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【長編小説】冬の民宿 第六話~九話

あらすじ
秋から冬にかけて、民宿「朝里」の経営が、厳しくなり、ジンは、夜間警備のアルバイトをこなしながら、沙羅子と、色々なアイデアと、努力を費やして、営業した結果、客足と活気が、戻った。
しかし、一流企業に再就職を果たし、このまま、
母から、譲り受けた民宿を手放さそうとする良美。
そんな彼女が、ジンに、冬のシーズンの売上げノルマを掲示する。未達成の場合、無条件で、民宿は、閉める。そんな中、クリスマスパーティーを開き、
結婚が決まった若いカップル客や、末期ガンで、そのまま還らぬ人となった外国人客もいた。
JCグループ客の喧嘩の仲裁に、入ったりと、
大勢の客が押し寄せても、何かとトラブルやドラマが途絶えない民宿「朝里」。
一方で、沙羅子は、密かに、ジンに思いを寄せる。
それを察知した良美が、今まで、ジンと離婚を考えていたはずなのに…嫉妬して…

登場人物紹介
【神崎仁雷】
通称ジン。民宿「朝里」の婿。能天気なお調子者。
しかし、根は優しく、面倒見が良い。
【神崎良美】
通称良美。頭が良く、仕事も出来るキャリアウーマン。美人だが、相手を見下した態度と、サバサバした性格がキズ。
【沙羅子】
良美の姉。アネゴ肌で、面倒見が良く、イベントや祭事等、積極的に参加して楽しむ。
既婚者だが、姑と反りが合わず、別居して、
民宿「朝里」に、住み込みながら、手伝う。
【神崎風菜】
良美の連れ子。思春期に入り、ほとんど誰とも、口を聞かず、家に居る時は、自分の部屋から出て来ない。
【香代美】
良美の妹。独身で、CA。
【トオル】
良美の元旦那。

この物語はフィクションです。

第六話 「ダイエット」

冷え込む、新潟の十二月の朝_____。
いつものように、リビングで、朝食を取っていた。
各自、好きな物を食べるルールだ。
ジンは、玉子かけご飯を豪快に三杯かきこむ。
その隣で、沙羅子は、ホットサンドと、スクランブルエッグを朝のニュースを見ながら、頬張っていた。
ジンが、対面に腰かけて、コーヒーだけ、啜っている良美の姿を見て、さりげない疑問をぶつけた。
「朝メシ、それだけ?」
「うるさいねぇ…イチイチ詮索しないでよ。」
そこへ、まだ目を擦っている娘の風菜が、起きてきた。ジンの「おはよう。」にも、思春期真っ只中の彼女は、当然のようにスルー。調理パンを手に取り、インスタントのコーンスープにお湯を入れ、そそくさと、自分の部屋に戻って行った。
良美が、コーヒーを飲み干し、カップを洗っている最中、ジンが、何かを思い出したように、問いかけた。
「そう言えば、良美、昨日も、夕食、全然食べてなかったけど…どこか、体の具合でも悪いのかい?」
「チッ…」と、舌打ちして、面倒くさそうに、それに答えた。「ダイエットしているの!」
「ダイエット?何のために?」
良美は、モデルのような、スラーっとして、線が細く、これ以上、痩せる必要もないし…
むしろ、もう少し太っても良いくらいだが…?
結局、ダイエットの理由を言わずに、その場を後にした。沙羅子に、「あいつ、何で、ダイエットなんかしているんでしょうね?」と、話しかけたら、
こんな答えが、返ってきた。
「好きな人でも、出来たんじゃない?」
「えっ!?」
冗談交じりで、そう呟いた沙羅子だったが…
ジンの良美に対する反応を見てみたかった。
お調子者のジンは、落ち込んだり、ショックを受けると、すぐに表情に出るので、分かりやすい。
案の定、やや、うつむいている…
ということは、まだ、良美に気があるのか?
というより、離婚を切り出したのは、一方的に良美だけで、ジンは、最初から嫌いになんかなっていない。
最近、沙羅子が、ジンのことを気になり出してから、
思わず、様子を伺ってしまい、良美に対する愛情が、早く失くなって欲しい願望で、ついつい、かまかけて探ってしまう…。

この日は、年末年始に、忘新年会で、泊まりに来る団体客の買い出しに、ジンと沙羅子の二人だけで、
出掛ける。沙羅子には、ちょっとしたデート気分だ。
ランチは、お洒落なイタリアンレストランに、足を運んだ。好きな相手を思わずチラチラ見てしまうのは、
人間の心理、沙羅子は、パスタやピザを美味しそうに、頬張っているジンのしぐさや表情等、隙があれば、ガン見していた。
その時______!!
ジンのケータイが鳴った。
知らない番号だ…。
「誰だろう…?」と、独り言のように、呟いて、
店の外で、出た。
数分後…。
血相を変えて、ジンが、足早に駆け寄って、
こんなことを口にした。
「大変です!良美が倒れたって!!すぐ、病院行きましょう!」
「ええー!?」
搬送された、病院に行き、物凄い勢いで、
良美が寝ている病室のドアを開けた。
ガラガラガラー。
病院内なのに、ジンは、大きな声で問いかけた。
「大丈夫か!良美ー?」
「静かにしなさいよ。私は、平気よ。大袈裟な…」
相変わらず冷めた口調で、そう言った良美だが、
少し顔色が、悪いだけで、大きな病気では無さそうだ。そう思った沙羅子がこんな質問をぶつける。
「それで、なんだったの?」
「軽い貧血。」
「大事に至らなくて、良かった。」
「お姉ちゃんまで、大袈裟なのよ。」
それを聞いてジンが、説教を始める。
「沙羅子さんだって、心配して来てくれたのに、なんだその態度は!!」
良美が、得意の逆ギレで、反論する。
「頼んでないわよ!いいから、一人にして!」
「まあまあ。私はいいから。良美も、元気そうだし、買い物の続き行こうよ。」そう言って、沙羅子は、ジンの腕を引っ張り、連れ出そうとする。
それを見た良美は、言葉とは、裏腹に、嫉妬して、
こんなことを口にした。「せっかく来たんなら、仕事手伝ってよ。」
「仕事?この期に及んで、まだ仕事する気か?」
「本日中に、仕上げないといけないの。」
「全く…しょうがねぇーな…。」
良美は、封筒から、数枚の書類を出して、
「ここの顧客リスト、全部パソコンに打ち込んで、本社にデータ送信して頂戴。」
(面倒くせーな。)と、愚痴りながら、ジンは、作業に取り組んだ。「私も何か手伝うよ。」と、沙羅子の問いかけに、「お姉ちゃんは、いいや。ありがとう。買い出しの続きだっけ?行っていいよ。」
「でも、ジン君と一緒じゃないと、わからないし。」
狭い、病院の一室で、ジンの取り合いが始まった。
どちらも、譲らず、一歩も退かない!
それに、全く気づかない、超鈍感なジンは、
黙々と、カタカタとパソコンとにらめっこしていた。
数時間後、ナースがやって来た。
「神崎さん、お加減はいかがですか?」
「少し休んで、おかげ様で、もう大丈夫です。」
医師も駆けつけて来た。
ジンも、沙羅子も頭を下げる。
そして、医師が口を開いた。
「神崎さんは、今時、珍しい栄養失調で倒れまして…失礼ですが、ここ一週間、ほとんど、まともな食事をされていないようですが…ご家庭では…」
「いや、コイツが…失敬、妻が、ダイエットとかで、昨夜も今朝も、ろくに口にしないんですよ!」
「でも、食べないと…出来れば炭水化物採らないと、また倒れますよ。」
「はいはい、食べます。」と、言って、良美は、起き上がり、帰ろうと身近を始める。
医師が止める。「いや、本日は、安静に、ここで寝泊まりして頂いて、一応、明日から、精密検査しようと思いますけど…。」
「私は、もう平気です。精密検査なんか受けません!」
ジンが、怒鳴る。「先生の言うこと、ちゃんと聴けよ!それに、精密検査受けろよ!」
「私、着替えるので、男性陣は、出て行って下さい。」
ジンが、「ちょっと二人きりにさせて下さい。」と、ボソッと呟き、「何よ?」と、早く帰りたそうにして、ふてくされている良美に、囁いた。
「お前…アレックスのこと、忘れたか…?」
つい先日、末期ガンで亡くなった外国人客だ。
「知っているわよ…。でも、私は、本当に大丈夫だから!」
「アレックスだって、亡くなる前日まで、あんなに元気だったのに、コロっと、逝っちゃったんだぞ…。だから、大人しく、入院して、精密検査も受けろよ。」
「なんで、アンタに、そこまで指図されないといけないわけ?」
「俺達…夫婦だろ…!」
良美が、窓の外を見て、呟いた…。
「形式上ね…。でも、離婚する方向なんだから…これ以上、詮索も、意見も押し付けないでよ!」
「…。」
ガラガラガラ…と、肩を落として、ジンが出てきた。
沙羅子が待っていた。
ジンの元気ない様子を見て、良美との会話は、聞いてなかったが、なんとなく状況を察知して、
何も触れなかった。
気を取り直して、買い物が、再開された。
だが、ジンの気分は、晴れず…
ずっと、上の空だった…。
元気づけようと、沙羅子が飲みに誘う。
その一言で、一気に笑顔を取り戻したジンは、
いつもの茶化した口調と、能天気なテンションで、
「いいッスね~!」と、コロッと戻った。
深夜一時まで、飲み歩き、帰宅途中、
さっきまで、千鳥足で、ベロンベロンだったジンが、
ピタリと、足を止めて、真顔で振り返り、
沙羅子に、こんな台詞を言った。
「今日は、ありがとうございました。沙羅子さんの優しさに、沢山、救われました!」
突然、そんなことを言われて、舞い上がり、照れた面持ちで、あたふたした沙羅子のとった行動は…

ジンを後ろから、抱きつき…囁く…。
「良美と、別れてよ…。私が、ジン君を…
いっぱい幸せにするから…!」

つづく。

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