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いのちを受け継ぐものづくり。レザーバックブランド「KHOHi」

昨今サステナビリティやエシカルといった価値観により、素材に対する意識が変化しているように筆者自身感じています。リサイクル素材やオーガニック素材だけでなく、近年環境に配慮した方法で製造される「エコレザー」や、キノコの菌やリンゴから作られた代替レザーなど、様々な取り組みが見られます。

そうした今だからこそ、あらためて素材、中でも「レザー」という動物の命とものづくりのつながりを考えてみたいと思います。今回は、北海道で害獣駆除されたエゾシカの革を使って製作されている、レザーバッグブランド「KHOHi(コイ)」代表 岡本由梨さんをインタビューしました。

大量生産から、メイドインジャパンのものづくりへ

もともとものづくりや革の素材が好きだったと話す岡本さん。バッグの専門学校を卒業後、数年バッグメーカーで働いた後に独立し、「KHOHi」を立ち上げました。

岡本さん:メーカーで働いていた時、安価なレザーを作る中で生じる児童労働や環境汚染の問題に違和感を感じていました。また、そうした安価なレザーを遥々日本へ輸送することってエコではないんじゃないかと思って。独立後は、原皮からなめしの工程に至るまで、極力メイドインジャパンのものづくりを心がけています。

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レザーを通して考える、生命の継承

岡本さんがプロダクト製作で使用しているのは、北海道で害獣駆除されたエゾシカのレザーです。鹿の革の歴史は長く、古来から武具や神聖なものとして日本文化と結びついているそう。

しかし、エゾシカの繁殖力は高く、最終的に森林破壊につながるため、「害獣」として駆除されている現状もあります。実際に、年間約13万頭が捕殺されており、その内訳は、ハンターが狩猟期間に自由意思で行う狩猟と、行政が計画的、あるいは農業被害などが大きいために特別に許可をして行う有害駆除に分かれ、北海道では有害駆除が約7割に上るといいます。(※1)。

そして、駆除されたエゾシカは食肉として私たちの生活へつながることもありますが、レザーへの加工は難しく、なかなか積極的に製造する方が少ないそうです。その中で、岡本さんはエゾシカレザーのポテンシャルの高さを感じているといいます。

岡本さん:たしかにエゾシカレザーは傷がついていたり、加工するのが難しいですが、そうした傷を手間暇かけて仕上げると独特なテクスチャーが生まれます。タンナーさん自身もSDGsやエシカルに関心があり、このエゾシカレザーも植物タンニンなめしで製造され、エゴレザーの認証(※2)も取得されています。

革としての魅力だけでなく、手入れをしたりお直しをしたりして長く使うことで経年変化の味わいも生まれると岡本さんは話します。

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また、岡本さんはいかに余すところなくエゾシカの革をものづくりにつなげていくかを模索されていました。

岡本さん:以前、ジビエの鹿肉を食べながらプロダクトの展示をしたことがありました。このレザーは、どの辺りで狩猟されたか分かるトレーサビリティが高いものなので、エゾシカと自分自身の命のつながりも可視化できたように思います。

誰にも真似できないものづくりの真髄を求めて

レザー産業だけでなく日本におけるものづくり全体が減少している今、後継者がいないことで高い技術が継承されていかないという課題を岡本さんは感じているそうです。

岡本さん:軽工業が安価に製造できる海外へ流れることで、国内でものづくりをやめる方が増えていきました。一度破壊されたものって、なかなか元には戻らない。だからこそ、古いものを継承していくことの大切さを感じています。

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また、大量生産された安価なプロダクトで溢れる今、岡本さんはレザーのプロダクトを製作する中で、他の人が真似したり大量生産できないものづくりの形を探っていると話します。

岡本さん:今後、よりプリミティブな方向性でものづくりをしていきたいです。今までは、量産できる型紙を考案していましたが、今は多くの人に広がらなくても良いので、しっかり納得いく形でデザインしていきたいと思っています。

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今回岡本さんの話を伺う中で、素材から工程に至るまで岡本さんの美学が貫かれていると感じ、筆者自身心を打たれました。

近年エシカルやサステナビリティといった言葉が溢れていますが、同時にそれぞれの倫理観や信念がぶつかり合う、二項対立の場面も多く見られます。そもそも命とは、そして命の循環とは何か。人間・生き物・自然環境のつながりという大局的な視点を持って考えることの大切さを感じました。

また、誰にも真似されないものづくりを追求する岡本さんの姿勢にもインスピレーションをいただきました。誰かが真似できるデザインは、結果として誰でも大量生産できるデザインに汎用されていく。そうなると、同じようなデザインであるがゆえ、手で作られた高価なものでなく、機械で作られた安価なものが消費者に選ばれる。そういった流れもあって、今の大量消費社会が生まれているように思いました。だからこそ、人間の手でしか生み出せないようなデザインを探究していくことは、手仕事の存続における鍵の一つになるのではないかと思いました。

素材、従事する職人、デザイン、そして販売というコミュニケーションに至るまで、どのような美意識が宿っているのか。そうした視点は、私たちが真に目指したい「エシカル」へと自ずと導いていくのではないでしょうか。 

<参考>(※1)NIKKEI「エゾシカの「個体数調整」 死を心で受け止めて」
(※2)エコレザーの詳細は、「日本エコレザー基準認定事業」のサイトから!

KHOHi
HP:https://www.khohi.net/
Instagram:@khohi_375

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