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【SS小説】親友の結婚式

歌手を志して10年。

今日ほど緊張する日はないかもしれない。

高校からの親友が結婚する。

大切な日にふさわしい天気だ。
空も澄んで、まさに秋晴れ。

高校の文化祭を思い出す。
文化祭もちょうどこんな陽気だった。

小さい頃から歌うことが好きだったけど、恥ずかしさからあまり人前では歌ってこなかった。
高校を入学してすぐの音楽の授業で、
「うた、すっごく上手だね!」
と声をかけてくれたのが親友。
それから彼女は、いつも私のうたを褒めてくれた。

高校最後の文化祭、彼女の薦めで、野外ステージで歌った。

緊張で震えた手を必死で抑えるように両手で強くマイクを握った。
必死だったから歌ってる最中のことは覚えてないけど、客席から沢山の拍手をもらえて、彼女も喜んでくれていた。あの時の光景ははっきりと覚えている。
将来歌手になることを決意した瞬間だった。

式には懐かしい顔ぶれが揃った。

かたやバリバリと仕事で出世をし、
かたや結婚して2児の母となり、
かたや実家の家業を継ぎ、
かたや自分で事業を始め、
みんなの会話は、私から見たら異世界で、自分で決めた道とはいえ、すっかり取り残されてしまったように感じる。

「夢に向かって頑張ってるんだー!すごいねー!」
「昔から歌うまかったもんねー!」
「今度ライヴ行ってみたーい!」
「自慢の友達だよー!」

ありがとう、と返しつつ、社交辞令に少し嫌気がさす。

今まで地道に活動してきてライヴもやった。
そこそこファンもつき始めた。
どんな時も変わらず来てくれたのは、親友だけだった。
彼女はいつも楽しそうに、そして感動しながら私の歌を聞いてくれた。
友達からお金は受け取れないと言ったが、あなたはプロなんだから、といつもチケットを買って来てくれた。

あるアーティストのコーラスで出演が決まったとき、「ツアーなんてすごいじゃん!」と私より喜んでくれて、目立たないしほとんど照明も当たらないステージでも「ちゃんと声聞こえたよ!ファンだもん、わかるよ!」
と笑顔で話していた親友。
彼女の存在は、どれだけ私の支えになったことか。

こんな場でも、となりに彼女がいたら
「すごいんだよ、歌い始めたら空気が一瞬にして変わるんだから!」
「お客さんの盛り上がりもすごいんだよ!」
「ステージ見ないなんて損してるよ!」
と言ってくれていただろうな。

『それではここで、新婦のご友人、K子さんの歌のステージをどうぞ。』

マイクの前に立ち、お辞儀をする。

流れ始めたのは、いわゆる結婚ソングではないけど私と彼女の思い出の曲。
他の曲にするか悩んだけど、彼女にだけ届けばいいと選んだ、少しマイナーな恋の歌。

両手で強くマイクを握る。

♪~

なんで今さら気づくのだろう。
隣にいるのがなんで私じゃないんだろう。

なんで私は女なんだろう。
今になって気持ちに気づくなんて。

後奏で彼女と目が合った。
彼女も泣いていた。
新郎がハンカチを渡す。
二人は微笑ましかった。
いいんだ、これで。

お見送りは歌より緊張する。

「今日は本当にありがとう!これからも頑張ってね!絶対また行くからね!」
「二人でめっちゃ団扇振ります!」
「ちょっとー、そういうライヴじゃないよー。」
「そうなの?でも絶対行きますね!楽しみにしてます!」

キラキラした笑顔に圧倒される。
この人が旦那さんでよかった。

「あ、ありがとうございます。がんばります。
…本当におめでとう。お幸せに。」

2次会に向かう足取りは、思いの外重くなかった。

これからも歌い続けよう。
これからも彼女のために。
そして、これからは自分のために。




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