問うている。そして、「分断」された世界において、愛と理解と敬意をもってして、自分とは異なる他者と「連帯」することの必要性を説く。この2020年に、今作が全世界へ配信されたことの意義は、あまりにも深いと言える。


【7位】
ソウルフル・ワールド

ピクサーの最新作が、やはり凄い。「死ぬこと」を批評的に描いた『リメンバー・ミー』とは対照的で、今作のテーマは「生まれること」。極めて概念的で抽象度の高いメッセージを、シンプル、かつ、奥深い物語へと織り込んだピート・ドクター監督の手腕に圧倒された。(今作は、彼が監督を務めた『インサイド・ヘッド』の姉妹作とも位置付けられるかもしれない。)また言うまでもなく、妥協なく磨き込まれたキャラクター造形と映像技術も、過去最高レベルに達している。これほどまでに卓越した「総合力」を誇る作品を、映画館で鑑賞できなかったことが、一人の映画ファンとしてとても悔しい。


【6位】
劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン

とてつもなく壮大で、深遠な、そして普遍的なテーマを掲げた作品である。このシリーズは、「言葉」「コミュニケーション」の本質について、懸命に、誠実に問いかけ続けてくれた。時代が変わっても変わらないもの。否応もなく変わっていくもの。変わるべきもの、変わるべきでないもの。そして、その全てを真っ直ぐに貫くようにして、最後に辿り着いた「絶対的肯定」。それを、アニメの中の世界における綺麗事と捉えるか、もしくは、この現実社会を生きる上での信条と捉えるか。その選択は、あくまでも僕たち観客に託されている。


【5位】
パラサイト 半地下の家族

2020年代、新しいディケイドの幕開けを象徴する一大イベント、それが、今作のアカデミー賞作品賞受賞であった。映画界における歴史的転換点となった『パラサイト』は、端正なエンターテインメント作品でありながら、同時に、誰もが目を背けようとしていた現実の社会構造を鋭く批評してみせた。そして、全世界の観客の階層意識を不可逆的に変えてしまったのだ。この混迷を極める世界において、今作が、「分断」の時代の終幕を告げるのか、それとも加速を促すのか。これから、2020年代を生きていく僕たちが、明らかにしていかなければならない。


【4位】
ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

もしかしたら、この映画を「女性」のための作品と認識している人も多いかもしれない。しかし、今作を「多様性の時代」「女性活躍推進の時代」といった型に当てはめようとすると、大切な本質を見誤る。《今日も「自分らしく」を連れて行く》そう高らかに謳い上げる今作には、性別や時代をはじめとする全ての差異を超えていく究極の普遍性が宿っていると思う。原作小説が発行されてから150年以上が経つが、これから更にいくつもの世紀を超えて、一人ひとりの「わたしの若草物語」が紡ぎ継がれていくだろう。そしてそれこそが、この小説が「映画」として生まれ変わった意義なのだ。


【3位】
MANK マンク

今作が投げかけるのは、「映画とは何か?」「なぜ人は映画を作るのか?」という原初的な問いかけであり、同時にデヴィッド・フィンチャー監督は、この作品を通して一つの回答を示している。この世界には、人生を懸けて語るべき「物語」で溢れている。そして、そこに込められたメッセージに触れ、心を動かされた観客一人ひとりが変わっていけば、いつか世界は良い方向へと変わっていく。これこそが、「映画」の魔法だ。極めて原初的で、そして、だからこそ眩くて尊い「映画」の存在意義なのだ。この意欲作『Mank』を世に送り出したフィンチャー監督、および、Netflixを、僕は絶対的に信頼している。


【2位】
1917 命をかけた伝令

語弊を恐れずに言えば、これほどまでに「美しい」戦争映画は初めて観た。特に、廃墟街が燃え盛る夜のシーンが象徴的だが、名匠ロジャー・ディーキンスが映し出す一つ一つの「画」の力に圧倒され、心を強く震わせられた。だからこそ同時に、人と人同士が殺し合う無慈悲な戦争の構図が、残酷なまでに浮き彫りになる。これまでに数え切れないほどの戦争映画が生み出されてきたが、今作は、抗いようもない史実としての戦争、その理論や理屈を超越した「美しさ」こそが、平和を希求するメッセージへと繋がっているのだ。「映画」という映像メディアにしか描けない戦争体験、その先に紡がれる命のドラマに、ただただ涙が止まらなかった。


【1位】
TENET テネット

スクリーンに映る一つ一つの現象が、あらゆる現実を超越していく。そのたびに、既存の価値観が次々と覆され、気付けば、全く新しい世界へと導かれていく。初めて鑑賞した時は、その衝撃の大きさ故に一つも言葉が出なかった。圧倒的に「未知的」で、同時に「原初的」な映画体験を、まさか、この2020年に味わえるとは思ってもいなかった。『TENET テネット』は、「映画」の在り方を不可逆的にアップデートする歴史的転換点であり、同時に、ウィズ・コロナ時代における厳しい逆境の中で、懸命にトライアルを続ける映画業界の眩い希望である。後年、いつか2020年の映画史を振り返る時、その2つの意味で参照され続けていく作品になるのだろう。クリストファー・ノーラン監督に、最大限の感謝と敬意を表したい。



2020年、僕の心を震わせた「映画」ベスト10

【1位】TENET テネット
【2位】1917 命をかけた伝令
【3位】MANK マンク
【4位】ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
【5位】パラサイト 半地下の家族
【6位】劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン
【7位】ソウルフル・ワールド
【8位】シカゴ7裁判
【9位】はちどり
【10位】ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから



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