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【短編小説】通販アプリで恋を手にいれました

ある日の深夜、動画サイト「my tube」にて、
ゲームチャンネルを見ていた。
三十年前のレトロなゲームソフトで、横スクロールアクションゲームだった。
シンプルな操作性なのだが、奥が深く、難易度は高めだ。グラフィックも、最新の超高画質、ハードディスクに比べると、物凄く、素っ気なく、ショボく感じるが…逆に、味があって良い!
配信者は、二面のボスに手こずり、なかなか先に進まない。何度もコンテニューして、挑戦し続ける。
小腹が空き、カップラーメンを啜りながら、応援し、見守る。冷蔵庫に飲み物を取りに行っている間に、
どうやら、クリアしたみたいだ。
巻き戻して、確認するが、何か感動が薄れた。
クリアすると知ってしまったからだ。
来週の、三面配信を楽しみにしながら、寝床につく。
翌日というか、日付けが変わった本日は、早朝から、
仕事なのに、なかなか寝つけない。
自分も、さっき見ていたゲームをやりたくなってきた。ゲーム機本体はあるが、肝心のソフトが無い。
レトロゲームなので、その辺の中古ショップに置いてない。だが、ネットという強い見方がある。
スマホで、すぐに調べた。
通販サイトアプリ「メルカラ」を使って、
先程のゲームソフトのタイトルを入力して、検索する。三件ヒットした。一番安いのは、「傷あり」と明記されている。いくら格安でも、作動しないリスクとかあるので、問題外だ。ということで、相場価格で、傷なし商品を選択した。購入画面に進む。
支払い項目を選び、完了した。送料は、出品者持ちだ。
そして、どうでも良い情報だが、出品者は、女性だ。
三日後…。待ちに待った商品が届いた。
本日は、仕事が休みなので、一日中、没頭出来る。
食べ物と飲み物を大量に用意して、長い邪魔な髪の毛をタオルで巻き、さぁ、準備が整った!
と…その前に、出品者に、無事届いたことと、お礼のメッセージを送った。高評価も、ポチっとクリックした。
ゲームを始まる________。
配信者と同じく、二面のボスに手こずる…。
動画で、倒し方は、解っているが…想像以上に、操作が難しく、三時間、悪戦苦闘して、ようやくクリアした。ふぅー…。と、深呼吸して、休憩がてら、タバコに火を着ける。腹の虫もなる。電子レンジで、冷凍ピラフを温め、待っている間、スマホがチカチカしていたので、チェックしたら…
出品者からの返事がきていた。
「ご購入ありがとうございました。無事について、なりよりです。そのゲーム私は、二面で諦めました。フフフ。頑張ってクリアして下さい。」
会ったことはないが、文面から、とても律儀で、好感触だと伺える。こんなゲーム友達が欲しいと、心の中で、呟きながら、ピラフを頬張る。
食べながら、ネットで三面の攻略情報を調べた。
三面以降は、難所は無いらしい。
やはり、自分も、配信者も、出品者の女性も、
このゲームの一番の難所は、二面みたいだ。
案の定。情報通り、サクサク三面、四面、五面をクリアした。六面以降は、やや手こずったが、最終ステージに到着した。ここまで来ると、雑魚敵も強い!
上から蜘蛛が!下からすばしっこい蟹が、プレイヤーの行く手を遮る。金のハンマーで、的確に叩くも、
効いている様子がない…。スタートボタンでポーズをとり、またネットに頼る。
「なになに…雑魚敵は、倒せないので一切無視して、先に進みましょう?バカ野郎!先に言え~!」
誰もいない、部屋でひとり突っ込みを入れる。
春野颯真(はるのふうま)は、そういう癖がある。
普段は、どちらかというと、口数が少なく、
必要最低限のことしか、言葉に発しない。
なのに、大好きなゲームのこととなると、人格が変わる。この前なんかは、たかがゲームなのに、クリア出来なくて、マジ切れした。その姿にドン引きして、
持ち前のイケメンルックスなのに、去っていく彼女が後を絶たない。
辺りは、すっかり暗くなっていた。
中ボスをやっと倒し、ラスボスがいる部屋の鍵を手にいれた。慎重に進む…。残基は二基しかない。
もう、ミスは許されない…。
ネット情報によると、武器はボーガンを使用して、
弱点の頭だけを撃つと書いてある。
部屋が見えた!深呼吸して、突入する。
音楽が、変わった。まさにラストにふさわしい曲だ。
この当時の技術で、なかなか臨場感がある演出と浸っている余裕もなく、ラスボスの激しい攻撃が始まる。
四本の雷が、上空から降って来る。
それを全てかわして、攻撃チャンス到来だ。
頭を集中的に、矢を撃つ。ボスが白く点滅している。
効いている証拠だ。三十発程度当てたところで、
ドカーンドカーンと煙と共に、ラスボスは倒れた。
勝利の瞬間だ!
姫を救出して、エンドロールが流れた。
颯真は、クリアの余韻に浸たっていた。
ゲーマーは、全クリすると、早くも、次に新しい物をやりたがる生き物。ところが、これといった目標のソフトがなく、渋々クリアしたRPGを出して、レベル上げをした。カンストと呼ばれるマックスレベル九九にあげることだ。ただの自己満足に過ぎないが、
この作業が楽しい。とはいえ、二時間程で飽きる。
SNSで、レトロゲームのスレッドや呟きを見ていたら、侍をモチーフにしたアクションゲームが話題のようだ。早速、調べてみると、面白そうなゲームだ。
すぐに、欲しくなり、通販の「メルカラ」を開く。
どれも、結構いい値段がついている。
給料日前で、やや厳しい…。
さんざん迷った挙げ句、購入画面をクリックした。
あることに気づく!

また、出品者は、同じ女性だ。

向こうも、それに気づいたらしく、
問いかけてきた。
「あれ?先日購入された方ですよね?」
「あっ!はい…。あのゲームクリアしまして、今度このファーストチャンバラやりたくなりまして、偶然あなた様から買うことになりまして。」
続いて、こんな質問もきた。
「レトロゲーム好きですか?」
「大好きです!というか、ゲーム全般好きです。」
「私もゲームが趣味で、レトロゲーム沢山持ってます。よろしければ、出品してなくて、手放せないソフトとか貸しましょうか?」
「いや、でも…大切なソフトをもし、傷つけたりとか…怖いので、遠慮しておきますよ。」
「ナイトムーンありますよ。」
「ええ~!!」
ナイトムーンとは、幻中の幻のソフト。
ゲーマーやレトロコレクターの中では、数十万単位で、取り引きされている。
女性は、さらに信じられないことを口にする。

「家に来ます?」

動揺して、灰皿をひっくり返してしまった。
飲みかけのコーヒーも、溢して、床マットに水溜まりが出来た。早く拭かないと染みになってしまう。
文字入力もミスして、何度も打ち直し、返信した。
「ナイトムーン以前から凄くやりたいです!でも、会ったこともない、見ず知らずの男を…家に招き入れて大丈夫なんですか…?」
「私、そういうの全然気にしませんから。それに、ゲーマーで悪い人って居ないって思うんですよ。」
躊躇しながら、それに答えた。「では…お言葉に甘えて…お邪魔しに行ってよろしいでしょうか?」
「はい!その時、先程注文したソフトもお渡ししますね。その方が、送料払わなくて良いですし。」
「そうですね。よろしくお願い致します。」
この後、日時や、住所のやり取りをして、

出品者の女性と会うことになった!

さて…手土産は何にしよう…。
当日、何を着て行こう…。
約千キロ離れた、女性の家までの、交通費…
どうしよう…。
考えれば、考えるほど悩みごとは尽きない。
まるで、打出の小槌で叩いて、お金の代わりに、悩みごとが出てくる感じだ。
しかし…

颯真にとって、久しぶりに春が到来した予感だ…(?)

つづく。

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