見出し画像

【短編】深夜の太陽

これと言った才能や取り柄も無く。
普通車の免許以外、何の資格も持っていない。
最終学歴は、偏差値の低い高校を、単位ギリギリで卒業。
風貌は、見方によって、イケメンに見えなくもないが…口下手で、人付き合いが苦手なので、彼女は、おろか友人さえもいない。
そんな男が何を楽しみに生きているかと言うと…
趣味のテレビゲームだ。
一日平均、十二時間!ゲームに費やす…。
なぜ、そんなに時間があるかと言うと…
四十歳にもなって、無職…今風で言うと、ニートだからだ。数年前までは、アルバイトを転々として、
いわゆるフリーターというやつだ。社会人のはしくれとして、働いて来たが…「不況で仕事が見つからない。」という言い訳で、部屋にひきこもってしまった。「生活の方は大丈夫なのか?」という声が、聴こえてきそうだが、心配ない!
実家暮らしなので、両親が全部、面倒みている。
家賃、食費どんと来いだ(?)
親は、男に、呆れ、何の期待もしなくなった。
いや、完全に諦めたと言った方が適切か?
一応、男も、遠慮があるのか?なるべく鉢合わせないように、配慮している。
そして、親が寝静まった深夜に、夜行性動物のように、ムクムクと行動する。
と言っても、コンビニか、真夜中の公園を散歩する位だが…。
この日もまた、日付が変わった、午前一時に、
小腹が空いたので、コンビニに、イソイソ足を運んだ。本のコーナーで、立ち止まる。
求人誌を読むのではなく、新刊のゲーム雑誌だ。
「面白そうな新作ソフトまだか!まだか?」と、
読み漁る。
数分後には、エロ本コーナーにも、目がいく。
ある雑誌の表紙のグラビアに魅了され、手を伸ばそうとしたら…コンビニに新しい客が訪れて来た。
しかも、女性だ。一目散に、エロ本コーナーから、逃げる。パンのコーナーに行き、当初の予定通り、
小腹を満たすため、チョリソーのパンと、チョココロネを手に取った。
新しく来客した女性も、横並びに来ていた。
隣から、良い匂いが、プンプンこみ上げる…。
思わず、チラリと、顔を覗いた。
この女性…良くこの時間帯に蜂会う。
見かけは、まだ幼い…高校生?
いや、違う!まだ中学生だ…!
(こんな時間に、こんな所にいたら補導されるのでは?)そんな些細な疑問を抱きながら、缶コーヒーも、一緒に、レジに向かった。
近くの誰もいない深夜の公園のベンチに腰掛け、
先程、購入したパンを頬張る。
パコ!と、缶コーヒーのフタを開けた音が、
公園内に、鳴り響く。気の弱い男は、これだけでも、近所迷惑になるのではないか?と、挙動不審におどおどし始める。

その時________。
足音が、聴こえて来た_______。
耳を傾けると、動物ではない、人間の足音だ。
段々、近づいて来る___________。
恐る恐る、その方向に目を向けると…

先程のコンビニにいた女性だ。

彼女もまた、男と同じ行動パターンだった。
三メートル離れた、ベンチに腰掛けて、
袋から、プリンを取り出し、蓋を開け、ビニールに入っている小さなスプーンを取り出し、食べようとする様を、無意識に一部始終ずっと、目で追っていた。
それに気づいた彼女は、男に問いかける。
「あのう、何か?」
「い、いえ…何でもありません…。」
こんな時間に、目の前に、見ず知らずの中年男性が居るのに、しかも、まだ中学生の女の子なのに…恐くないのか?
しかし、話かけられて嬉しかった。
日々提好日ではないが、至福の一時だった。
女の子は、ペロリと、プリンを平らげて、パンに、手を伸ばしかけ、再び、話かけられた。
「お兄さん、いつもあのコンビニで会いますよね?」
「お兄さん!!」もう、四十なのに、自分の娘のような年齢の子に、そう言われた!
だが、舞い上がっている暇はない、
一刻も早く、彼女の問いに答えないと!
「あ、はい。夜の仕事で、休憩時間で…。」
自分を美化しようと、咄嗟に嘘をついた。
その嘘を誤魔化そうと、今度は、男が、こんな質問をぶつける。「君、まだ中学生だよね?こんな時間に、出歩いて、補導されない?」
「今のところは、大丈夫。」
タバコを吸いたいが、女の子に遠慮して、我慢した。

パンを噛りながら、夜空を見上げて、彼女が呟いた。
「私、学校行ってないの…。」

「えっ!?」
「いじめられている訳でもなく、勉強も、そこまで嫌いじゃない。」
「体が弱いとか?何かの持病?」
男の問いかけに、彼女は、首を横に振り、それに答えた。「ううん。至って健康!」
「じゃあ何で、ひきこもっているの?」
男の質問をスルーして、食べたゴミ袋をしまい、
「じゃあね~。」と、言って、女の子は、スクッと立ち上がり、その場を後にした。
最後の質問が、マズかったか…?男は、後悔と反省をした。

だが、顔見知りになった!
これで、明日から、また女の子と会えると思うと、
楽しみだ!

帰り道、男は、彼女のことばかり、考えていた。
(ひきこもりかぁ…。)理由は、ともかく、
かなり歳の離れた、同じ人種に間違いない。

女の子の名前は、りお。
そう!彼女もまた、訳あって、ひきこもり女子中学生。

この後、二人に様々な試練が、襲いかかる。

つづく。

ここから先は

17,151字

¥ 130

作家を目指しております。頂いたサポートは、小説を書くうえでの取材費とカバーイラストor写真で有り難く使わせて頂きます。 もし、よろしければサポート宜しくお願い致します。