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ある日、推しができた。

代表の弦巻です。今回は演劇とも弦巻楽団とも関係のない(いや、本当は演劇と少し関係ある)話題です。


これを書いている今日、8月13日は何の日か。
寛政の改革が行われた日、でもあるらしいのだけど、それを言いたいわけじゃない。
8月13日、それは『日向坂46の二期生が加入した日』だ。


今年の3月に話は遡る。
当時、自分は弦巻楽団演技講座の三学期発表公演『ペリクリーズ』に取り組んでいるところだった。だが大人数で感染症対策を講じての創作はやはり困難の連続で、換気消毒は勿論、少ない人数での稽古を心がけるようにしても稽古できない要観察となるメンバーは次々に現れ、全員検査→陰性が確認できるまで中断を繰り返していた。
迫る本番。消費されていく時間。誰のせいでもない宙ぶらりんの日々に徐々に気分は蝕まれた。できることを果たそう、という想いと、どうせできないんだと投げ出したくなる気持ちが胸中を渦巻いていた。
引き裂かれていた、と言ってもいい。
その前の月、弦巻楽団は2月に劇団として総力戦だった本公演『ナイトスイミング』を10ステージ中6ステージ上演を残し公演中止にした。いつそうなってもおかしくない。誰がいつ感染してもおかしくない。またそうなったら、という嫌な予感が常にあった。


賢い考えはいくらでも浮かぶ。
そもそも登場人物の少ない演目を選ぶ。
参加者を厳選する。
多数の人間と接触する職業の人間の参加は見送る。
完全にダブルキャストにし、稽古も別にする。「替え」を担保する訳だ。
やろうと思ってやれないことはない。だがそれでは「演技講座」として作ってきた場では、目指していた場では無くなってしまう。
でも引き裂かれていた。考えないようにして、祈るしかなかった。


離脱をせざるを得ないメンバーが出たり、100%完全上演とはいかなかったが、『ペリクリーズ』は素晴らしい本番を迎えることができた。受講生みんなの踏ん張りが素晴らしかった。自分の思考が引き裂かれている間も、作品のため、本番のため全力で取り組んでくれた。
…これは今回の本論とはまた違う話なので割愛。
詳しくは当時の記事やSNSをご覧ください。


閑話休題。
そんな宙ぶらりんな日。引き裂かれたままふと目撃した動画があった。

過去、自分に今の言葉で言う「推し」がいたことは2回ある。二人、と言うべきか。
一人目は石田ゆり子。14歳の時から10年間熱狂的に好きだった。写真集も持っていた(2冊)。信じられないかもしれないが、当時の石田ゆり子はまだ「石田ひかりの姉」と言う知名度で、注目は少なかった。自分の先見の明を讃えたい。
二人目は吉木りさ。彼女のことも8年くらい好きだった。初めて気になった時は、まだブログもない、所属事務所に小さくプロフィールが載っているくらいの存在だった。「キャンパスナイトフジ」に出演するようになった時は嬉しかった…。どのくらい好きかと言うと、背中しか写っていないグラビアを見て吉木りさかどうか判別(通称『利きりさ』)ができるくらい好きだった。
その吉木りさほどの熱意を感じる対象がない日々を幾数年か過ごしていた昨年、ふと雑誌の表紙が目に止まった。
その女性タレントにググッと惹かれ、誰なんだろうと調べてみた。


金村美玖(日向坂46)


と書いてあった。
その時の感想は正直「アイドルか…」と言うものだった。女優やモデルじゃないのか…という根拠不明の残念さだった。全然知らなかったけれど、『日向坂46』と言う文字面でアイドルなことくらいは分かった。
10数年前、AKBが人気をグングンあげていた頃は好みのメンバーもいた。
けれどその活動、と言うか活動の過剰なドラマ性、演出に食傷し、気持ちは離れていった。
なのでその後も金村美玖を見かければ綺麗だなと思ったが、掘り下げたり、所属しているグループを調べることもなかった。

そして、3月のある日、一本の動画を目撃する。
それは金村美玖が日向坂46に一緒に入団(?)した同期8名でダンスをしている動画だった。大きなコンサートの一場面のようだった。アイドルのコンサートとか、ライブ映像を見るの自体、ものすごい久しぶりだった。
なんか変だな。それが最初の感想だった。会場の盛り上がりもすごいが、何か引っかかるものがあった。8人(本来二期生は9人なのだがその映像では一人お休みがいたので8人)、一人ずつ順番に出てきて、踊って、ラストに向けて全員で、という特に変わったことはない流れ。
とてもかっこ良かった。かっこ良く見えた。何故そう見えるのかよく分からなかった。ダンスとして超人的な舞いを見せているわけではない。でも凄く素敵に、8人全員が素敵に見えた。ちゃんと8人バラバラに見えた。それもバラバラを強調するために誂えられた、作為的な「個性」なんかじゃない、それぞれがそのまま伸びている個性に見えた。
なんだろうこのグループ。面白いかもしれない。そう思って様々な映像を貪るように見た。

その時初めていろんなことを知った。元々欅坂46の妹分的な存在として発足した「けやき坂46(ひらがなけやき)」というグループだったこと。当時は表舞台に出る機会が少なかったこと。一期生が最初12人いたこと。彼女たちの努力があって徐々に場を与えられてきたこと。誕生から6年(7年?)経っていること。改名やメンバーの卒業など、数々のドラマがあったこと。現在三期生までで22人いること。金村美玖は現時点(2022年3月)の最新シングル『ってか』のセンターであること。それが初めてのセンターであること。お休みしているメンバーがいること。他の坂道グループと違い(?)全員選抜制という常に全員でシングル表題曲は歌うシステムであるということ。
他の動画を見ても、ダンスの時の印象は変わらなかった。一期生、いわば先輩格のメンバーがいる状態、グループ全員で活動してるバラエティ番組を見ても、良い意味でのバラバラ感は失われなかった。むしろ増幅した。
そして二日後には、全員の顔と名前が一致するようになっていた。

職業柄人の顔と名前を覚えるのは早い方だと思う。それでもこのスピードは自分でも驚いた。しかも同じような年代の女性が集まるグループでだ。
これはやはり彼女たちの個性の違いが自然に目に入ってくるからだろう。
個性、という言葉について昔から思ってきたことがある。それは「人と違うことをしよう」と思ってやったことが個性なのではなくて、「人と同じことをしよう」と思ってやったことで現れるのが個性なのだ、ということだ。衆目を集めるためにわざと変わったことをする、そのいやらしさに子供の時から敏感だった。
彼女達にはそれが感じられなかった。ただ他のメンバーと違うだけだった。それで目立ちたいとか、印象を残そう、という目的がある訳じゃなく。それでいい、という大きな包容力、あるいは芯の強さがあった。強さ?それは確かに強さに見えた。ある意味、抜きん出るよりもそのままを選ぶ訳だから。それで負けても仕方ない。そんな勝ち方はしない、という強さ。

雑誌も購入した。遡って彼女たちについて書かれた特集が載ってる書籍や雑誌を探した。彼女達の成長については冠番組『日向坂で会いましょう』(札幌では地上波なし)が外せないが、その番組を特集したB.L.T.2020年9月号はちょっと凄い。彼女達よりも番組制作スタッフの熱意が伝わってくる内容だ。
彼女たちのドキュメンタリー映画『3年目のデビュー』の中で、その『日向坂で会いましょう』の前身番組(ひらがな推し)からMCとして共に仕事を重ねる、いわば同僚のオードリー若林が「誰かが面白くなったら、全員でそれをサポートする」グループと語っていた。

『全員野球』という例えは、彼女達の魅力についてよく語られる言葉だ。彼女達を端的に表した言葉だと思う。
その活動の中で休業や休養をすることになるメンバーもこれまでいた。逆に全員で揃って活動できる機会が稀、という評も聞いたことがある。だが、そうしたメンバーがちゃんと戻ってくるグループでもある。現在サッカー番組やクイズ番組などでソロでの活躍が増えているメンバー、影山優佳は学業で約2年休業していた。それでもちゃんと帰ってこれる。そんなグループあるのか、と単純に驚きだった。
『3年目のデビュー』の中でもその影山が休業中、グループのライブを訪れる場面がある。その2019年の年末ライブではサプライズでメンバー自身知らなかった、念願の東京ドーム公演を来年行うと発表されていた。そのお祝いを彼女が伝えると、メンバーから次々に影も一緒だよ、という言葉がかけられていた。当たり前のように。
自分だったら言えない、と思った。まずはずっと一緒に活動したメンバーで、と考えてしまう。休んでいたメンバーに対してずるい!とケチ臭い発想をしてしまうだろうな、とも。
そんな集団ってある?ちょっと出来過ぎじゃないかと思うくらいだった。

でも彼女達が正解だった。それが良かったことは彼女の活動や、今のグループの現在地が完全に証明していると思う。
彼女達は、お互いがいることで『日向坂46』という面白い、他にないグループになっているのである。

『日向坂で会いましょう』は完全にそれを分かっていて(おそらく)、番組開始当初から企画や方向性が徐々に変わってきている。彼女達の中から出てきた面白さ、ハプニングを掘り下げることで次なる面白さを発見している。
特に

グループの写真集の中で募ったメンバーアンケート(彼氏にしたいメンバーは?など)で、齊藤京子というメンバーの名前が誰からも上がってない

番組スタッフと齊藤で様々な項目で「齊藤が一番になりそうな」アンケートをメンバーに取る。(というサプライズ放送をする)

結局ほとんど齊藤はアンケートの項目で一位になれない。が、本来の主旨ではないが、自分の他の一位になりそうな人を齊藤は次々に的中させる。

数ヶ月後、齊藤(と他数人)がメンバーを様々な競技で競わせ、誰が一位になるか当てる『日向坂ダービー』という企画が放送される。


この流れの美しさはちょっと出色で、彼女達の日頃の関係性が、そこから感じられる個性が面白いからこそ、できた流れだった。
こうした企画が次々作られるのが本当に凄い。今年になってからも独特な、他にないバラエティ番組を独走している。チャチャコインとかきちんと回収する徹底ぶりも凄い。
彼女達を知らない人が見ても楽しめないかもしれない。そんなことはないと思うが。
でも見てるうちに、彼女達の魅力には気づくだろう。
世代丸出しだが、「めちゃイケじゃん!」と思った。自分にとって一番面白かった、メンバーの個性が掘り出されることで神がかった企画を連発していた2000年代前半のめちゃイケ。


もっとスペシャルなタレントや人材はいるかもしれない。
笑いに積極的、とも評されるがもっと面白いことができる女性タレントやアイドルもいるだろう。
でも彼女達にはなれない。
それはお互いの関係性があってこその魅力だからだ。
スペシャルな人材は、他のスペシャルに取って代わられる。そのレースに挑むのも立派だが、意識的にか無意識にか彼女達はそこにいない。


彼女達を見て最初に感じた違和感。
他のアイドルと違う気がした大きなポイント。
それは、彼女達は椅子取りゲームをしてはいない、ということだ。


芸能界で、アイドルとして、誰かを蹴落とそうとしているようには見えない。
磨きあってはいる。競い合ってもいる。厳しいレッスンやスケジュールにもおそらく、耐えている。でも、誰かを切り捨てようとはしていない。
22人集まると見えてくる差異。その差異を尊重し、面白がる精神。活かすということは活かされることであり、活かされたいなら自分以外の誰かを活かすことである。その素地が彼女達にはなぜか存在した。
二期生9人は「奇跡」と呼ばれることが多いが、一期生12人も間違いなく奇跡だと思う。彼女達の明るさ、大らかさはちょっと桁が違う。キャプテン佐々木久美が当時を振り返って語った「みんなこんなに可愛いんだから、絶対大丈夫だと思っていた」という言葉。なかなか言えない。お互いを認め合える強さ。バラエティ番組での振る舞いを見ていると、彼女達も初めからその個性を発揮してたとは言えない。活動を通して、自分を出せるようになっていったのだろう。やはりそこに『日向坂で会いましょう』とオードリーの存在は不可欠である。
どうしてそんな風になれるのか。正直羨ましいくらいである。
それはきっと「面白くならなくても大丈夫」という信頼感なのだと思う。サボっても良いという意味じゃなく。何かやって、失敗できる空間。誰かがそれを受け止めてくれる空間。メンバー。自分を出せるというのはそういう環境の力が大きい。それは30年近く様々な人たちと演劇を作ってきて、一番大事な要素だと痛感している。


シングル毎に選ばれるセンター。それは彼女達にとっても大きな存在らしく、選ばれる・選ばれないに葛藤もあるだろう。けれど誰かが選ばれたなら、全員で祝福し、応援する。
思えばAKBに食傷するようになったのはその辺だった。
ある日突然話題作りのように現れる新メンバー。メンバー間に響く波紋。競争意識。そんな風に煽る大人側の演出が鼻につくようになった。
日向坂46にもそうした風はあったのかもしれない。競争意識を煽られるような。しかし彼女達はここまでとても巧みに、ある意味真っ正直に、それを無効化してきた。
やってくる困難に立ち向かい、全員の喜びにするという最高の武器で。


もちろん大手のアイドルグループである。戦略もあるだろうし計算もあるだろう。全部演出・演技で深層はそんなものじゃないかもしれない。だがそこまで策略立っていたのなら、自分は全て演出に騙されていたのなら、もう天晴れとしか言いようがない。


そうして、彼女達の魅力に嵌まった。
ここまでで2週間ほどの話である。


そして3月30日、31日。延期に延期を重ね、彼女達の念願の東京ドーム公演が行われた。もちろんチケットがある訳ではなく、配信で見ることにした。2公演どちらも見た。一度限りのリピート放送も含めて12時間くらいPCに張り付いていた。ずっと泣いてたと思う。
2公演日替わりで半数以上の曲が変わり、同じ曲も違う演出で歌ったり、同じ舞台にいるものとしてビビるくらいの内容量だった。舞台監督の処理量を想像すると頭がくらくらした。しかも広大な東京ドーム。生歌の多さにも驚いた。


コンサートでは。最初聞いた時は違和感しかなかった2ndシングル『ドレミソラシド』。彼女達にとってデビュー曲とはまた違うアンセムなんだと思った(YouTube公式アカウントで公開されている日向坂46のMVの中で、最も再生回数が多いのは『キュン』ではなく『ドレミソラシド』。3000万回越えである)。このコンサートで復帰した小坂菜緒を囲むように歌われるCメロ後のブリッジはグループの結束の強さを感じさせる瞬間だった。『抱きしめてやる』の渡邉美穂の迫力も良かったし、一期生による『それでも歩いてる』の椅子の演出は鳥肌が立つくらいズルいし、『ってか』の間奏で昇降台からロケットジャンプ、着地直後に笑顔で最前列までかけてくる金村美玖の輝きも凄かったし、富田鈴花の『誰跳べ』前の煽りには惚れ惚れしたし、その直後の謎に恍惚としたカスカスダンスにも胸が熱くなったし、『JOYFULLOVE』の虹と発光するメンバーにはため息が出た。
一人一人良かった瞬間が語り尽くせないコンサートだった。
金村美玖の魅力で嵌まった自分だったが、コンサートを見て紛れもなく、グループ全体を好きになった。

一期生のメンバー加藤史帆がインタビューで「ライブをしっかりやりたい。ライブが凄かったら、絶対好きになってもらえるから。ライブを見てがっかりされたらファンは増えないから。」と言っていた。彼女は正しい。いや、一番突拍子もない行動をとる、「変」と評されることの多い彼女だが、グループについて語るときの彼女は、いつも正しい。

こうして、自分は『箱推し』というファンになった。

後日、彼女達の活動を遡っていて、グループで過去に一度演劇も行っていることを知った。
しかも柴くんの『あゆみ』である。
へー!と驚いた。すごく素敵なチョイスだなと思った。
2018年のまだ「けやき坂46」名義の頃である。
そのスタッフクレジットを見て戦慄した。

演出 … 赤澤ムック

喉から手だけじゃなく心臓が出るくらい羨ましくて悶えた。
一緒に芝居し、のちに東京の大きな舞台で活躍する彼女の仕事を大変だなあ、と思っても羨ましいと思ったことは無かった。それが初めて嫉妬した。他者をこんなに羨ましいと思ったのは初めてである。

まだまだ彼女達の素晴らしい瞬間や、魅力的なポイントは書き出せばキリがない。
もし興味を持ってくれたなら『3年目のデビュー』を是非見てほしい。それで気になったなら『ひらがな推し』の映像ソフトや『日向坂で会いましょう』を。MVなら『ってか』、『飛行機雲ができる理由』、最新シングルの『僕なんか』、LIVE映像なら『ひなくり2021』(のオープニングからの『アディショナルタイム』!)、そして完璧と言っていいMV『ドレミソラシド』、けやき坂46時代の『僕たちは付き合っている』。
なんとか北海道でコンサートを開いてもらえるくらい、道内のファンが増えて欲しいというのが目下の願いである。


その後も彼女達を追いかけることで様々な体験をした。4月に入ってからのメンバー16人がコロナ感染判明、そして渡邉美穂の卒業発表。次々訪れるニュースに心臓がもたない気がした。
しかし一つ一つ歌の歌詞のように乗り越え、全てを喜びに変えようとする彼女達のパワーに紛れもなく自分は元気をもらった。頑張ってるからじゃない。やはりそれは頑張り方なのだ。
勝ち負けから遠いところに自分達の場所を築きつつある彼女達に、感動をしているのだ。


今現在(2022年8月)、まもなく彼女達の新メンバー、四期生が発表される。メンバーが増えることでグループがどう変わるか、楽しみと同時に不安もある。どうか運営(会社側)の計らいで妙な波紋が与えられませんように。全員選抜生が崩されませんように。過剰なドラマ性が持ち込まれませんように。


さて、すっかり彼女達のファンになった5月。そろそろコンサートで初披露された、発売が延期になっていた新曲『僕なんか』の発売が近づいてきた頃。
自分はすっかりファンなのだから、もちろんタイプ別のシングル全4種購入するつもりだった。
だがそんなシングル発売特設ページに、見慣れない、知らない単語があった。そう言えばファンのコメントやメンバーのブログでもこの単語について言及されていることがあった。
なんだろう。一体この単語は。
そこにはこう書かれていた。




【オンラインミート & グリート(個別トーク会)の開催が決定‼︎】




続く。





先日東京で訪れた表参道の日向坂46キャンペーンカフェ(通称おひさまカフェ)
アイスカフェラテ
モニターではおたけと影のトークが。


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