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リサーチレポート作成のワナ②

先日投稿した『リサーチレポート作成のワナ①』では、レポート作成の前段階として行うリサーチで陥りがちなワナについて書いた。今回は、リサーチした結果をレポートにまとめる際に陥りがちなワナについて「レポート作成編」として書き残しておきたい。

資料のまとめ方は、大抵の場合Power Point/ Keynote/ Google Slideなどのスライド形式か、Word/ Google Docs/ Notion/ Dropbox Paperなどのドキュメント形式がほとんどだと思うが、今回はスライド資料に焦点を絞っている。

私自身、洗練されたレポートを作成するスキルを今まさに学んでいる最中なので、偉そうなことを言えないのだが、要すれば、レポート作成にあたり最も大切なことは「読み手の立場にたった資料に仕上げる」に集約されると思っている。誰が読んでもスッと入ってくるレポートを作るために、「筋の通ったストーリー」、「簡潔さ」、「美しさ」を常に念頭に置いている。

良いレポートは自然と読み手を惹きつけ、口コミや評判によって自律分散的に拡散されていく。それは社内レポートであれ、一般公開されるレポートであれ変わらない。レポートを作成する意義の一つは、それが多くの人に共有され広まっていくことである。その結果として、作成者に対する評価や信頼という形で跳ね返ってくることもある。

以下では、私自身が良いレポートを作ろうと苦悩する過程で、実際にハマったワナを7つ紹介したい。

ワナ1:いきなりソフトを立ち上げる

レポート作成に取りかかる際、まずやりがちなのが、準備をせずにとりあえず過去に作成したスライドをコピペすることだ。ファイルのタイトルを変え、1ページ目に今回のレポートのタイトルを思いつきで入力する。

その後、レポートのサブタイトルをどうしようかと考え始め、気づいたらコピペしたレポートから使えそうなテンプレートを探していたりする。私はこのワナには幾度となくハマってきたが、何となく作り始めたスライドは大抵使われずに終わるし、思いつきで付けたタイトルがそのまま採用されることはほぼありえない。

当然のことながら、レポート作成には事前準備が必要であり、それを具体化すると以下の3点となる。

1.  スライドの構成
2.  各スライドの見せ方
3.  記載する内容

これらの作業は、スライド作成前のリサーチがしっかりできていることが前提となる。まとめたい内容のストーリーがあり、裏付けるファクトも揃っている状態で初めて、それらを「どう見せるか」を考える段階となる。

例えば、先日10X社として公表したホワイトペーパーを作成した際は、リサーチ段階で「全体の流れ」を明確にしなかったことで膨大な時間を要し、レポート作成前にスライドの構成、見せ方、内容をしっかり整理しなかったことで無駄なスライドをたくさん作ってしまった。

レポート作成の途中でようやく全体感を視覚的に整理(以下写真)し、この段階でやっとスライド作成がスムーズに進むようになった。

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ワナ2:スライドのタイトルが結論になっていない

レポートの読み手は、作成者が思っているほど時間を掛けて内容を読んでくれない。何時間も掛けて書き上げた成果物も、ほとんどの場合、読み手の目に触れるのは数十秒か長くて数分にすぎない。

短い時間でレポートの主旨を読み手に伝えるには、各スライドのタイトルが非常に重要な役割を担っている。以下二つのスライドのタイトルを見比べた時、タイトルを読むだけでスライドの内容がより明確に伝わるのはどちらだろうか?

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左のスライドは、タイトルを見ただけでそのスライドで言いたいことが伝わるのに対し、右のスライドはタイトル下に記載されている内容を読まなくては結論を理解できない。

これまで、あまり意識せず右のタイプのタイトルを付けることが多かったけれど、数秒間で読者に内容を理解してもらうためには、そのスライドで一番言いたいこと、つまり結論をタイトルに書くことが大切だと改めて学んだ。

ワナ3:見栄えでスライドの構成を決める

各スライドを作り込んでいく際、特に深く考えずに見栄えの良さでレイアウトを選んでしまうことはないだろうか?私自身頻繁にハマるワナなので、自身の失敗例を紹介したい。

最初に作ったスライドが右、後に作ったスライドが左である。良く見比べるとわかる通り、記載している内容や素材はほとんど変わらず、3枚の写真とそれぞれの写真に関する説明が書かれている。

右のスライドは灰色のボックスの中に写真が大きめに置かれ、その下に伝えたいことが文章形式で記載されている。一方、左のスライドはテーブル(表)を用いて伝えたいことを整理しており、3つの種類とそれぞれのメリット・デメリットがパッと見てわかりやすい。

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このように、同じ素材や内容でも、見せ方によって伝わりやすさは大きく異なる。今回の例で私は、写真を大きめに載せることばかり気にしてしまい、肝心の説明をぐちゃっと書いてしまった。

比較することがスライドの主旨であればテーブルを用いる方が適切だし、ある結論を裏付ける理由を並列で見せたい時などは、右のレイアウトの方がわかりやすい。そのスライドで伝えたいことは何なのかを最初に決めて、それに一番相応しいレイアウトを選択する、当たり前だが意外と難しい。

この文章を書きながらふと、テーブルの縦軸と横軸を逆にして、もう少し写真を大きく見せた方がより良いスライドになったかもしれないと思った。スライド作成マスターへの道のりまだ長そうだが、こうやって学びながら少しずつ上達していきたい。

ワナ4:1枚のスライドに情報を詰め込み過ぎる

このワナは、スライドで伝えたいことが明確でなかったり、伝えたいことを裏付けるファクトが弱いときなどに、それらをまとめてしまおうという誘惑に駆られたときに現れる。

1枚のスライドに情報を詰め込むことで、見た目上はスライドに充実感が出るが、それが読者フレンドリーとは限らない。逆に情報を詰め込めば詰め込むほど、伝えたい結論が濁ってしまう。

例を挙げる。以下のスライドには3つのグラフが詰め込まれていて、パッと見て色々わかりそうな感じ(充実感)はあるが、何が言いたいのかはパッとみて伝わりづらい。

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上の例では、それぞれのグラフから読み取れるインサイトが重要なファクトだった為、各グラフを単独のスライドに分けることにした(以下)。こうすることで、読み手にとってはより内容が伝わりやすくなるだろう。

逆に、ファクトが弱く独立したスライドになり得ないようなインサイトは、思い切って削ってしまった方が良い(せっかく作ったグラフやスライドを削ることの難しさについては、ワナ6で記載する)。

1スライドで言いたいことはひとつに絞る、2つ以上言いたければ2枚に分ける」これが鉄則。

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ワナ5:早い段階でスライドを作り込み過ぎる

スライド形式のレポートがドキュメント形式と大きく異なる点として、資料の作り込みに時間がかかるという点が挙げられる。スライドを作っているとどうしても細かい部分が気になってしまうのだが、早い段階から細部にこだわると、結果的に大きな時間のロスになりかねない。

作成の初期段階では、そもそも作ったスライドが最終版で使われるという保証もないので、作り込んでも使われなかった場合、その分の時間は無駄になってしまう。

また、人間はどうしてもサンクコストに捉われがち(もったいないの精神)なので、自分が時間を掛けて作ったスライドが不要とわかった場合でも、「せっかく作ったのだから残したい」という気持ちが働いてしまう。

余計なことで悩まないためにも、最初はスライドは極力作り込まず、全体構成や各スライドのレイアウトが決まった段階で初めて作り込みに入ると良い。

わかっていてもついついやってしまい、私自身これで膨大な時間を無駄にしてきた。。。最近は、ポチポチと細部をいじりたくなったら「今じゃない、今じゃない」と念仏のように唱えるようにしている。

ワナ6:リサーチで得た情報は全部スライドに入れたい

リサーチ過程で得た情報をレポートに追記していくことで、できあがった成果物のストーリーが崩れてしまうことがある。これは、リサーチに時間をかければかけるほど、自分が調べた情報をできるだけレポートに反映したいという思いが込み上げてくるからだと思っている。

当然、想定外の良質な情報を見つけた場合、それをレポートに盛り込むこと自体は悪いことではないのだが、その時に意識するべきことは、その情報がレポートにとって「must have」なのか、それとも「nice to have」なのかである。

もし前者であれば盛り込むべきだが、後者であればレポートの構成や全体ストーリーを良く考えてから差し込む方が良い。大抵の場合、枝葉の情報を入れれば入れるほど、レポートが冗長になりストーリーが崩れ、内容が簡潔でなくなってしまう。

私自身、これまでずっと「nice to have」をたくさん入れたい(自分のリサーチをアピールしたい)と思ってきたが、スライド作成に余計なスケベ心は持ち込まず、不要なものはスパッと切る決断力が大事だと学んだ。

ワナ7:最初の全体構成にとらわれすぎる

ここまでは、構成を決めて細部を詰めることの大切さについて触れてきたが、逆に最初に決めた全体構成にとらわれすぎてしまうというワナもある。

レポートを仕上げていくうちに、当初は想定していなかったスライドが数枚追加されることはよくある。全スライドを作り終えたあと、もう一度スライドを見直していると、実は順番を入れ替えた方がストーリーとして筋が通ると思うことがある。

そんな時は、当初の構成にとらわれず思い切ってスライドの順番を変えることも必要だと学んだ。同じスライドでも、置く位置によって伝わるメッセージや意味合いが変わることもあるので、良く吟味が必要である。

最後に

以上、リサーチレポートのワナを二篇に分けて書いた。私自身まだまだ未熟なので、毎回必ず複数名にレビューをしてもらって自分では気づかないあらゆる点を指摘してもらっている。厳しいレビューが入るとつい「自分の力不足で時間を取らせて申し訳ない」という気持ちになることがある。

ある時、厳しめの指摘を幾つか受けた際に思わず「すみません」という謝罪の言葉を口にしたことがあった。それに対し、レビュアーの矢本さんはこう言った。

「これは気にしないで。なぜなら重たいリサーチ資料ほど絶対に品質レビュアーが必要なので役割の違いのみです。僕がイチからやっても、単位時間あたりリサーチの密度は大差ないと思う」

良いレビュアーがいてこそ、作成者が育っていく。これは文章を書く際も同じで、良い編集者がいてこそ、書き手が育っていくのだろう。質の高いレビュアーにビシビシフィードバックをもらい、それにめげずに改善を続けていくことが、成長の秘訣なのかもしれない。

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