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何度目かのはじまりにあたって

弦巻楽団のHPが新しくなりました。
これでサイトとしては4回目の大きな変更になります。より見やすく、わかりやすく、と若いメンバーが中心になって改めてくれました。これからの「楽団日記」はこちらで書いてまいります。

先日、ふとしたきっかけで活動初期に楽団員だった人間の近況を知りました。東京に活動拠点を移し声優になっていました。びっくりです。
思えば、これまで沢山の方が弦巻楽団に関わってくれました。
来年で本格的に動き出して15年です。15年!
影も形もなかった人間でも中学校を卒業する年です。
去って行った人間の中には、別の土地で演劇を続けるもの、演劇とは違う道を選ぶもの、家業を継ぎお米を届けてくれる人、今でも観客として観に来てくれる人、捨て台詞を残し二度と顔を見せない人、数年後ひょっこり現れる人、様々です。

劇団をどうしたいのか、今でも考えることがあります。
馬鹿みたいだけど、本当です。
自分は劇団をどうしたいんだろう。

イメージはあります。でもイメージだけで、うまい言葉が見つかりません。
多分それは「こうなりたい」というイメージに相応しい言葉が現存していないのだと思います。
今まで存在しない劇団になろうとしている。そういえばカッコつくでしょうか。

単独で何千人、何万人呼べるような劇団になりたい。昔はそう思ってました。いやいや、今でもそう思っています。でもたまに「とてもそうは思えない」と言われました。何千人、何万人呼べるような劇団にとって当たり前の行動をしていない、と言うのです。当たり前の行動というのは大体が経済の話です。例えば、売り上げを上げる為に、お客さんの数を多く見込むために有名な役者を招くといったやり方です。確かにそれは賢い手段だし、舞台が充実していれば何も悪い手段じゃありません。じゃあするか?と言われたら、やっぱりしません。まずは他にやらないといけないことがあるのです。

ユニットとしてスタートし、やがて劇団員を固定するようになったのは、札幌で、周囲で、同じようなユニットの企画やカンパニーが増えてきたからでした。札幌は決して演劇人口が多いとは言えません。東京以外の都市では比率が高い方なんでしょうが、劇場も多く活動場所として恵まれてるのですが、幾つものユニットが競い合い活動して、出演者の取り合いにならないほど多くはありません。そうした中で有能な俳優、人気のある俳優はやはり引っ張りだこになります。その中で劇団として独自性を打ち出していく。
その為に、劇団員を固定していくことにしました。

劇団としての独自性。そもそも何が独自性になるか。
それはこの札幌で活動する意味を考えることと同義でした。
それは同時に、この札幌でしか生み出され得ない演劇を考えることと、ほぼ同義でした。

エンターテイメントと呼ばれる演劇を作りたい。楽しんでもらいたい。
物語だけでも、役者だけでもなく、劇空間そのもの、舞台と客席で共有する時間を楽しんでもらいたい。「演劇」そのものを楽しんでもらいたい。
「演劇であること」そのものを楽しんでもらいたい。
極端な話、戯曲の物語はボロボロでも「演劇」であるから最高に楽しく、豊かな空間と時間になっている。そんなエンターテイメント。そのためには「演劇そのもの」とは何か、何を「演劇」と思うか、その共有から作品づくりは始まります。

ワークショップを継続的に行おうと決めて2013年から「演技講座」「戯曲講座」を始めました。その講座に関わってくれたメンバーが今の劇団員になり、劇団には所属しなくても本公演の出演者になり、今の弦巻楽団となっています。共に活動していなくても、弦巻楽団に関わってくれた人々が色々な場所で演劇を続けたり劇団を作ったりしています。

「演劇そのもの」を楽しんでくれるメンバーが少しずつ増えている。の、かもしれません。

札幌でしか生まれない演劇。とりあえず今のところたどり着いた答えは、札幌で生きる人間の身体や声がそこに存在することです。

演劇だけでは食べていけず、バイトをし、あるいは正業を持ち、長い冬を耐え、春の訪れを喜び、美味しいものに目がなく、おおらかで、陰険で、角が立つことを嫌うくせに角を立たせた人には厳しく当たる、少ない時間でも誰かと演劇を作る喜びを手放さず、梅と桜の違いに気づかずに一緒に楽しみ、何かあればすぐに大通り公園で呑み騒ぐ、雨にも負けて、風にも負けて、コロナにも負けて、経済を(あまり)顧みず、それでも逞しく創作に取り組む、そんな札幌で生きる演劇人が立っている舞台。
それがこの場所で演劇を作る意義。この場所に生きる劇団の独自性だと思っています。

ややこしいのは、僕自身が志向する作品が(ジャンルが)、地域性をあまり感じさせないウェルメイド・コメディだという点です。極端な話、どんな街で生きる人たちでも共感し、上演可能な作品を良しとしています。このねじれ、理解していただけるでしょうか?
それでも長い活動を経て、そのねじれが360度回転し、上手く融合できそうな糸口が見えてきました。50歳になるまでにそうした決定版を生み出したい、と思ってます。

何度目かのはじまりです。
今年のあれやこれやで、たくさんの方に支えられていることを改めて深く実感しました。
劇団として、一つ一つお返しできるよう、コツコツと頑張ります。

たくさんの活動をしている劇団です。一見まとまりがないようにも思われるかもしれません。それでも実は、一本の芯が全ての活動を貫いてます。それはこの場所で生きる我々と、同じ場所で、あるいは別の場所で生きるあなたと最高の娯楽を共有すること。生きることを味わい尽くすこと。全てはそこに向かっています。

また劇場でお会いしましょう。

弦巻楽団 代表 弦巻啓太


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