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サム・スミスの「告白」は、あなたの孤独を祝福する

【10/12(金) サム・スミス @ さいたまスーパーアリーナ】

2015年、グラミー賞(「最優秀新人賞」など主要3部門を含む4部門)を受賞したことで、一躍世界のスーパースターとなったサム・スミス。

代表曲"Stay With Me"のリリース時、彼は自らが同性愛者であることを告白している。

「天使の歌声」と評される彼の歌は、瞬く間に世界中の孤独な魂と共振した。

そして、彼の表現する葛藤や喪失は、極めて普遍的な可能性を秘めていたからこそ、デビューアルバム『In The Lonely Hour』は1,200万枚もの売上を誇るに至ったのだろう。

サム・スミスは、若干26歳にして、時代の代弁者としての役割を堂々と引き受け、大規模なワールド・ツアー「THE THRILL OF IT ALL WORLD TOUR」を敢行している。

今回の来日公演、まず、エンターテイメントの王道を行くような、圧巻のステージに痺れた。

ソウル・ミュージックやゴスペルを基軸としながら、時に、ロック・テイストをふんだんに押し出すバンドサウンドに圧倒された。そして、感情の機微を細やかに伝えながらも、全編にわたって観客の高揚感を上げていく演出は、ダンス・ミュージックにも通じるものがあったように思う。

シリアスで切実な「告白」の表現こそが、彼のアイデンティティであることは間違いないが、今の彼が見据えているのはその先の景色だ。

エド・シーランやテイラー・スウィフト、ザ・チェインスモーカーズといった、世界の最先端のポップ・アクトにも通底する、上質でありながらも極めてシンプルな「歓び」「驚き」「興奮」。

彼には、2018年の音楽体験とは、まさにこうあるべきだという確信があるのだろう。その王道を歩む覚悟と、エンターテイナーとしての誠実な姿勢に、強く胸を打たれた。

そして、何よりも素晴らしかったのは、やはり「声」の力だった。

紡がれる言葉たちが、たとえどれだけの悲しみに満ちていようとも、その「声」は無条件で僕たちの孤独を祝福してしまう。

どこまでもパーソナルな祈りが、その「声」を伝うことで、世界のあらゆる障壁や差異を無化して、僕たちの願いになる。

僕は、それこそが音楽の根源的な力であると思う。だからこそ心が震えた。

特に、《It is him I love》(私が愛するのは「彼」)という切実な「告白」が胸を打つナンバー"HIM"は、今回のハイライトであったように思う。

数万人の合唱を巻き起こしたアンコールの"Palace"、"Stay With Me"、"Pray"の三連打も、本当に素晴らしかった。

サム・スミスの「世界を包む声、紡ぐ歌」は、これからも、あらゆる壁を乗り越え、僕たちの孤独を繋いでいくだろう。

そしてきっと、これから先、あらゆる時代を超えて、無数の孤独を救っていくのだと思う。


※本記事は、2018年10月13日に「tsuyopongram」に掲載された記事を転載したものです。

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