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ほどよさのよさ

先日、一泊二日の釣りキャンプで、夫と友人が二人でボートを借りてダムの中心にある島に行ってきた。夫の友人は、我が家では釣ってきた魚をちゃんと食べ切らないと次の釣りに行かないことを知っているので、度々「魚全部食べた〜?次、いつ頃いけそう?」と聞いてくる。もちろん一人でも釣りに行く彼だが、友達と泊まりがけでいく釣りキャンプは格別に楽しいらしい。待ちに待った釣り日和だ。

気合たっぷり、9本全て友人の釣竿!
奥の方でこじんまり見える3本が夫の釣竿。

そして、今回夫が釣ってきた魚はこちら。

丸々太った45cmのティラピア1匹!ティラピアとしてはとても大きいサイズ。

「いいね〜!」と私は言って、夫がティラピアを捌いているのを眺めながら、これでどんな料理を作るか想像する。

ジップロックに骨と頭部分、切り身を分けて冷凍保存する。

身は2回分にわけ、2つ別のメニューに使おう。
骨と頭はスープにするか…でもかまを塩焼きにしたい気もする。

と、ざっと考えて3〜4日で食べられそうだ。ほどよい量だなと思う。
来月上旬には私が釣りに行きたいので。

翌日、早速一つ目の料理を作った。

ゲンソム/ Sour Vegetable curry/酸味のあるカレー

揚げ春巻きピーナッツソース添え

無性に食べたくなったゲンソム/ Sour Vegetable curry/酸味のあるカレーを作った。英語ではサワーベジタブルカレーというけれど、大概、魚介類か稀に肉を入れ、特徴的なのが四角く切ったハーブ入りのオムレツも入れるのだ。

タイカレーでもココナッツミルクを入れない、酸味の爽やかなカレーだ。
オムレツを入れるなんて最初は驚いたけれど、入っているといないとでは大違い!オムレツ入りが本当に美味しいのだ。今回は揚げ春巻きにつけるピーナッツソースが甘いので、ゲンソムは甘さ控えめにした。

私が作るゲンソムでお気に入りの具材は、白菜、きのこ、さやえんどう、そして白身魚だ。ゲンソムはココナッツミルクを入れないので、カレーに”味”を出すのが難しい。レストランで食べても、美味しいところはすごく美味しいが美味しくないところは水っぽく本当に美味しくない、と差が激しく出る難しいメニュー。

短時間でも煮ると味がよく出る野菜を選び、魚は最後に入れて身が硬くならない程度に火を通す。そうすることで、スープには野菜のコクがあり、魚の身を口に含んだ時に味わえる魚の旨味、この二つの合わせが美味しいのだ。
カレーに投入するオムレツには、ちょっとクセのある種類のハーブを入れる。一般的なのはディル。ディルはスウェーデンでも魚によく使用される。タイでも同じだとわかったのは嬉しい驚きだった。アジアでもヨーロッパでも、食文化はだいぶ違うにもかかわらず、昔から魚の味にあう/引き立てるハーブが同じという感覚が同じだなんて、なんだか嬉しくなってしまう。「ね!そうだよね!」とこの組み合わせを発見した昔の人に握手したいくらいだ。それにしても、ハーブをカレーに入れるのではなくて、カレーにハーブを入れたオムレツをぶっこむなんて発想がすごい!

この日は冷蔵庫にパクチーファランという、パクチー/コリアンダーに少し似たハーブがあったので、それを刻んでオムレツに入れた。うん。やっぱりクセのあるハーブであればなんでも美味しい。
熱々のカレースープを大鉢にもり、焼きたてのオムレツをまな板の上で火傷に気をつけながら包丁と菜箸を使い四角く切り、それを大鉢のカレーにもる。

オムレツをカレーに入れると「ジュッ!」と一瞬音がする。

熱い!美味い!

夫と一緒に釣りに行った友人は50cm弱のティラピア1匹を釣ったらしい。
1匹しか釣れなかったけれど、でもウチのより大きい魚が釣れたと聞いてホッとした。
彼の家族は基本8人家族だ。(居候となる親戚の出入りが激しいため人数が変わる)
キャンプから帰ったその日の夜に、楽しみに待っていた彼の奥さんが大鍋にたっぷりの熱々の油を用意した。メニューはいつも同じ魚の姿揚げ。
もちろん大きな1匹の魚はその晩のうちに8人のお腹の中に余裕で収まった。

友人宅で魚の下処理をしたり調理できるのは釣ってきた本人だけ。そしてその彼が作れる魚料理は魚の姿揚げのみ。
彼の奥さんは生きた鶏は捌けても魚は捌けないし、魚料理を知らない。

そんな彼が今回のキャンプで夫に
「お前のところで食べている魚料理美味しそうだな。たまにはちょっと違った魚料理も食べたいなぁ〜。でもまぁ、僕は魚を捌けないし、ウチは大家族だし、豪快に揚げた魚料理を1日食べるだけでお祭り騒ぎでみんな喜ぶから、それで丁度いいんだよなぁ。」
と笑顔で言ったらしい。

大家族である彼の家では、それにあった丁度いい魚の量や食べ方がある。
我が家では我が家で調理して食べられる丁度いい魚の量や食べ方がある。

タイ語にพอดี (ポー・ディ)という言葉がある。
スウェーデン語にLAGOM(ラーゴム)という言葉がある。
世界の言語には、他の言語にぴったり訳せない言葉があるとされているのだが、偶然にも私が使える言語の中の3つにその共通する言葉がる。
この二つの言葉の意味は日本語では、

これで充分/ちょうどいい/ほどよい

にあたる。英語で訳そうとするとjust rightやjust enough、moderateを使って表現することになるのだが、どうもしっくりこない。ほかにもいろんなシーンで「丁度良い/これで充分」という意味に対する言い方があるけれど、私が思いつく限りどれも少しネガティブな方に片足を入れているような意味を含んでしまう。
ニュアンス的には、多すぎず少なすぎずその塩梅が適度(程よく)にいい、
つまり「足るを知る」といった背景があるのだ。
พอดี (ポー・ディ)はポー(充分)とディー(良い)の二つの言葉が組み合わさっていて、特にพอดี พอดี (ポーディポーディ)と2回繰り返して表現する場合、LAGOMや「足るを知る」のニュアンスで使われているのがわかる。

「足るを知る」のよさを知ると、そこには持続可能的なものを感じる。
自然の恩恵を受けている世界、発展する社会、その集団の中で生きる安全と幸せを考えると、どうしてもそこには”今この瞬間に自分一人だけが得する感覚”でいては難しい、と気がつくことが大切かと思う。
人それぞれ「充分」の度合いは違うが、それぞれが日々自身の身の丈にあった充分を知ると、そのささやかな幸せが持続しやすいのではないかな。それは、人間が持ち合わせる「もっともっと!」と続く”欲”への道ではなく、次回への純粋な楽しみへと続くから。そして、その次を楽しみにしている時間さえも同じく楽しく感じるものだ。

この記事で、夫の友人にジップロックをプレゼントしようかと思ったことを書いたが、友人がやっぱり私の魚の揚げ方に興味を持っているようなので、誕生日にジップロック、小麦粉と共に、魚の冷凍保存の仕方と調理法をビデオにして贈ったら喜ばれるかなと思いついてしまった。とりあえず、私自身の楽しみとしてやってみようかと思う。



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