【レポート】第1回演出ワークショップが開催されました!
こんにちは、楽団員の佐久間です。
2022年7月23日〜24日の二日間、弦巻楽団としての初の試み「演出ワークショップ」が開催されました。
これまで弦巻楽団では、通年で演技講座と戯曲講座を行ってきましたが、今回のテーマは「演出」。演出の理論と実践を学ぶという札幌でもあまり例のない取り組みでしたが、とても充実した時間となりました!
今回は、実際にどんなことが行われたのか、ワークショップの様子をご紹介します。
開催概要
日時
7月23日(土)、24日(日)
ともに13:00〜20:00(途中休憩あり)
場所
弦巻楽団稽古場(あけぼのアート&コミュニティセンター8号室)
札幌市中央区南11条西9丁目4-1 地下鉄南北線中島公園駅 徒歩15分
講師
弦巻啓太
参加者
札幌市内で活動する俳優・演出家、道内外で活動する劇団の俳優・演出家、高校演劇部顧問、高校演劇部員など16名
1日目「演出って何だろう?」
ワークショップがスタートして最初に講師の弦巻から説明があったのは、次の3つです。
演出家の役割とは?
そもそも演出ってどんな役割でしょうか。
この問いに対し、参加者からは「一番最初のお客さん」「俳優の身体を制御すること」「舞台と観客をつなげる役割」など様々な回答が出ます。
ワークショップの中で説明されたのは、「大切な相手にプレゼントをサプライズで渡すならどのように渡すか」という例え。プレゼントが演劇作品で、サプライズの方法が演出です。
いつ、どこで、どんな状況で(BGMはかける?照明はどんなイメージ?)プレゼントを渡すとかっこいいだろう、、、自分が「これだ!」と思うサプライズの方法を考えるのが、舞台作品における演出の役割だと説明できます。
演劇の定義
では、プレゼント(=演劇)って何だろう?
参考となるのは、ピーター・ブルック『なにもない空間』の一文。ワークショップでは、これを演劇の定義として進んでいきました。
演出家の個性が出やすい4要素
次に、演出を表しやすい要素についての説明です。これは、作品を作るにあたってとても重要な要素になります。
「空間」とは、言い換えると「どんな場所なのか」ということ。会場の機構や舞台美術について検討することが当てはまります。
「ミザンス」は、舞台上の役者の立ち位置・構図について。どこに誰を配置するかによって、見え方が大きく変わってきます。
「転換」は、いわゆる場面転換のこと。暗転するのか、しないのか。するとしたらどのくらいの長さするのか、明転の仕方はどうするのか、など。
「効果」は、音響・照明を含めた、作品を印象づける様々な仕掛けのことです。
この4要素をいろいろと試しながら、演出家が考える「作品で伝えたいテーマ」を表していきます。
芥川龍之介『羅生門』を演劇にしてみよう!
ある程度理論的な話をしたところで、早速実践です。『羅生門』をいくつかのシーンに分け、ミザンスを検討してみます。
『羅生門』はどんなお話だろう?お客さんにどんなお話として見せたいだろう?まずは演出の軸となる指針(テーマ)を話し合います。
2チームに分かれて、「あーでもない、こーでもない」と意見を出し合いながら試していきます。
当日初めて会った人たちで協働して作品をつくるのはやっぱり大変です。なかなか意見がまとまらなかったり、話し合いが行き詰まってしまったり……。それでも身体を動かし、何とか形にしていくのが演劇の醍醐味です。
「こうしたら、◯◯みたいに見えるんじゃないかな」「いいね、やってみよう!」「あー、ぽいぽい!ここを変えてみたらもっと良いんじゃない?」などと声を掛け合いながら、なんとかミザンスを立てて、1日目は終了です。
2日目「上演のための演出を考えよう」
2日目は、1日目のミザンスを踏まえ、演出の指針がより効果的に見えるように「転換」や「効果」を検討していきます。
「転換」と「効果」
この時に意識するのは、実際に上演するつもりで演出を考えていくこと。開場中のBGMはどうするのか、前説はどんな風に行うのか、照明はどの順番で消えていくのか。そもそも、それは本当に必要なのか?
転換の代表例には、会場を真っ暗にする「暗転」があります。
暗転はわかりやすい転換ですが、真っ暗だからといって、お客さんが「何も見ていないわけではない」ことを忘れてはいけません。その間もお客さんは「真っ暗な舞台を見ながら時間を過ごしている」。
音楽(SE、BGM)や照明の見え方も試していきます。ここでも、その効果が、演出の一貫した指針に沿っているかどうかが重要です。むやみにやったり、ぶれてはいけません。
2チームとも、だんだん形になってきました!
ミザンス、転換、効果の検討が終わったら、全体のバランスを調整していきます。細かいタイミングを練習したり、音楽の長さを検討したり。カーテンコールの練習も必要かどうか検討した上で忘れずに。そこでも、演出の指針が貫かれているかが大事です。
いよいよ発表上演会!
2日目の後半に、互いのチームで作った演劇版『羅生門』を見せ合います。
客席の配置や前説のタイミングも含めて、こだわりを持った演出で始めます。
同じテキストを使っていますが、両チームとも異なる演出です。5分ほどの上演でしたが、考えられたミザンス、転換、効果がたくさん見られました。面白かった!
お互いにフィードバック
作品を見終わったら、フィードバックの時間です。両チームで感想を言い合ったり、質問をしたりします。
参加者からはこんな質問が出ました。
「この作品で、演出として一番表現したいことは何でしたか?」
どちらも、「下人(主人公)の心情の変化です」と答えは同じでした。同じ指針を持っていたとしても、4要素の違いによってまるで見え方が違う作品になるのはとても面白かったです。
発表の後は、弦巻から全体の講評と演出案を提示します。
「下人の心の変化を見せたいのならば、たとえば、あえて下人の表情は見えないようにしたらどうだろう?」
照明をぐっと暗くしたり、下人に客席に対し背中を向けせることで、観客は下人の表情を想像することができます。色々な演出アイデアを比較することで、ミザンスや効果について再検討することができました。
大切なのは、作品で一貫したルール(演出の指針)を持つこと。演出の4要素を検討する際も、このルールに基づくべきだということも、改めて確認しました。
ワークショップ中には、『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』や『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』『センチメンタル』『ワンダー☆ランド』などの過去作の上演映像を流しながら、弦巻演出の指針について紹介する時間もありました。
最後に質疑応答の時間を設け、2日間、全14時間にわたる演出ワークショップが終了しました。楽しかった!
ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!お疲れ様でした!
初めての演出ワークショップを見てみて
2日間という短い時間でしたが、どちらのチームもさまざまな工夫を凝らした作品を作り上げることができました。とっても面白かったです!
ひらめきやアイデアを試しながら作品が作られていく様子は、産みの苦しみを感じながらも、皆さんとてもいきいきとされていました。「そうそう、演劇を作るって大変だけど面白いんだ!」と改めて気づくことができました。
演出にとって大切なことは、作品で一貫したルール(指針)を作ることだということが確認されました。そのルールを表すために、4要素の検討が行われます。
演出家は英語でdirector(直訳:指し示す者)といいますが、作品におけるぶれない指針をつらぬくことで、筋の通った力強い作品ができていくのかもしれません。
そして、「指針を貫く技術」が重要である一方、「上演日までに間に合わせる技術」も同時に演出家には求められます。どちらのチームも、時間の関係で最後の最後まで詰めることができずに、少し不完全燃焼感を感じさせてしまったようにも見えました。運営の課題でもありますね……。
また、共に作品を作る仲間(俳優やスタッフ)と「トラブルにならずに協働する技術」も大切です。自分と調子が合わない人と一緒に創作しなければならないストレス、不満、フラストレーション。ここに学びを得た参加者もいたようでした。これこそ、演劇の醍醐味ですね。本当難しい。
劇団としての課題もいくつか見えてきたので、次回開催するときはさらに充実したワークショップを目指していきます!またお知らせいたしますので、ぜひご参加いただければ嬉しいです。
これからの弦巻楽団もよろしくお願いします。
楽団員 佐久間泉真
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