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「音楽」と「映画」の幸福な新結合。心のプレイリスト・ムービー『WAVES』を観た。

【『WAVES/ウェイブス』/トレイ・エドワード・シュルツ監督】



非常に特異なプロセスを経て生まれた作品である。

「映画」を彩るために、「音楽」があるのではない。「音楽」が描き出す景色を映し出していくために、「映画」があるのだ。

まずはじめに、シュルツ監督が編纂したプレイリストがあり、それをベースとして今作の脚本が執筆されていった。

そう、この映画はまさに文字通り「プレイリスト・ムービー」である。既存のミュージカル映画とは、その構造が抜本的に異なっており、今作においては、真の意味で「音楽」が主役なのだ。


シュルツ監督が自らの実体験をもとに編纂したプレイリストは、全31曲の楽曲によって構成されている。

内訳を見ると、2010年代の音楽史を凝縮したかのような至高のポップ・ミュージックが揃っている。

ヒップホップ、R&B、インディー・ロックなど、それぞれのジャンルは多岐にわたっているが、その多くの楽曲が深いリバーヴに包まれている。まるで、2010年代に通底していた不透明な空気、そして、その時代を生きるティーンエイジャーが抱くフラジャイルな心情を表しているようだ。(その意味で今作は、2010年代版の『トレイン・スポッティング』として、時代の記録の役割も担っているといえる。)



シュルツ監督が強い思い入れを持つフランク・オーシャンの楽曲(ストリーミング未解禁のレア音源も多数)をはじめ、どの曲も、今作の物語を語る上で重要な位置付けがなされているが、僕が最も心を動かされたのは、レディオヘッドの"True Love Waits"が流れるラストシーンだ。

《どうか行かないで/行かないでくれ》

心の深淵から響きわたる魂の叫び。極めてパーソナルな心情を表す言葉が、時間と空間を超えて飛翔し、人々の孤独を繋いでいく。

その美しい展開に、心の震えが止まらなかった。「音楽」と「映画」の全く新しい新結合の形を、僕はここに見た。

「2010年代」という強烈な時代性を帯びていることは否めないが、この映画は、いくつもの時代を超えて、孤独な魂を救い続けていくのだと思う。



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