見出し画像

洗濯機の許容限度問題(時間と容量)

最近私が抱えている由々しき問題の一つに、「洗濯機の許容限度問題」がある。

夏服から秋・冬服に衣替えすると、洗濯物の厚みが増す。
秋までは休日に一度回せばよかった洗濯機が、今では3日分の洋服を入れただけでけっこうな量になってしまう。
…洗濯の回数を増やさねばならぬ。

そうはわかっていても、なかなか実行には移せない。
平日に洗濯機を回すタイミングがうまくつかめないからだ。

我がアパートの壁は薄く、床も脆い。
どれほど壁が薄いかというと、最近「四方八方肘鉄砲」(アニメ忍たま乱太郎の挿入歌)を歌いまくっていたらいつのまにか隣人に伝染していたほど。
「お互いの歌声が聞こえる部屋」というとちょっと素敵な感じがしなくもないが、実際にはわりと気まずい。
床の脆さは、誰かの尻餅(?)で建物全体に激震が走るほどだ。
そんなアパートで、平日に、洗濯機を回す

普段洗濯機を回している時でも、部屋は小刻みに震えているというのに。
平日の夜にそんなことやって、壁を叩かれたりしない? 火縄銃で撃たれたりしない?
洗濯機の稼働許容時間を誤れば、やすやすとご近所トラブルに発展するだろう。
いったい何時までであれば、アパートを震わせても許されるのだろう。

考えているだけで洗濯機以上に震えが止まらなくなってきた私は、今年の3月まで一緒に住んでいた従姉に相談してみることにした。
すると「ええっ、何時に回すかなんて気にしたこともないよー!」とのあっけらかんとした答え。
そういえば彼女は「飲み会後の服がタバコ臭くて耐えられない」と深夜1時に洗濯機を回していたことがあった。
…聞く相手を間違えたな。
「どうせみんな熟睡してるって」と満面の笑みで従姉は親指を立てた。
以前彼女と住んでいたアパートは私たちを含めて三世帯しか住んでおらず、上の階の人はほとんど家にはいなかった。
だから苦情が来なかったのだろう。
私が今暮らしているアパートとは、だいぶ事情は異なるのだ。

何時までが洗濯リミットかという問題は、住居の頑丈さやそこに住んでいる人たちの生活習慣によって変わる。

洗濯リミットを知るためには、まずは敵状を探る必要がある。
住居の脆弱さは先に述べた通りであるので、私は他の住人たちの生活スタイルを密かに窺うことにした。

私以外の住人のバイクは私が家を出る頃には一台もなく、私が帰ってくるとすでに整列している。
…みんな規則正しい生活してるんだなぁ。

あまり遅い時間に回すのはよそう。

数日間の観察の結果、21時までに回せればセーフとすることにした。
3日に一度、21時までに洗濯機を回す
やるべきことはそれだけなのに、リミットを定めるとなんだかワクワクしてくる。
日曜に回せば、次の洗濯予定日は水曜、その次は土曜でその次は火曜。
よっしゃ、ぐわんぐわん回したるぞー!

まず予定通り日曜に回して、あっという間に水曜日がやってきた。

今日は洗濯機を回す日だ
そう思うだけで朝から気合がみなぎる。
定時に上がる理由ができたことで、仕事も捗る。
よし、あと一時間で定時だ。

家に帰ったら洗濯機を回して、その間に床にコロコロでもかけようかな。なんであんなに床に髪の毛落ちてるんだろう。ハゲかけてんのかしら。
シンクがぬかで汚れちゃってるから、激落ちくんで磨かなきゃなぁ。
そういえばコートのポケットも繕わなきゃ。
あっ、カブの葉が冷蔵庫にあったな。何作ろうかな。

定時に帰るというだけで、なんだか一日が1.5倍にでもなったかのような心のゆとりが生まれる。

日頃放置されがちな家事を一晩で華麗に片付ける算段を立ててニヤついていたら、上司からの内線が鳴った。
断りにくい頼まれごとだ。

ま、しょうがない。
洗濯は明日でいっか。
と気分を切り替えて木曜、またしても突発的事態発生。

「えと、今日は洗濯機が」
「別に今日じゃなくても大丈夫だろ」
「あ、まぁ…そですよね」

人と会う用事であれば「それなら仕方ないな」と解放してもらえても、家事を理由に解放してもらえることは、あまりない。
悔しい。家事を分担できる人と暮らしているほかの社員への羨望と憎しみが燃え上がるのはそんな時だ。
洗濯も料理も掃除もぜーんぶ一人でやるって、けっこう大変なのになぁ。

明日こそ回さねば、と思いきや金曜はもともと残業する予定だった。
斯くなる上は明後日…って、もう土曜日か。
土曜の朝にほぼ一週間分の洗濯物を洗濯機に入れてみると、ギリギリのパツパツだった。
洋服をなるべく洗濯槽の奥に押し込んで、蓋を閉めて、スタート。

心なしか普段より振動が大きいような気はしたものの、一応問題なく動いているようだ。
ふと、先日座布団カバーに豆腐をこぼしたことを思い出した。
座布カバー1枚くらいなら大丈夫だよね、と一時停止してカバーを投げ入れ、洗濯再開ボタンを押す。
大儀そうに動き出した洗濯機を見守りつつお菓子を食べていたら、いきなり

バルルルルルルル

といまだかつて聞いたことのない音がした。
家の中で工事しているみたいだ。
しかも肉眼でも目視できるレベルで洗濯機が上下左右に揺れている。
ありえない音を出しながらありえないくらい揺れている洗濯機が怖すぎて、私は「そんなに荒ぶらないで。頼むから」と小声で懇願しながら洗濯機をひしと抱きしめた。
洗濯機はその後10分弱、大音量で震え続けた。

「いったい何時までであれば、アパートを震わせても許されるのだろう」なんて言っている場合ではなかった。
洗濯機の許容容量を守って、なるべくこまめに回すべし。
そのためには、定時を死守すべし。
でも年末に向けて、忙しい時期なんだよなぁ…。
友だちに相談したら「平日の朝に回せばよくない?」と即答された。
その手があったか!
目から鱗だった。
これで解決といいたいところだけれど、これからますます気温は落ちていく。
はたして布団から出られるのかどうか。
悩みは尽きない。

お読みいただきありがとうございました😆