九州産業大学と実証実験を開始しました。|「関係デザイン」と「キャリア開発」の接続で進化するキャリア教育の未来
持続可能で良質なつながりを生み出す「関係デザイン」を提唱し、このフレームワークを活用することで社会への貢献を目指すツナガル。
ツナガルは本年より九州産業大学と共同研究を開始し、「関係性」がもたらす社会的価値の実証を進めています。本取組の趣旨と今後の構想について、ボードメンバーの竹林にインタビューしました。
■話を聞く人
竹林 謙
ツナガル創業メンバー。大学院で認知科学を専攻し、広告代理店に入社。東日本大震災の復興事業はじめ社会課題におけるデジタルコミュニケーション設計を担当。2015年から1年のバックパック生活を経て2016年にツナガル福岡オフィスを立ち上げる。九州全域での地域課題解決をはじめ、関係デザインや共創事業に取り組む。
九州産業大学と連携し
関係デザインの価値実証を目指す
ー 今回テーマとなった「関係デザイン」について教えてください。
竹林 ツナガルのR&Dチームでは、持続的で良質なツナガリが生まれるための理論、フレームワークである「関係デザイン」の研究開発をしてきました。
私たちは「関係性=ツナガリ」というものが、組織やコミュニティにとって資産になることに着目し、ツナガリが創出し得る社会的価値を考察しています。
「関係性」というものは、実はどこにでも存在しています。
たとえば国際的な関係性、地域と地域外の関係性。
あるいはもっと身近なところだと、上司と部下、親と子、先生と生徒なども関係性と言え、広狭さまざまな関係性があるわけです。
このような「関係性」を持続的で創発の源泉になるべく意図的にデザインする方法が、私たちの提唱する「関係デザイン」です。
ツナガルの旅行事業や共創事業では「関係デザイン」を活用した顧客支援を行っています。
人と人が持続的に交流するための設計やファシリテーションをし、ツナガリを強固にするのです。
マーケットにおける実践の積み重ねを経て、私たちは「関係性」の影響力に手応えを感じており、「関係デザイン」を活用することで、人それぞれの人生にインパクトを与えることができるのではないかと考えています。
ー 九州産業大学との共同研究のきっかけや趣旨を教えてください。
竹林 私たちは「関係デザイン」の有用性を肌で感じる一方で、「関係デザイン」が生み出す価値を定量的に示す難しさを課題として抱えていました。そこで手を取り合ったのが九州産業大学の小田部貴子准教授です。
小田部准教授はキャリア教育や教育心理学を専門領域とされているのですが、研究対象としてツナガルの「関係デザイン」に興味をもってくださったことが、今回の連携のきっかけになりました。
私たちには関係デザイン理論が世の中の役に立つだろう、社会的インパクトが創出できるだろうという信念があります。一方で、関係デザイン実施前後の行動変容や態度変容のエビデンスがないのが現状です。
顧客から「どんな効果があるの?」と問われたときに、説明可能な状態に理論付けしておく必要がありました。
そこで大学と連携し実践することで、効果測定と実証が進む。これがツナガルにとってのベネフィットです。
他方、大学側のメリットは、キャリア開発における新しいメソッドやフレームワークを生み出す際に「関係デザイン」の研究結果を役立てることができる点です。
小田部准教授は学生ひとりひとりの社会的な成長や、キャリア開発をサポートする環境といったテーマを研究されています。
今回の取組では、「関係デザインを学んだ学生のキャリア可能性」を研究されます。
「関係デザイン」がキャリアに及ぼす影響を考察、さらに学術的な観点からキャリア開発の方法論を確立し、その体系的なメソッドを社会に提供していくことが大学の研究機関としての意義だと言えるのではないでしょうか。
もちろん学生にもメリットはあって、「関係デザイン」を身につけることによって、自分自身が想像しえなかったキャリアの広がりをつくることができる、教室の中やゼミの中で関係性を意図的に広げることによって多様性を育むことができる、自分一人ではなしえないような新しいことにチャレンジすることができるなどといったプラスの効果があると思います。
新たなキャリア開発フレームワークの社会実装で社会的インパクトを生み出す
ー ツナガルの事業構想と本共同研究の接続はどんな点にあるのでしょうか。
竹林 ツナガルでは、新規事業として「地域と共創する学びの場(以下、学びの場)」の創業を構想しています。
ツナガルのミッションのひとつに『ツナガリをつくることで地域課題を解決する』というものがあります。
地域を、観光する場所から学ぶ場所へと認識を変えていくことで、関係人口をつくろうという事業を推進しています。
今後開設予定の「学びの場」では、企業の新卒研修や中堅社員のリカレント教育に向けたワークショップを実施します。若手社員のキャリアビジョンのスケールアップや、中堅社員のリスキリングやアンラーンに寄与するようなプログラムを地域とともにつくっていきます。他にもたとえばワークショップの題材を地域課題に設定することで、参加者が探求心をもって地域を探ったり、自発的に地域に関わるきっかけになるでしょう。
ここで重要になるのが、「関係デザイン」フレームワークを活用したプログラムの有用性の証明です。
効果試算を求める顧客(社員を研修に派遣させる企業等)に対し、実績の定量データを示すことができる状態を作っておくことが、大学と連携して実証していく意味になると考えています。
ー 共同研究のその先にあるビジョンを教えてください。
竹林 一番最初に打ち合わせをしたときに小田部准教授のアイデアでは、学術研究の成果を産業界に還元し、経済的なインパクトを生み出していくという構想でした。
具体的には、大学がつくったフレームワークをもとに、スタートアップ企業がキャリア開発プログラムを作成する、あるいは教育機関や教育機関を補佐する企業に対してキャリア理論を提供するなどです。
小田部准教授も今後、キャリア研究に「関係デザイン」を掛け合わせて自己効力感を高めるプログラムをつくったり、研究に参加した学生が自らツナガリの作り手になれるようなフレームワークの作成を手がけられていくでしょう。
大学教授も研究者というメンタリティーに加えて、イノベーターであるということですね。
ツナガルもまさに同じ視点に基づいて、世の中にないものをつくろうとしているチームです。
ツナガル側の展望は、大学が確立したフレームワークを海外の研究機関と横連携したり、地域、世界、環境問題…と、接続先を増やしていくことを考えています。つながりの接続先を複雑多様化していくことによって、対象者ひとりひとりの目線がスケールアップしていくわけです。接続先を増やすということは新たな視点の獲得という意味でも、次世代の担い手の育成につながるはずだと考えています。
ツナガルと九州産業大学は、相互の知を掛け合わせて創出した新たなキャリア開発フレームワークの社会実装で、経済的なインパクトを生み出していくことを将来的なビジョンとして描いています。