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氷を抜けない理由

 喫茶店に入ってマスカットジャスミンティーを頼む。
「ホットとアイスどちらにされますか」と訊ねられる。
 アイスで、と答えたあとに、少し迷って「氷を抜いてもらってもいいですか」とお願いした。
「氷を、ですか」
 白いフリルブラウスと黒のスカートに身を包んだ店員が、目を丸くして戸惑った表情を見せた。
「あ、無理なら大丈夫です」
 喫茶店の飲み物は氷でかさ増ししている、という裏話を思い出して申し訳なくなる。
「グラスの中の氷を抜く感じでよろしいでしょうか」
「あ、はい。お願いします」
 グラスの中以外どこに氷が入るのだろう、と不思議に思いながら、とりあえずオーダーが通ったことにほっとした。

 「お待たせいたしました。こちら、マスカットジャスミンティーになります」
 先ほどの店員がやってきて、テーブルの上に空のグラスを置いた。その隣に、透明のガラスポットを並べてくれる。中には琥珀色の液体が満たされている。
 最後に伝票を伏せて、店員は静かに立ち去った。
 ポットを手に取ろうとして、中に氷が浮かんでいることに気づく。
 この店はポットの中にまで氷を入れるのだろうか。
 いろいろと腑に落ちないまま、グラスに全量注いでストローを差した。先を口に含んで吸い上げる。マスカットの酸味とジャスミンの爽やかな風味が喉を通り過ぎていく。
 そういえば、紅茶って出来立ては熱いんだよな。たしか、アイスティーにする場合は、氷を入れたグラスに注ぐんじゃなかったっけ。

 あれ?
 ということは……。

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氷を抜けない理由

水流苑まち(つるぞの・まち)

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余白をテーマに文章、イラスト、占いなどのコンテンツを生み出す余白アーティスト。 現代アート夫婦。おすすめマガジン『性愛とパートナーシップ』『予言の書』『嘘つきは作家のはじまり』。意味のないものに意味が生まれる場所・水流苑神社(http://urx3.nu/QiHa )やってます。

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