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人と人が出会う場所|Pityman『おもいだすまでまっていて』札幌公演

2021年11月26日〜28日に弦巻楽団が主催する演劇祭「秋の大文化祭!」に参加する、Pityman(ピティーマン)。代表とも交流が深い、東京を拠点に活動する実力派劇団です。

今回、Pitymanの魅力をみなさんにお伝えすべく、主宰の山下由さんに、弦巻楽団代表の弦巻がインタビュー!

演劇をはじめたきっかけや作品の裏話まで。Pitymanのことがもっと知りたくなる内容をお聞きしました。ぜひご一読ください!

山下 由(やました ゆう)

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Pityman主宰。脚本・演出を担当。広島県出身。
一年間の演出助手経験を経てオーストラリア、ロンドンへの短期演劇留学をする。帰国後、2011年にPitymanを旗揚げ。2作目以降のすべて作品の脚本・演出を担当する。繊細な日常描写、ドライでありながらもさみしさを抱える青年たちを会話劇で描き、モザイク的に出来事や、やりとり、シーンなどを切り取り合わせ、小さな部屋の片隅の”なんでもなさ”から世界を照らしだそうとしている。

若手演出家コンクール2013、2014年2年連続優秀賞受賞。
第8回せんがわ演劇コンクール劇作家賞受賞。
門真国際映画祭2019舞台映像部門優秀作品賞、最優秀編集賞受賞。
MITAKA”Next"selection21st選出。

▼出演者インタビュー|北海道公演に向けて


実体験を芝居にしたい

弦巻啓太(以下、弦巻) 『おもいだすまでまっていて』、事前に読ませていただきましたが、とても良い脚本ですね。私戯曲的な、自分の実体験に近い内容だと伺いました。今この題材に取り組もうと思ったきっかけを教えてください。

山下由さん(以下、山下) 特に今だから、というわけでもなくて、ずっと前から書きたいと思っていた題材でした。以前母親から、劇中にも出てくる「ホテルの蕎麦」のエピソードを聞いたんです。母親と認知症のおばあちゃんが東京旅行に行ったとき、おばちゃんが急に蕎麦を食べたいって言い出して。大変な思いをして滞在先のホテルに蕎麦を持ってきたのですが、結局おばあちゃんは一口も食べなかった、っていう。せっかく東京に来て、スカイツリー見たり美味しいもの食べたりとか色々していたはずなんですけれど、母親から聞いた東京のハイライトがこの蕎麦のエピソードだったっていうのがなんだか面白くて。

弦巻 そのエピソードが山下くんの中でずっと残っていて、いつか芝居にしたいなって思っていたんですね。これまで、自分の実体験に基づく話を書いたことはあったんですか?

山下 結構あります。父親の話や、自分自身の話を書いたこともあります。

弦巻 そうなんですね。自分の体験を人に見せたいという思いがあるのでしょうか。

山下 身の回りに起きたことを基にして書くことが多いですね。逆に、ゼロから完全なフィクションを作るのは、よっぽど変な話じゃない限り難しいです。自分で体験したことの方が説得力持って書けます。観る人にはあんまり関係ないんだろうなって思ったりもするんですけれど。普段生活していて、面白いな、切ないなって思うことに出会って、それを芝居にしたい。自分にとって印象的なことを、誰かに見せたいっていうより、芝居にしたいなって思うんです。

弦巻 そうやって自分が体験したことを、脚本執筆を通して「整理したい」という感覚ですか。

山下 「整理しよう」と意識しているわけではないですね。書いて、それを「再現して見てみたい」って思う感じです。

弦巻 「検証したい」に近いのかもしれないですね。演劇の良いところの一つだと思います。思考実験みたいな。あの時のことを一度やってみることで、考え直したり見つめ直したりすることができる。以前のインタビューで出演者の方が仰っていた、「作品を見ることで、家族との距離感を見つめ直すことができる」っていうのは、そういう演劇の検証装置としての働きがあるからかもしれませんね。

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劇は、人と人が出会う場所

弦巻 ここからは、山下くんのパーソナルなことも聞いていきたいと思います。山下くんはどんな子どもでしたか?

山下 ……すごく人見知りだったと思いますね。すぐ泣く、色んなことが怖い、引っ込み思案な子どもだったと思います。

弦巻 そうなんですね。学芸会や文化祭でみんなの前で何かやったりはしなかったんですか?

山下 中学生の時は演劇部に所属していたので、みんなの前で何かすることもありました。でも目立ちたいとかじゃなく、ただ演劇楽しいなって思ってやっていただけでした。

弦巻 引っ込み思案だった子どもが演劇部に入るって、実はよくあるパターンですよね(笑)。どうして演劇部に入ろうと思ったんですか?

山下 僕はバドミントンが好きだったんですけれど、中学校にバドミントン部がなかったんです。どこにも入る部活がないな〜って思っていた時に、友だちが演劇部に入りたいって言い出して。それで、僕も「やることないしなんでもいいや」って思って一緒に入りました。その友だちは早々に辞めてしまったんですけれどね。僕も最初は興味なかったんですけれど、少しずつ演劇面白いなって思い始めて。そのうち地元・広島の小劇場を観るようになって、どんどん演劇にハマっていきました。

弦巻 今は役者はやらずに劇作家・演出家として活動されていますが、当時は役者志望だったんですか?

山下 短大の1年生くらいまでは役者になりたかったですね。中学生の頃、地元で文学座が公演しているのを観に行った時に、たまたま会った演劇部の顧問の先生に、「今日出演していた内野聖陽さんみたいな役者になってね」って言われたこともありました。でも短大に入ってみて、オーラがある、これから有名になっていく同期を見て、「自分はこの人たちとは違うな」って気づいて。全く悩まずに役者の道は諦めて、脚本を書くようになりました。短大では戯曲の授業もあって、そこで先生に褒められたのも大きかったですね。授業を受けていた40人くらいの学生のうち、最後まで書き上げたのは僕だけだったみたいです。先生は「最後まで書き上げることしか、脚本が上手くなれる方法はない」って言ってくださいました。

弦巻 僕も劇団で戯曲講座をやっているんですが、最後まで書き上げられる人ってそんなに多くないんですよね。一本書き上げることができたのは、山下くんは脚本家に向いていたんですね。戯曲は「書き始めること」と「書き続けること」と「書き終えること」ができたらやっていける。

山下 そうなんです。終わらせてみてわかることがある、終わらせてみないとわからないことがある。

弦巻 そうそう。そうして、脚本家としての山下くんができてきたんですね。Pitymanを旗揚げしたのは何歳の時ですか?

山下 23歳くらいだったと思います。今から10年くらい前ですね。短大を卒業したあとは、演出助手を色んな現場でやらせてもらい、そのあとは半年くらいオーストラリアに留学して演劇を勉強しました。Pitymanを立ち上げたのは帰国してからです。

弦巻 Pitymanで自分の脚本・演出の舞台を作るときに、これを見せたい!というコンセプトのようなものはありますか?

山下 昔はあまり何も考えずに、自分が書きたいと思ったものを書いて、そのままやるっていう感じでした。演出的にこれを見せたいって考えるようになったのは、最近のことですね。
僕は、自分が会いたい人を登場人物として書くことが多いです。なので、観にきてくれる人にも、作中の人物たちに会ってほしいって思います。登場人物たちはこういうこと考えていて、こんなことに悩んでいて。その瞬間に、立ち会ってほしい。劇は、人と人が出会う場所だと思います。舞台上で役と役が会い、客席と舞台で役とお客さんが会い、色んな次元で「会う」ことで色んな感情が生まれる。そこに来なければ私たちは出会わなかった、そんな劇を作りたいなって思っています。

弦巻 山下くん自身が会いたいと思っている人が、劇に出てくるんですね。でも例えば、今回の作品に出てくるお母さんやおばあちゃんは劇じゃなくても実際に会うことができますよね。

山下 そうですね。そうなんですけれど、いまのその人に実際に会いたいっていうより、僕が昔見つけた、「なんだこの人は」って思ったその時の、その人に会いたいっていう感じです。

弦巻 なるほど。それって、極端な話、死者と会うことも可能になりますね。

山下 はい。生きていたとしても、その人に昔あった「僕が会いたい部分」はもう無くなっている、みたいな。たまに「この作家は遠くに行きたいのだろう」って言われることがあります。確かにそうなんです。ここじゃないところに行きたいという願望が漂っている。

弦巻 確かに「いま・ここ」を死守しようする話じゃないですもんね。この作風が、北海道の人にどのように受け止められるか、楽しみですね。
最後に、札幌公演でどんな収穫を得たいか、何を試してみたいかを教えてください。

山下 土地が変わっても共通する感覚を知りたいですし、土地が変わったからこそ変わる感覚も知りたいです。どこに行っても同じだなって思うところと、場所によって違うんだなって思うところ。僕たちにはゆかりのない土地で演劇をすることで、僕たち自身にも何か変化があるのかもしれません。広島から東京に行く話を、東京から北海道に行って上演することが、作品ともリンクしていますし。

弦巻 ありがとうございます。それこそ、地域が違う人同士が「会う」機会になれたらいいですね。楽しみです。

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2021年11月15日
Zoomにて

▼『おもいだすまでまっていて』台本一部公開中!


公演情報

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Pityman『おもいだすまでまっていて』

母はもう八十歳なのにとても元気だ。親子三人でやってきた東京観光。 自分が食べたいといった蕎麦に箸もつけずに母は夜景を眺めている。早く食べろと怒る妹。 私はそれが可笑しくて仕方ない。この旅をいつか思い出すだろう。あの日のことを思い出すように。

代表と交流深い、東京を拠点にする実力派劇団Pitymanによる上演です。

TGR 札幌劇場祭2021 大賞エントリー作品

脚本・演出
山下由

出演
江原パジャマ、内藤ゆき、新井雛子

日時
11月26日(金)19:00
11月27日(土)14:00

会場
サンピアザ劇場(札幌市厚別区厚別中央2条5丁目7-2)

料金
一般 2,000円
学生 1,500円
※当日券は+500円

チケットご予約
オンライン予約フォーム(https://www.quartet-online.net/ticket/tsurumaki-pityman

チケットご購入
・エヌチケ(https://www.ticket.ne.jp/nt/)
・ローソンチケット(Lコード:18241)
・道新プレイガイド
・札幌市民交流プラザチケットセンター

▼Pityman公式サイト

公演に関するお問い合わせ
一般社団法人 劇団弦巻楽団
tsurumakigakudan@yahoo.co.jp

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