見出し画像

アラサー女の銭湯観察日記

銭湯に行きたい。
6月になり蒸し暑くなると、ガンッと天から落下した隕石が頭に直撃したかの如く、銭湯の事しか考えられなくなった。
とにかく汗をかいて気持ち悪くなったら風呂を求めるのが人間、仕事どころではない、とここまでブツブツ考えていた時、頭をよぎったのは近所の昔ながらの銭湯。
壁に厳かな富士山が描かれているに違いない、広々とした風呂が頭に浮かんだ気がした。

そう、その銭湯は私がまだ幼子の頃に一回行ったきり。
母の手に引かれてないと歩けないほど小さく可愛らしい子供だった私は、数年後には二分の一還暦を迎えるほど年齢を重ね否応なしに成長してしまっている。
よってどんな風呂だったか正直覚えていない。

それはともかく銭湯に行きたいのだが、
一つ大問題があった。
昔ながらの銭湯故の番頭さん問題だ。
近所の銭湯は、番頭さんにお金を渡して入るスタイルを令和になっても貫いている、格好良い銭湯なのだ。
番頭さんは番頭台といって、男女の脱衣所の中間にある高い玉座に鎮座し、銭湯の平安を保っている。
つまりそれは、風呂に入る者は例外なく、脱衣所でのお着替えを番頭さんに公開する事を意味するのだ。
いくら銭湯の平安を守っている番頭さんとはいえ、男性に嫁入り前の操を公開するのは私でも羞恥心が爆発してしまう。

そこで私は考えた。
番頭さんが女の人になるタイミングを突き止めれば良いと。
それから私は犬の散歩と評して毎日銭湯の横を通り、番頭さんが男か女か観察し始めた。
この時間の番頭さんは女の人…というようにデータを収集し始めたのだ。

しかしここで再び壁にぶち当たる。
番頭さんは既に風呂に向かって鎮座している。
つまり、外・入口から見える番頭さんの御姿は後ろ姿なのだが、後ろ姿では性別の見分けがつかない程凛々しい刈り上げベリーショートヘアの方が鎮座しているタイミングがあるのだ。
白髪混じりの為、年齢はおそらく年配の方。
ぱっと見男性にも見えるが、座高の高さから女性にも見えなくない。
おじさんに見えるおばさんなのか、おばさんに見えるおじさんなのか、おじおばさんなのか、おばおじさんなのか…

調査開始から既に2週間以上が経過したが、未だにあの方の性別の判別はつかず、7月に突入してしまった。
大人しく女の人の時にいくか、一か八かでベリーショートの方の時にいくか。
どう考えても前者なのだが、いつの間にか銭湯に行く事よりもあの人の性別がどっちなのか気になって仕方のない自分がいた。

アラサー女の銭湯観察日記。
いつか番頭さんと顔を合わす時が楽しみで、でも少し、びびっている。

写真は銭湯観察に付き合わされている愛犬です。
ケンタッキーの前で立ち止まっています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?